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(15) 同盟『クレィジィ』会議②




 とは言え。この空間からの離脱が絶望的に思えていた2年前、そんな話をいきなり持ちかけられたところで。すぐさま首を縦に振ることの出来たメンバーは、おそらくいなかったはずだ。

 当時その話をされても、ヤシャマルは到底信用できなかった。

 確かにワタナベの言葉に力はあった。が、あるかないかの可能性を信じて、延々とスキルを回収するための試行をくり返そうだなんて。




 ――正気の沙汰とは思えないが。




 当人を目の前にそう言ったことを、今でも覚えている。

 そして、その言葉に対して相手がなんと返してきたかも。




 ――じゃあ、俺が今から言うことをよく聞いてくれ。そんで一週間後、この世界がどうなったかを確認してみてくれよ。この賭けに乗ってくれるかどうかはその後で決めてくれりゃあいいから、さ。







「……うーし、打ち終わりっと! 皆サンキュー!」




 周りが既に別の話へと移行しかけていた中、先ほど教えてもらったスキルに関するメモを終えたワタナベは、両手を組んで伸びをしながら言う。




「『悪食の胃袋』と『炎舞』は欲しい、『ハジマリの奇跡』も優秀だけど開発系ノータッチだから俺には厳しそうだしなー。『文明開化』は効果のほどを検証してみたいとこだ、条件そこそこゆるいし内容次第じゃ全員とってもいいかもしれねーな。カラスのは全部いらねーや、逆にすげえ」

「はっ、甘いなリーダー! 『画面中毒』の条件が累計時間ってことは、この世界にいる限り何時発動してもおかしくねえんだよ!」

「ああ、分かってるぜカラス! 俺のポジティブさをもってしても誤魔化せないぐらい、運営の意地の悪さしか感じねースキルだってことはな!」

「お前……実はBANされたいと思っているんじゃないだろうな?」

「あぁっ嘘です運営様! 今日も元気に活動できて幸せです運営様!」

「リーダー、その笑顔すごい悪人っぽいよ?」




 ひょうきんな台詞もさながら、大口を開けて高笑いしているその姿は誰がどうみても子悪党ある。

 たまに本当にコイツについていってもいいんだろうかと不安になるが、攻略に対して最も貪欲であり、最も優秀なスキルを持っているということは認めざるを得ない。

 ――そのことはこれまでの経験で、メンバーの誰もがよく理解している。




「では、最後はリーダーの取得スキルのお披露目ですか?」

「おっと、そうだな。良いのも悪いのもあるけど、全部言うからちゃんと聞けよー」




 自分のウィンドウをガチャガチャとせわしなく操作しながら、ワタナベは内容を確認しつつ目を細めた。




「まず『一攫千金ギャンブラー』。条件はカジノ都市『ベリーナ』で10000回ギャンブルするってので、効果は戦闘時の攻撃火力が2,5倍、ただし耐久3割カット。んで次、『ぱーりーぴーぽー』。ギャンブルで5000回負けると、戦闘時の状態に『ハイテンション』が付くけど受けるダメージが1,5倍。『折れない心』、ギャンブルで7000回負け、被ダメした時に低確率で即効扱いの反撃が出来る。『一張羅を溺愛せよ』、ギャンブルで10000回負け、防具系の装備を1つしかつけていないときにその値が3倍になる。『愛されるべきバカ』、ギャンブルで20000回負け、博打系な技の失敗率が上がるかわりに成功時に急所必中。『廃人寸前依存症』、ギャンブルで30000回負け、ギャンブル屋見つけたら強制的に入店させられて100回なんかするまで出られなくなる。お前ら、30000回以上負けるなよ」

「そもそもやらないよ」

「何というか……お前がどこで何をしていたのかが良く分かるな……」

「有り金全部溶かすまで負け続けてやったぜ! 正直そこらの飲んだくれに聞きゃあ知ってただろうけど、同盟メンバーでもないヤツの結果なんてあてに出来ねーと思って自分でデータ取った」




 ずっとダンジョンに潜っていたのかと思えば、そんなことはなかったらしい。勝ち続けるほうではなく負け続けるほうから検証しているのがワタナベらしい。

 馬鹿みたいな数値の羅列に、改めてこの男のスキルに対する執着を見る。





「嘘でもつかれてたらたまりませんからね。今日日、そんなことをするプレイヤーもいないかもしれませんけど」

「初期の騙しあい上等だった頃が懐かしいなー、あれはあれで地獄みてーな時代だったけど。……あの頃の熱意が続いてねーってのは、悲しいもんだね」

「なあ、この話題やめよう? 俺、自分がめっちゃ年寄りになった気分なんだけど」

「……5年過ぎてるんだよな」

「ユウヒ!! 冗談にならねえからそれ以上は喋るな!!」




 ようやく口を開いたかと思えばぼそりと爆弾発言だけ呟いて、ユウヒは再び肉をとっている。一人で半分ぐらいは食べつくしているのではないだろうか。そんなに肉が好きか。

 



「ふっ……安心しろユウヒ、俺はわかっているぜ? このままだと延々と話がそれ続けるから、無理やり話を戻そうとしてくれたっつーその思いをよ……」

「……どうしてお前はそんなに痛いんだ?」

「いたい? そいつぁ俺の辞書には載っていない言葉だなぁ。んで続きな――」




 そういいながら残りのスキルについて解説していく。『神の見捨てた砂漠』に関するものがほとんどだ。普通ならそこまで試行する前に飽きて潜るのをやめそうなものだが。

 むちゃくちゃな集中力というか、バカというか。


 おそらくこの20日間をギャンブルと砂漠潜りで費やしたのだろうと思うと、感嘆や羨望を通り越して精神状態が心配になってくる。

 画面に向かってマウスを連打するようなものや放置しておいても何とかなるものならばまだしも、実際に動き続けている感覚を体感するVRでこれだけずっと同じ事をくり返すというのは、普通の神経ではできないだろう。




 ――それだけコイツは本気で、何とかできると信じているということだが。




 その心意気を理解しているからこそ、この同盟『クレィジィ』は今日も続いているのだ。




「よーし、んじゃあ『こんなことしてたらこんなスキルゲットできました』発表会も終わったことだし……今回の会議の本題に入らせてもらってもいいか?」




 そして。今までとは違って少し真面目なトーンで発された言葉で。

 この場の全員の視線が、ワタナベへと集まる。




 不定期に開催される会議は、全てワタナベの手によって日時が決められている。

 別にリーダー権限で決定できるからというわけではないし、そもそも同盟だから会議をしなければならないという理由はない。




 ――俺はな。大事なことは全員の顔をちゃーんと見て、話したいと思うタイプの人間なの。




 初めての会議の時。そういって語られる内容が本当に重要であることは、その時には全員知っていた。

 同盟結成の呼びかけから一週間で、彼らは否が応にもにも知らされたのだ。


 ワタナベの持つスキルの中に、最早システムに足を半分突っ込んでいるといっても過言ではなさそうな――この世界で起きているシステム改変やアップデートを知ることが出来るものが、あるということを。





「――勿論内容は、俺の『ハックラック』で見えたこの世界のアップデートについて、だ」






作中で省略したワタナベの解説スキル



『熱帯の住人』

条件:ダンジョン『神の見捨てた砂漠』を500周回する

効果:状態異常『火傷』にかかりにくくなる


『月と獣にご用心』

条件:満月の夜の間に『神の見捨てた砂漠』を攻略する

効果:夜間限定レアモンスターが出現しやすくなる


『攻略のプロ:神の見捨てた砂漠』

条件:『神の見捨てた砂漠』の最下層にいるボスを500回撃破する

効果:『神の見捨てた砂漠』の限定レアアイテムが出やすくなる


『植物図鑑』

条件:植物系モンスターを30000体撃破

効果:今まで戦闘した植物系モンスターのレベルを仮定したステータスシミュレーションが出せるようになる

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