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(14) 同盟『クレィジィ』会議①




「――はい、というわけで! えーと第……第……47回! 会議をはじめるぜ!」




 ――大量にあった肉も半分ほどに減った、午前10時過ぎ。

 頭のたんこぶ部分に氷水の入った袋を乗せたリーダー――ワタナベは、宣言するとその場に胡坐をかいた。

 ヒガンの手持ちアイテムの中にはたんこぶを即座に治せるものも勿論あったのだが、当人の中ではこのままの状態にしておいたほうがおいしいと言う結果に落ち着いているらしい。全くこの男のしたいことは分からん、と思いながら、ヤシャマルも地べたに腰を下ろす。ああ、だがしかし。




 ――そもそもここにいるメンバーはどいつも、何を考えているのか分からんヤツばかりだったな。




 円を描くように座る全員の顔を眺めつつ、そう思い直す。ちなみに円の中心にはバーベキューコンロが堂々と鎮座しており、未だにその中で肉を焼き続けている。誰もどけようとしないしそのことについて何もコメントしない辺りが、この面子の変人たるところを物語っている。




「まずは恒例、『こんなことしてたらこんなスキルゲットできました』発表会ー。誰から行く?俺からでもいいぜ?」

「いや、リーダーは最後でいいと思うけど。どうせなげーんだろ?」




 いつものこと、と言わんばかりのカラスの発言に、ワタナベはまぁな、と胸を張る。




「分かるぜ、最後に回すことでリーダーを立たせてくれようと言うお前の気持ち……」

「あーはいはい、リーダー様は相変わらずのポジティブシンキングですねぇ本当に」

「つってもさぁ、今回ちょっと少なめでさ。10個しか見つからなかったんだよなー辛いわー」

「2日に1つのペースじゃないですか。配信始まって何年も過ぎてるゲームでそんなにごろごろ見つけてくるのやめていただけませんか? あとそのドヤ顔もやめていただけませんか?」

「ええー、俺に言われましてもー。未だにこんだけ見つかるぐらいスキル追加しまくってる運営とか、ドヤ顔作れるぐらいVRのクオリティ高めにした運営とかに文句言ってもらわないと」

「悪口は程ほどにしておかないと、強制BAN食らうかもしれないぞ」

「あぁっ嘘です運営様! 今日もこのゲームから脱出できなくて嬉しいです運営様!」

「えっと、じゃあ私から発表しても良いかな?」




 このまま続けば果てしなく脱線していきそうな会話を繰り広げる男達(うち1人は黙ったままだが)の流れを、すっぱりと切り上げてくれたのはアカネだ。

 自身のウィンドウのスキル一覧を開き、並び順を取得順に変更すると、詳細を確認する。




「私は2つ。『文明開化』と『好事家の閃き』。『文明開化』はプレイヤーが執筆した本を100冊以上収集すること、『好事家の閃き』はこの世界の本を500冊以上読破で取得できたよ」

「ほうほう、そりゃあどっちも新顔だな。内容は?」

「ええと……、装備とかアイテムの名前に『レトロ』が入っているものの使用効率が上がるっていうのと、ここで本を製作して販売した際の売り上げが1,2倍になる、だね」

「成る程。ちょっと待ってな、今メモってるから」

「へえ。これって、僕が新しく発明する武器に『レトロ』という名称をつければ、それでも効果が発揮されたりするんですかね?」

「どうなんだろ? そのあたりについては書かれてないや……良かったら試してもらえると嬉しいかな。とりあえず、私のはこれで終わりだよ」




 報告を済ませると同時にアカネがウィンドウを閉じると、じゃあ次は僕が行きますか、とヒガンが名乗り出る。ワタナベが先ほどの内容を自身のメモ欄に打ち込んでいる中、特に気遣うこともなく自分のものの情報提供を始めた。




「僕はこれですね、『ハジマリの奇跡』。オリジナルアイテムにαの文字を入れた数が100回を越えると取れるみたいです。効果は戦闘時に一番最初に選んだアイテムを、消費無しで使用できるようになると言うものです」

「へえ、すごいね! 便利そう」

「ええ。おかげで素材を発明に回しやすくなりましたね。しかしこんな条件で出てくるスキルがあるとは思いませんでしたよ、正直」




 にこにこと笑いながら説明しているのは、本人としてもかなり嬉しいスキルだからだろう。ヤシャマルとしても、今後死ぬほど同じ場所を周回しなくてもよくなりそうでありがたい話である。




「あーヒガン、何だって? 『ハジマリの奇跡』?」




 一番内容を把握したがっているワタナベが追いつけていないようである。

 律儀にメモを取っているからだろうが、こういった報告はさっさと進めて言ったほうがよいだろう。




「じゃあ、俺も言っておくか。名前は『炎舞』。火属性の武器を200種類使用で発動で、火属性装備時の被ダメ回避率を一定上昇」

「待てってヤシャマル、俺まだヒガンのヤツメモってる途中だから」

「……『悪食の胃袋』。異常状態『毒』にできるモンスターを3000回以上討伐、戦闘中に受ける『毒』を無効化」

「何それ羨ましい。 俺は『画面中毒』と『短文愛好家』、あと『通信制限』だな。ウィンドウを開いてる時間が累計30000時間突破でウィンドウを1日1時間しか開けなくなるっつーのと、一言メッセージを1000回以上送信で10文字以上のメッセージが送れなくなるヤツ、それに1ヶ月のメッセージ量3000回突破で1日20回までしかメッセージ送信不可能になるって感じな。ええそうです全部マイナス系だよ、即効でスキル除去店行って外したわ!」

「あ、良かった。解除可能なスキルだったんだ」

「お前らのリーダーを試してやろうっつー心意気はとても好きだ。だがな、ヤシャマルもユウヒもカラスもアカネも話進めないで止まっても良いんだぜ? リーダー愛見せてくれたって良いんだぜ?」




 周囲でわいわいと騒いでいるメンバーに素敵な笑顔を向けながら、ワタナベはメモ欄に今聞いた情報を打ち込んでいく。別にリーダーの仕事と言うわけではなく、スキル収集に余念がない彼の日課だ。




 スキルを制するものが世界を制すといっても過言ではないこの『ラスト・カノン』の舞台だが、肝心の取得方法に関しては分からないようになっている。

 どれだけのスキルがこの世界に存在しているのかも、どんな条件が達成されれば使用できるようになるかも、プレイヤー側には少しの情報も与えられない。かつて自由に出入りできた頃なら、ログアウトしている間にネットでの情報収集を行って欲しいスキルの取得条件を確認したものだが、永住状態の今それは出来ない。


 それに5年前の時点で出回っていた類は既にこの場にいる全員が把握、取得済みのものばかりで――今彼らが探しているのは、当時まだこの世界に追加されていなかったもの、或いはまだ見つかっていなかったものだ。




 事実。新しいダンジョンの実装やイベントの追加、新モンスターの出現など、『ラスト・カノン』は未だに普通のゲームと同じように稼動を続けている状態である。

 プレイヤーがログアウト不可能となり、ポイント制度という形への大型アップデートがなされ、それが尽きたときには強制的にロストするようになったということを除けば――このゲームは以前とそれほど変わりなく、動き続けている。





 ――それはどう考えても、不自然すぎる話なのだ。





 今が一体どういう状況なのか、生身の身体がどうなっているのか、そういったアナウンスも一切無しに。まるで以前と何も変わっていないかのように環境を維持している、それ自体が。




 ――5年間。それは、閉じ込められたままでいるには、あまりにも長すぎた時間。脱出をあきらめ、ここでの生活を受け入れてしまうにも、納得のいってしまうような時間。

 その不自然さへの疑問すら腐り、皆が心の中から捨て去ってしまうには、十分すぎる時間だった。




 その流れを受け入れたプレイヤーが大半の中。

 彼らは未だに存在しているかどうかも分からない脱出への道筋をゲームの攻略に求め、戦い続けている。

 時にその行動に不真面目さを加え、冗談を交わしながらも。目標は、同盟を組んだ日から少しも変わっていない。




 ――未だに変化し続けているというならば。システムをアップデートし続けているというならば。


 元凶となった何かの企みが、終わっていないというならば。


 動き次第では、この世界からの脱出を可能にするという変化を遂げることもありうるはずだ、と。




 そう言ったリーダーの言葉をきっかけに、この同盟『クレィジィ』は作られたのだから。


 



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