渋谷へ
遠藤樹理の出演するパーティー当日。
開場が21時の為、20時30分に渋谷のハチ公前に幸と待ち合わせすることになっていた。
「おっせぇ……」
竜がタバコをふかしながら待っていると、時間ピッタシに幸がやって来た。
「先輩、早いですね!」
「……お前、スーツでいくのかよ?」
「私服で行くか迷ったんですけど、ほら、僕って貴公子ですから」
浮かれてんじゃねーよ、と内心毒づいたが、気を取り直して会場に向かった。
道玄坂の方角に進み、少し入り組んだ通路をスマホを頼りに進んで行く。
「ここです、先輩」
渋谷のアンダーグラウンドな一帯の中に、その建物はあった。
地下に500人程度収容できるスペースを有する、2階建てのコンクリの建物である。
「っし、行くか」
地下に続く階段を降りると、会場の前室にたどり着いた。
脇には黒服の男が立っている。
先に幸が進むと、男がボディチェックをし、お楽しみ下さい、と扉を開けた。
続けて竜が進む。
しかし……
「その格好ではダメです」
「はぁっ?」
「舞踏会の雰囲気を損なわないよう、ドレスコードを設けております」
聞いてねーぞ! と叫んだが、男は取り合わない。
開場まで、後15分を切っていた。
「はあっ、はあっ…… くっそ……」
竜は猛スピードでドンキに向かっていた。
もしかしたら、コスプレ的な服で何とかなるかもしれない、そう思った為だ。
ドンキに到着すると、ダッシュで階段を駆け上がり、そのコーナーに向かう。
丁度ハロウィンのシーズンのため、それ関連の衣装が多く並んでいた。
「……クソがっ」
竜はある衣装をつかんでレジに向かった。
それは、ドラキュラの衣装であった。