遠藤樹里
「初めまして、遠藤樹里です」
「は、初めまして…… えっと…… 俺の名前何だっけ?」
「もう、緊張しなくていいのに。 じゃあ、黒髪君でいいかな?」
竜は完全に上の空だった。
自分が何を話しているのか、それすらも分からないまま5分が経過した。
「もうカードを出す時間みたいよ」
「えっ! あっ、ホントだ」
竜は今まで適当にカードを出してきた為、何が残っているのか分からなかったが、5という数字を見て神様に感謝した。
そして、お互いカードを出し合う。
「……あれっ!?」
樹里が出したカードは5だった。
「ごめんなさい、あなたが嫌だったわけじゃないんだけど…… たまたま残った数字がこれだったの」
この後、竜は幸がいることも忘れ、放心状態のまま家に帰った。
翌日、どうにかベッドから這い出て会社に向かった。
会社に到着し、喫煙スペースでタバコを吸っていると、早速幸がやって来た。
「先輩、昨日はどうだったんですか?」
「……うるせぇやい」
まるで親に怒られた長男のような態度である。
「……お疲れ様です、先輩」
「お前はどうだったんだよ」
「僕は3人から聞き出せましたよ。 ヨモギちゃんとルビーさんと遠藤さん」
「マジかよっ!」
喫煙スペースにでかい声が響き渡った。
「なあっ、遠藤さんのメアドを教えてくれっ」
「せ、先輩がそんな必死になるなんて思わなかったです。 それなら、メアドなんかじゃなくて、直接会いに行きましょうよ」
幸は彼女から来たメールを竜に見せた。
「もうやり取りしてんのかよ…… ん? 私の演じるジュリエットを見に来て下さい?」
「彼女、演劇をやってるんで、その誘いですよ。
恐らく他のメアドを手に入れた男にも回してると思います」
仮にあの会場に来ていた男がみんな5のカードを出していたら、幸以外にも3人がメアドを手に入れたことになる。
「彼女を狙う相手は多いですよ。 当日は戦場になりそうですね」
戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。