VSジュリエット
メールは遠藤樹里からであったが、少し様子が違った。
内容は短文でこう書かれていた。
あなたともう一度話がしたい。
ジュリエット
竜は、何で今更ジュリエットが出てくんだ? と疑問に思ったが、約束通り飲みに行けることに舞い上がり、細かいことは気にしなかった。
適当な居酒屋でいいか? とメールを送ったが、おいしいイタリアンの店がいい、と言われたので、その店を探して予約を入れた。
仕事終わりに渋谷の駅で待っていると、遠藤樹里がやって来た。
「アンドリュー、行きましょう」
強引に腕を絡めてくる。
「ら、らしくねぇな」
「詳しいことはお店で話すから」
そのままイタリアンの店に到着。
中に入ると、テーブルに向かい合わせで座った。
「……遠藤さんは何注文すんだ?」
「ジュリエットよ。 姉さんはもう眠ったままだから」
竜は、何の冗談だ? と問い詰めた。
まだ何か試す気だとしたら、さすがに質が悪い。
しかし、冗談でも試している訳でもなかった。
「ジュリエットは遠藤樹里の別人格よ。 そして、私はあなたのことが好きになってしまったの。 だから、姉さんにはずっと眠っててもらう」
「ふ、ふざけんな! 俺は…… 遠藤さんが好きなんだ、お前じゃねぇ!」
ジュリエットは、竜を哀れむような目で見てから、こう言った。
「姉さんは、あなたのことを何とも思っていない。 利用した形になって、罪悪感は感じてるみたいだけど、異性として魅力を感じてる訳じゃない」
その言葉が、竜に突き刺さった。
分かっていたとしても、事実として突きつけられるのは辛い。
それでも、遠藤樹里を引き出さなければ、と竜は思った。
「関係ねぇ! 相手に面と向かって振られるまでは、俺は諦めねぇ!」
「……じゃあ、直接振られてみる?」
しめた! と竜が思ったのもつかの間、ジュリエットは、なーんてね、と言って馬鹿にしたように笑った。
「無駄よ」
竜は、もう最後の手段に出るしかない、と覚悟を決めた。
これを遠藤樹里にも聞かれているとすれば、竜の恋は幕を下ろすことになる。
「……結婚してんだ」
「……は?」
「俺、結婚してんだよ!」




