不良
会社から少し離れたコーヒーショップ。
ここに2人の男がやって来た。
一人はボサボサの髪でポケットに手を突っ込んだ不良サラリーマン。
もう一人は、身だしなみの整ったさわやか風サラリーマンである。
2人はコーヒーを注文し、喫煙のできるテーブルに着いた。
「先輩、今日も夕方までここにいるんですか?」
そう質問したのは、中途で入社した福田幸(28)
身だしなみの整っている方だ。
「るっせーな、俺はやる気がねぇんだよ!」
答えたのはこの物語の主人公、安藤竜(35)
ボサボサの方だ。
当初、上司から「お前も後輩が出来れば少しは責任感が出てくるだろう」と言われ、下を付けられたのだが、竜にとっては丁度いい暇つぶしができた、くらいの認識であった。
「ラッキー、今何時よ」
「……その呼び名はやめて欲しいんですが。 今、9時を回った所ですね」
腕時計をチラ、と見て幸が言う。
「おっせぇ…… ラッキー、何か面白いスマホのゲームねぇの?」
その時、竜の携帯の着信が鳴った。
「っべ! 上司だわ!」
竜は後輩にはでかい態度を取れるが、上司などの目上の人間には頭が上がらなかった。
「はい! あ、今向かってます。 電車の中なんで、また後でかけ直します。 はい、すいません」
ブチ、と携帯を切る。
「今の電話は主任ですか?」
「……電源切っとけ」
はぁ、とため息を付いて幸が携帯の電源を落とす。
「先輩は結婚もしてるのに、そんなモチベーションが低いのが不思議でならないですよ」
「うるせーな。 俺はしたくてしたんじゃねぇ」
「もしかして、できちゃった婚ですか?」
「……」
竜は子供云々以前に、結婚した相手のことが好きになれなかった。
「先輩、今日もどうせこうなるだろうと予想して、有意義に過ごせる方法を考えてきました」
「何だよ?」
「婚活パーティーに付き合ってください」