卵
映画館でチケットを購入。
タイトルは「黄身の名は」
世界各国の卵を紹介していくドキュメンタリー映画である。
途中、これ絶対話題になってるやつじゃねぇ!
と思う竜であった。
見終えると、2人は映画館から出てきた。
「何か、オムレツ食べたくなっちゃったね」
「……! じゃ、1時間だけ飲み行こうぜ」
適当に街を歩いて居酒屋を探し、中に入る。
「えーと、2名で」
「当店は全席禁煙ですが、よろしいでしょうか?」
「タバコ吸えないって。 大丈夫?」
「い、今禁煙してんだ。 気にすんなよ」
店員に案内され、メニューを開く。
卵焼きとほうれん草のバターソテー、から揚げを注文し、ビールで乾杯する。
しばらくはお互いの話などをして、次第に竜の緊張もほぐれていった。
「遠藤さんの病院にはうちのメーカーの製品入ってんのか?」
「どうかなぁ…… 使い方は分かるけど、メーカーまで見てないからなぁ」
気付けば時刻は23時を回っていた。
終電まで飲んでいたかったが、ここは気を遣い早めに切り上げようと提案する。
店の外に出て、別れ際に聞いた。
「また飲みに行きてーんだけど……」
返答にしばらく間があった。
そして……
「安藤君は私のことをどう思う?」
思ってもみない質問である。
社会人をしている以上、気のない相手に貴重な時間は割けないということだろうか。
「俺は、遠藤さんのことが好きだ」
竜は自分の胸の内を答えた。
「本当に本気?」
「ああ!」
「それなら、これを……」
遠藤樹里はバックから黒い卵を取り出した。
「ゆで卵?」
「グロウエッグよ」
遠藤樹里は経緯を話始めた。
1年ほど前、中国に旅行に行った時、とある露天商から購入したものらしい。
卵は所有者の感情に応じて育ち、喜びや楽しみの感情を与えて育てると、天使が羽化して願いを叶えてくれる。
しかし、逆に怒りや悲しみなどの感情を与えて育てると、悪魔が生まれ持ち主を食らうとのことだ。
「最初は白かったのに、気付いたら真っ黒になってた。 この1年、結構患者の死に触れたから……」
元カレにも相談したが、自分でどうにかしろと言われたらしい。
その彼とは別れ、自分の為に命を張ってくれる相手を探していたとのことだ。
竜は、遠藤樹里は自分を利用するためにデートに来たのか? と疑った。
竜の中に裏切られた、という失望の感情が広がっていく。
「……」
「……ごめんなさい。 無理ならいいの」
「それを受け取ったら、また飲みに付き合ってくれるか?」
それでも、竜は卵を受け取った。




