VSキテレツ
「先輩、大丈夫ですか?」
幸がハンカチを竜に渡す。
「あー、痛ぇ……」
ハンカチがみるみる血で染まった。
「それは先輩にあげます。 次はキテレツか泥棒ですけど……」
相手が仮装していた場合、その特徴も変わっているだろう。
幸が周りを見渡すも、それらしき人物は見当たらなかった。
「……分からないですね」
「番号を調べる為に何かしら動いてくんだろ。 特にキテレツなんて頭良さそうだしな」
2人が警戒して辺りをうかがっていると、竜が何かを聞いた気がした。
空耳かと思ったが、一応幸に確認を取る。
「……おい、何か言ったか?」
「え? 何も言ってないですけど」
「……気のせいか」
ところが、クラシックの曲が終わり、次の曲に移る数秒の隙間に、またしても何かが聞こえた。
それは、かすれた悲鳴のようなものであった。
「おい、やっぱ何か聞こえるぜ。 誰か監禁されてるとかじゃねーだろーな……」
「や、やめて下さいよ……」
ふと、竜が目を細めた。
精一杯体を縮こまらせ、力の限り何かを叫んでいる男がいる。
「か、かしだぁー」
まさか、と思いその男に近づく。
「おい! お前、火事が起きてるって言いてーのか?」
「……」
察するに、この男がキテレツで、火事が起こればこの会場にいる人間がみな外に出て、ジュリエットの元にダイヤル無しで会いに行ける、そう思ったのだろう。
「それがお前の作戦かよ。 でかい声が出せないなら発信機を押してベル鳴らした方がはえーだろ」
「か、固くて押せなかった」
「……」
この後、無理やりスマホを奪い取り、番号を確認した。
番号は4であった。