VSアメフト
「せ、先輩! 無茶ですよ!」
「安心しろ、策はあっからよ」
しかし、やはり不安そうな表情で竜を見送る。
大股で近づいて行くと、アメフトが竜に気づいた。
「……なんだ貴様」
「憲兵になりきってる所わりーんだけどよ、ダイヤルの番号をかけて俺とタイマン張れ」
2人を取り囲む様にギャラリーが出来る。
アメフトはニヤリ、と笑って拳を振り上げた。
グシャリ、とパンチが竜の顔面にめり込み、鼻から尋常じゃない血が滴った。
「うぐっ……」
悲鳴が上がり、幸も駆け寄ろうとするが、竜が手で制す。
更にもう一発アメフトがパンチを繰り出したが、かわして懐に飛び込み、クリンチを仕掛けた。
「てめぇっ!」
アメフトが抱きついてきた竜を振りほどくと、借りてきた衣装が血まみれになっていた。
「おいおいおいおい! クリーニング代弁償しやがれ!」
「……分かったよ、1分待ってろ」
素直な行動に、キョトンとしたアメフトだったが、ATMに向かったのだろうとしばらく待っていた。
宣言通り1分後、竜が戻ってきた。
「早かったな」
「ああ、続き始めようぜ」
手には金ではなく、AEDを持っていた。
これは、人の集まる施設などに設置することが義務付けられている心肺蘇生装置である。
「その汗と血で絶縁の落ちた状態なら、よく電気が通るぜ。 ちなみに、1300ボルト、30アンペアの電流がお前の体に流れる」
竜は医療機器の営業であり、AEDに関しては詳しい。
AEDの蓋を開け、電源を入れた。
「やめろ……」
アメフトの顔が青ざめ、後ずさる。
「スマホを置いて行きやがれ」
「……わ、分かった」
アメフトが床にスマホを置くと、竜がそのまま退場するよう促し、番号を手に入れることに成功した。
「番号は、8か」