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No.3

「隻眼の、錬精師?」


 錬金術師、ではなく錬精師と聞き慣れない言葉がきた。

 琥珀は問う。


「錬金術師とは違うんですか?」

「んー違うな・・・と言いたいところだけれど、そこまで俺も詳しいわけじゃないからな。さっきも言ったが、俺には錬金術の才能がないんだ」

「それは、生まれつき?」

「まあそうだな。錬金術なんて生まれた瞬間に才能が有るか無いか分かる。血ぃ少し抜き取って見れば分かる検査みたいなもんだ。コハクは・・・錬金術師すら知らなかったから、受けてる訳ないか」


 琥珀は頷いて、視線をニックから遠方に連なる山へ移す。


「ニックさん」

「ニックでいいぞ」

「・・・これから俺が話す事、聴いてくれますか?」


 琥珀は信じてくれとは言わなかった。

 その言葉がフワフワした、約束できないものということを知っていたから。

 それに対して、ニックは何かを察したのか。目つきが少し変わった。

 ニックは見た目三十代前半でおとこという顔していたから目つきが変わると強面になるが、琥珀からしたら真剣に聞いてくれるという顔をしていると見えた。


「何か、あったのか?」

「・・・僕は」


 そこからは琥珀自身がここで目覚めるまでの経緯をまとめて、なるべく伝わりやすいよう考慮しながら話した。

 途中、どう言えば良いか分からなくなり、沈黙してしまう間があったが、それでもニックは口を挟まず琥珀の話す内容を訊き洩らさないように心を傾けた。

 ようやく話し終えたのは半刻経った頃だった。


「・・・」

「・・・終わりです」


 沈黙。

 聞こえるのは崖から流れ落ちる滝の音、どこからか聞こえてくる発信源が不明も心地よい音。

 ニックはあぐらをかいて腕を組んだまま、ずっとそのままだった。

 唐突にファンタジックな話を聞かされ考え込んでいるか混乱しているのだろう、と琥珀は思い、双方沈黙を続けた。

 しばらくして、沈黙を先に破ったのはニックの方だった。


「・・・なあ、コハク」


 この後にどういう言葉が来るか、あらかじめ琥珀は予想していた。

 どんな返しが来てもいいように何通りも。


「お前、疲れてるんだよ」

「・・・」


 この返しも予想の内だった。

 だが、やはり信じているか信じていないかと言えば、後者である。

 

「きっとうまいもん食えば疲れも吹っ飛ぶさ。これも何かの縁だろう、飯おごってやるから食べに行こう」

「へっ」


 これは予想外だった。

 愛想をつかして琥珀を置いて帰る。琥珀自身はこう思っていた。

 しかし、実際には置いて帰るどころか食卓を囲もうと誘いを受けた。


「いや、そんな急に」

「大丈夫だ、近場にあるんだ。知り合いが経営ってる酒場が。上手いし、何よりその店主が例のヤツだから見せたいんだ、コハクに」

「例のヤツ?」

「ああ。錬金術師様ってやつさ」


 ニックは立ち上がり、首を鳴らし上体を反らす。

 琥珀に手を差し伸べ、こう言う。


「俺はそういう話は分からん。だが、酒場の店主にもう一度話してみるんだ。そいつは俺よりも話を聞くのが上手い」


 琥珀は内心迷っていた。

 このままニックに付いて行こうか、それともこのまま一人で居ようか。

 今まで人から避けてきた彼には、あまりコミュニケーション能力というモノが備わっていない。

 だから、酒場と聞いた時は人の多い場所というイメージから、ニックの誘いを遠慮するはずだった。

 そう内心では決断した。

 けれども、自然と体がニックの差し伸べてきた手を取って立ち上がっていた。

 その理由は、いくつかある。

 一つ。

 このまま未知の場所に居てもどうしようもないから。

 一つ。

 錬金術というものを見てみたいから。

 そして最後に。

 ニックは琥珀を気味悪がらなかった。

 琥珀を見てきた人間で、奇異の目を向けられたことは数知れず。それどころか気味悪がり、グループと言うグループから今まで省かれていた。

 なのに、こうして自分を招こうとしている人物が目の前に居る。

 だから、内心とは裏腹に自然とニックの手を取った。


「よし、そいじゃ行こうか」


 ニックは歯を見せて笑った。

更新が遅れました。

これからも遅れる事はあると思いますが、どうかお付き合いいただけると嬉しいです・・・

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