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No.2

 夢の中に居るような心地と琥珀は思った。

 死んだ事に気が付かず、夢を見ていると思っている。

 だって今、自分が居るところは上下も左右も分からない白の空間なのだから。平衡感覚が狂いそうで、酔ってしまう。

 そして、耳ではなく頭に直接声が聞こえてきた。

 お気づきになられましたか、と。

 柔らかみがあって温かさもある良い声だ。

 貴殿はその尊い命を投げ出して人を一人救ったのです、と。

 そう言われた時に、あの瞬間がフラッシュバックして琥珀を落胆させた。


「・・・・・」


 でも、と。

 脳に響く声は先ほどよりもやけに明るい。

 貴殿は本来この世界に生まれるべきではなかった人材です、と。

 見知らぬ声に自分が今まで生きてきた18年間を否定され、少し怒りを露わにして琥珀は問う。


「どういうことなんだよ。その言い方だと僕は今までの全てが無駄だったって言ってるように聞こえる」


 申し訳ありません、言葉を選ぶべきでした、と。

 先ほどの明るい声からは想像できないほど申し訳なさそうな声をしていた。

 ですが意味はそのままの通りです。貴殿はまだ消えてはいけない存在なのです、と。

 琥珀はこの脳に語りかけてくる声が言う事の意味を理解出来てはいなかった。

 だから一先ず、これだけ訊いた。


「君は、一体、誰?」


 するとその声はこう答えた。

 私は誰もが知っているもの。誰もが知らないもの。誰もが求めるもの。誰もが求めないもの、と。

 これまた意味が分からず琥珀が再度訊こうとしたが、その声は続ける。

 私を見つけ出してください、片桐琥珀ッ!! と。

 

 ここで謎の声との会話は最後に、片桐琥珀の意識は切れた。



***



 瞬間、琥珀は目を覚ました。

 彼の目に最初に飛び込んできたのは海、かと思えば雲の無い痛々しい青空だった。そして、今自分が大の字になって仰向けに寝ている体勢だと把握した。

 五体満足な上に感覚がある。試しに手を握って開いてを数回繰り返し、両足を真上に振り上げた。その反動で上体を起こす。

 視界に映る景色が上に流れていき、空から目の前に広がるの景色へ。

 

「うわあ」


 思わず声が漏れてしまう程の絶景が琥珀の目に飛び込んできた。

 崖から流れる滝、青々しい草原、遠方には雪でメイクされた山々、その麓には広い森が。

 ひどく、眺めと見晴らしがいい場所に琥珀は居た。

 

 ここで琥珀は違和感に気が付く。

 今までならこうした景色を見るにも眼鏡の縁に邪魔されてうっとおしいと思っていたのだが、今はそれが無い。というよりも、眼鏡自体が無かった。にもかかわらず、琥珀の視力は眼鏡をかけた時のそれ以上だった。

 不思議だが、幸運というほかない。生まれつきの弱い視力が治ったのだ。

 

「・・・・・」


 一体、何なんだろうと琥珀は思った。

 たしか自分はワゴン車にはねられたはずだった。その瞬間こそ記憶が無いものの、それに至るまでの過程は記憶がある。夜の散歩をしていたら・・・という過程が。

 なのにこうして今、僕は心臓が脈打ち、呼吸をして、五体満足に動けている。

 なんのイタズラだろうか。

 真剣に考えれば考える程、混乱していくばかりだった。

 琥珀は自分の両手を開いて、見る。

 相変わらず色素が薄くて、少しばかり白い肌をしている。だが、変わりない。

 自分の両手の平を呆然と眺めている琥珀だった。

 が。


「おーい、お前。何してるんだ、ここで?」


 琥珀に向けられた男の声がした。

 声のする方へと振り返り、琥珀は驚く。

 何故なら、答えはその男の格好にある。

 赤の西洋甲冑のような装備、赤のマント。その左胸には円を喰らおうとする蛇のマーク。

 そして何よりも視線を引かれるのが、その男が手にしている大振りの両刃の剣だ。


「ここに人なんて珍しいな。普段は俺が息抜きにここに来てるくらいだから、そうそう居ないんだけどな」

「誰ですか?」

「おいおい、それはお互いさまだろ。俺はニクソン=ヘイル、〈サイムキシダン〉の団長補佐だ。お前は?」

「・・・か、片桐琥珀です」

「カタギリコハク、ね。珍しい名前だなー!」


 男は大振りの剣を腰の鞘に納め、琥珀に近づいてくる。

 なんてマニアックな恰好をしているんだ、と正直に琥珀は思った。 


「俺の事はニックでいい。コハクはなんでここでなにやってたんだ?」

「え・・・あ、いや、自分でも分からないんです。気が付いたらここに居て」

「ふーん。そうか。酒にでも酔ってたのかな、アッハッハ」


 ニックというその男は琥珀の近くまで来ると、最初の琥珀の体勢と同じように、大の字に草原の上に寝転がった。

 西洋甲冑のような装備は間近でみるとそれほど大袈裟なものではないという事が分かった。その証拠に、ニックが寝転がった時に大して装備同士がきしみあう音がしなかった。


「はー、やっぱりここはいいな。落ち着く」

「・・・あの」

「ん? なんだ?」

「〈サイムキシダン〉、て何ですか?」

「え、コハク知らないのか!? この国じゃ一番でかい錬金術師対策団体なんだけどな」

「れ、錬金術師・・・」

「ああ。奴らも度が過ぎる事を頻繁に繰り返しやがるからな。それの対策で、錬金術の才能が無くとも対抗できる団体、それが〈才無騎士団〉だ」

「・・・」


 大の字に寝転がったままニックはそう言う。彼はさも常識だろ、という風に言っているが琥珀にとっては何かの新しい冗談かと思ってしまった。

 錬金術師?

 才無騎士団?

 一体何のことだろうか。そう思った。


「あの、もう一つ訊いていいですか?」

「おお、いいぞ」

「錬金術師、て何ですか?」


 それこそ、信じられないといった顔だった。

 目を大きく見開き、口をあんぐりと開けたニックは思い切り起き上がり、琥珀に問いかける。


「コハク、それ本気で聞いてるのか?」

「い、いや、何かの冗談か何かと・・・」

「マジか・・・。錬金術師ってのは、賢者の石を造り出すことを最終目的にしている言わば学者で、俺みたいな錬金術の才能が無い凡人には理解しがたい力を持つ奴の事だよ。ただし、その最終目標をとげるためにはマッドになるやつも珍しくない」

「へぇ・・・」

「コハク、お前ホントに何も知らないのか?」

「はい、何も」

「でも、その目・・・」


 咄嗟に琥珀は自分の右目を手で覆い隠してしまう。トラウマのようなものだ、当然の反応だと言える。


「・・・アハハ、すみません。僕みたいな目なんてしてたら気味悪いですよね・・・」


 自滅的な事を言って無理な笑顔を作って誤魔化す琥珀だったが、ニックの反応は琥珀の予想とは違った。


「いや、待ってくれ。前に何か聞いたことがあったような・・・」

「・・・?」

「・・・そうだ、アレだアレ!」


 ニックは不意に大声を出して、こう言った。


「『隻眼の錬精師』!」

早くもタイトル登場してしまいました・・・

読んで頂けたら幸いです!

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