怪しい声
「うーん。またか」
勤務地に近いアパートを見つけて、すぐに引っ越してきたが入居早々悩まされている。
「また変な商売でもしてるのか?」
表向きには勤務地に近いという理由だが、前のアパートの衝撃的な出来事が本当の理由だ。
「仕方ない。いい機会だからキチンと話をしたほうがいいな」
挨拶の時は唯一応じなかった隣の部屋の住人だが、大家さんに聞いたところ、どうやら夜型の人らしく日中は出てこないことが多いそうだ。
「すいませーん」
インターホンを慣らして返事を待つ。するとすぐに返事が返ってきた。
「はい。どちら様でしょうか?」
声を聞く限りでは女性だな。前の出来事もあったため油断せずに答える。
「私は、この間引っ越してきた者です。御挨拶に周った時、御不在でしたので改めて御挨拶をと御伺いしまして」
淡々と答えたらインターホンの向こう側が少し騒がしくなった。
「しょ、少々お待ちください!」
ガシャン! ガコン!なにかしらの金属音や家具が忙しなく動いている音がする。玄関越しからも聞こえてきて焦っているヨウスが丸分かりである。
「ど、どうぞ」
出てきたのは若い女性だった。ただ若者特有のエネルギッシュさは感じない。
部屋へと通されて、茶菓子を出される。見た感じ良い所の奥さんに見えなくもない。落ち着いた雰囲気で特に怪しい点は見当たらない。
しかし、私の心が警告を発しているのである。「この女は何か隠している」と。
「それで御挨拶ということですが・・・」
「ええ単刀直入に言わせてもらいます。お宅の部屋から毎晩変な呟き声が聞こえてきて気になって眠れない時があるので出来ればやめていただきたいと」
「え?」
「すみませんが、あなた何か隠していませんか?」
女性の言葉を遮って単刀直入に物申す。回りくどいことは嫌いなのだ。直後女性は目に見える動揺を見せた。顔が青くなっているのだ。やはり隠している! 私は辺りを見回して怪しげなクローゼットを見つけた。途端に女性が汗を流してワタワタするようになった。
「いや、その、か、隠すだなんてそんな・・・わ、私はなにも」
これはもしや犯罪か! 私の正義の心に火がつきクローゼットに一直線に動き出す。
「いや! そこは! やめてください! そこを開けないでー!」
「犯罪現場はここかーー!」
勢い良くクローゼットを開けると、そこには怪しげな小道具が沢山詰め込まれていた。
何の生物か分からないものが入っている瓶や水晶、御札など、あらゆるものがあったのだ。看板のようなものが立てかけてあり「美佳の館」と書いてあった。
「・・・これはなんです?」
顔を真っ赤に染めて汗が吹き出ているであろう女性に問いかけた。
「あの、私占いとかすごい好きで、それが高じて占い師になったんです・・・あの私の声のせいで眠れないということは本当に申し訳ないと思っています。」
ペコペコと頭を下げて謝罪している。
「いえ・・・こちらこそ疑って申し訳ございません。そうでしたか。占い師・・・」
「はい・・・」
俯いて申し訳なさそうにしている女性に私は謝罪の言葉を送る。
「お茶菓子ありがとうございます。お邪魔しました。それとこれつまらないものですが・・・」
「あ、はい」
御挨拶用の御菓子を渡して、何事もなかったかのように自室に戻って布団に横になる。
「いやあ! 良かった! 占い師で!」
私は安堵の表情を浮かべて天井を見上げた。