イトトスガタ
私が私のままでいる。それはどういうことなのか、今一度思惟してみる。
私の心はみっつの層から成り立っている。
ひとつ、決して他人の目に触れることのない真実。
ひとつ、大切な人間を欺く虚偽。
ひとつ、無関心な人間をもてなす優しさ。
どれも私であることに相違ない。ただ、本来私の心はひとつであったというのもまた事実だ。
弱きものは私に縋ろうとし、強きものは私を不幸に貶めんとする。
愛されなくて当然だ、私の真実が拒むのだから。
私の真実には、一度だけ君という名が存在した。愛を含んだ手が抵抗なく相手の躰を貫く感覚。その手は熱くて、でもそれは目頭に感じるような痛みで、そしてその手は、心まで伸ばしはしなかった。
そうして君との間を結ぶ糸は、繋がることなく絡まった。それを私たちが絆と呼ぶようになったのは随分と後のことだ。
君は僕の腕を引きちぎった。
手が触れた時からそれはもうわかっていて、その痛みに負けない強さを、私は既にもっていた。
絶たれた糸は二度と絡まりさえしなかった、張りを失って1本ずつ先端が触れているだけの偽物だった。
私から離れるのは容易なことで、対してその逆は、きっと不可能なことだった。
互いが互いを、そう思っていた。
それが唯一私たちが知るのことの出来たことで、私たちの全てだった。
優しさの内側、愛の外側は窮屈で、それ故に君の白さだけに染められていた。
けれど、いつしか糸は、君の心と共に離れていった。
私に恋人ができても、その白が穢れることはなかった。今も触れれば傍に姿を感じる。それは多分時間の止まった君ではなくて、今もどこかで笑っている……
私たちの生きた世界がもし同じだったのなら、他の誰よりも深く、結ばれていたのだろうか。
そうして私は思い出になった君を思い出して、寝息を立てる恋人の隣でまだ、私は泣くのだった。




