4話
そしてあたしは日々の訓練を欠かすことは無かった。時にはカインお兄ちゃんに相手をしてもらう事もあったが、基本的にはあたしは 一人で剣技を磨き、それ以外にも魔法なんかも少し練習してみたりもしていた。今までは魔法なんて扱うことも出来なかったが、イーリスに来てからは魔道書もあり、それを読むことで、少しだけど魔法も使えるようになってきた。
そして、王宮に来てから三年が経とうとした頃、体調を崩していたお爺ちゃんの容体は急変した。そして、なぜかあたしとカインお兄ちゃんはお爺ちゃんの下に呼ばれることになる。
その時の言葉をあたしは忘れる事が出来ない。
「シャーリーン……今まで辛くあたってすまなかった…………」
あたしはお爺ちゃんの手を握りながら、その言葉に涙した。
「だがな……わしはこの国を護らねばならん……そこにもう一人の王位継承権を持つ者が現れれば、それは国を乱す事になりかねんのじゃ……だから……」
「お爺ちゃん、もういい。話さないで。解ったから」
あたしは涙を流しながら、お爺ちゃんの手を握り続ける。
「シャーリーン、お前には申し訳ないと思っているが、これからも身分を明かす事なく一生を終えてほしい。そして、お前の妹の事を頼みたい……あれにとっては……お前が唯一の血のつながった家族になる……もちろん、シャーリーンお前にとってもな。あの子の事を影から支えてやってはくれんか? これはワシからの最後の頼みじゃ……どうか、聞き入れてほしい……」
そう言うお爺ちゃんいあたしは強く手を握り返して返事する。
「解ったよ。大丈夫、あたしがちゃんと妹の事を見守るから! 安心してお爺ちゃん」
あたしのその言葉を聞くとお爺ちゃんは安心したかのように微笑み、あたしを部屋から下がらせる。
そして、次の日お爺ちゃんは亡くなった。あたしは、カインお兄ちゃんにその事を聞いて、声を上げて泣いた。
数日間は国葬だなんだと忙しい日が続いたようだが、あたしは部屋の中に閉じこもりっきりで、特に何かをすることはなかった。そう、あたしはもうこの国の表舞台からは存在しない者へとならなければならなかった。
幸いあたしを知る人間は限られていた。その人間たちの前からあたしの存在を消せばいいだけで、それ程難しい事は無かった。
そう、あたしの存在を消すには二つの方法が考えられた。最初の一つは恐らくカインお兄ちゃんがいる限り無理だろう、あたしの気持ち的にも物理的にも。ならば、もう一つの方法……そう、あたし自身を殺してしまう事。それが一番早く確実な方法だった。そして、それをあたしは実行することにした。と言っても本当にあたしが死ぬわけではない。死んだように見せかけるだけでいい、それも一番親しい人にあたしが死んだと思い込ませればいい。そして、別人になってまた戻ってくる。そう、王位継承権も何も持たないただの人として戻る……お爺ちゃん、これで安心できる?
そして、あたしは計画を実行した。崖の上から飛び降りる所を確実にカインお兄ちゃんに目撃されるように仕組み、そしてその下の河からは死体は上がらない。幼稚な手ではあるし、確実性もないが、死体が上がらない以上あたしは死んだことになるだろう。
もしかするとカインお兄ちゃんはあたしの死を疑うかもしれないが、遺書でも残しておけば、疑われる事も無く、死体を必要以上に探す事も無いだろう。そしてあたしの人生はここで一度途切れ、そして別人として生きていく事になる。