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2話

 それからどれくらいたったのか……一日か二日か、それとももっと短い時間だったのか解らないが、あたしは眼が覚めた時には牢屋のような所で眼が覚めた。

 鉄格子の中にはあたしがいた村の人以外にも、顔を見たことが無い人達もいっぱいいた。恐らくいろんな所から連れてこられたのだろう。いったいどうなるのか? 幼いあたしにはさっぱりわからなかったが、周りの大人の話を聞いて恐らくあたし達は奴隷として売られていくのだろうと思った。

 それがどういう意味なのかは全く解らなかったが、とにかくそれが悪い方に進んでいることは幼いあたしでも理解できた。

 それから数日、あたしの周りはどんどんと入れ替わっていき、あたしもついに奴隷商人に売り渡される時が来た。

 あたしはどうなるんだろう、不安しかなかった。どう転んでもあたしの人生はこの先真っ暗闇の中を進んで行くだけだろう……あたしは……

 その日からあたしは自分を殺した。奴隷商人に引き取られ、すぐにあたしは売りに出された。まだ幼かったあたしをどれくらいの金額で買ったのかは解らないが、あたしはどこかの貴族に買い取られた。

 貴族の家であたしは家主に良いように弄ばれた。それは今思い出しても身の毛もよだつほどの事を幼いあたしにむかって毎日毎日……あたしは感情を殺し、考える事を止めた。あたしはただの肉の塊になった。

 そんな日々が何年続いたのか解らない。あたしは成長するにつれ、家主からは飽きられ、地下牢のようなところに閉じ込められるようになった。そして思い出したかのように、時折あたしのところに来ては、身動き出来ないような状態にして、私の身体を傷付けて行く。

 そんなことを繰り返していたある日、屋敷はいつもと違う妙な雰囲気に包まれていた。

 金属同士が擦れ合うような音と、煙臭い臭い。一体何が起こっているのか、地下牢に閉じ込められたままのあたしにはわからなかった。しばらくすると、一人の男が地下牢に近付いてきて私の牢の前に立ち、私の身なりを見て、私が奴隷で有ることを確認すると声をかけてくる。

「自由になりたいか?」と。

 すべての物に諦めていたあたしにはその言葉眩しすぎた。そしてあたしは何の躊躇いもなく大きく頷いた。ここから出られるなら、自由になれるのならあたしはなんだってする。だから男のいった条件もあっさりと承諾した。男の言ったことは特別難しいことでもなかった。

 あたしは家主の貴族の前に連れていかれた。そしてあたしを牢から出した男はあたしにこう言った。

「お前の主を殺せ。自ら鎖を断ち切れ」そう言って男はあたしに剣を渡す。あたしは受け取った剣を両手で大きく振りかぶり、命乞いをする家主の頭にめがけて降り下ろした。あたしの力では一撃で致命傷には至らず、あたしはうるさく女のような悲鳴を上げる家主に何度も何度も剣を降り下ろした。

 家主の声が聞こえなくなって、反り血を浴びながらも、あたしは剣を叩きつけ続けた。もう原型をとどめなくなった頃、ようやくさっきの男があたしのことを止めた。

「もういい。お前の意志は解った。今日から俺が飼ってやる」

 あたしは、少なくとも今まで以上の自由を手に入れた。その代償はそれほど難しい事ではなかった。今まで通り感情を出す事をしなければなんてことは無い。ただの肉の塊を作ればいい、それだけ、なのだから。

 それからあたしは盗賊団の仲間入りをし、両手では数えれない位の肉の塊を作ってきた。その過程で様々な技術も磨いてきた。男と比べると力の弱い女のあたしがこの世界で生きていくには、何よりもスピードが大事だった。そして誰にも気が付かれることが無いくらいの隠密性。あたしはいつの間にかかなり有名なアサシンになっていた。そして、あたしの名前が有名になるにしたがって、あたしのいる盗賊団もだんだんと知名度が上がった。

 そして、それに伴って軍隊の討伐隊が組まれるようになりだした。その軍隊の討伐隊を退ける度にあたしたちの盗賊団は人数を減らしていき、ついにはあたしと数人しかいなくなってしまった。

 そして最後の軍隊の討伐隊を目の前にした時、あたしを除く総ての仲間達は逃げ出してしまい、あたしだけが取り残された。それでもあたしは軍隊の隊長らしき男に差し違える覚悟で走り寄った。どうせ、生きていても死んだような人生しか歩んでこなかった。だから、あたしはそれほど生きる事には執着していなかった。それに、生き残れるという自信もあった。伊達に今まで生き残ってきたわけじゃなかったし、暗殺対象が厄介な相手の事もよくあった。だから、目の前の軍人を肉の塊に変えて、そのまま逃げだそう。あたしはそう考えていた。しかし、目の前にいた男はあたしよりも早く動き、あたしに剣を振りぬく。あたしは寸前の所でその剣を短剣で受け流す。しかし、その軍人のもう片方の手に持った剣が、あたしの首をめがけて振りぬかれる。その瞬間あたしは死を覚悟した……

 しかし、いつまでたってもその瞬間は訪れない。なぜならあたしの首の皮ほんの少し手前でその剣は止まっており、あたしの身体には全く傷もついていなかった。あたしはその事の意味が解らず、軍人の顔を見上げる。兜を脱いでその顔を見た時、あたしは思わず忘れていた名前を口に出していた。

「カイン……お兄ちゃん……?」

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