1話
今思えば良い人生だった……あたしは今までの人生を、そう言う言葉で締め括ることが出来そうだ……
二七年前、あたしは父ブルーノと母リーズの間に産まれた。父の傭兵団はあたしの産まれた村を拠点とし、いろんな所を転戦していた。父はあたしの産まれた村が故郷な訳ではなく、イーリスの生まれだと聞いていた。イーリスの結構良い家の出だとは聞いていたけど、詳しい話は結局母からは教えてもらえなかった。
物心つくまではあたしは幸せだった。父は傭兵として一流で、稼ぎもよく、あたしたちは裕福とまではいかないが、食べるに困る事は無かった。しかし、母はいつも父の身を案じていた。それはそうだろう、傭兵と言う仕事は命の危険が常に付きまとう仕事だから。
母は常々父に傭兵を辞めて欲しいと言い続けていたが、父は傭兵団でもそれなりの立場と言う事もあり、そう言う訳にもいかなかったようだ。
母はいつも悲しそうな顔をして見送っていたが、あたしは父が帰って来るたびにたくさんのお土産を持って帰って来てくれるのと、父の従者のカインお兄ちゃんが遊んでくれるのが嬉しくて、いつも笑顔で父とカインお兄ちゃんの事を見送っていた。
そんな生活があたしが五歳になるまで続いた。
そしてその日、母とあたしはいつものように父の事を見送る。いつも村のあちこちで見られる同じ光景だ。傭兵団は村の外で隊列を組み、行進していく。馬に乗った父は遠くからでもはっきりと解り、あたしは父とカインお兄ちゃんに向かって無邪気に手を振りそれを見送る。また、父達のいない生活が暫く続くのかと、あたしは少し残念に思っていたが、父が持って帰ってくる大量のお土産とカインお兄ちゃんがまた遊んでくれる事をもう心待ちにしていた。
そして父達が出征したその日の晩の事だった。突然村を襲った悲劇は、容赦なくあたしを悲劇の主人公に変えた。
父達が村からいなくなったのを見計らったように、盗賊たちがあたしたちの村を襲ったのだ。もともと村にいた男たちは武器を持って戦ったが、それで押し返せるような人数ではなかった。村人の抵抗は盗賊達の前にあっさりと終わりを告げ、そこからは盗賊たちが村を好き放題に荒らし始めた。
もともとあたしの村は父達の傭兵団がいたことから、それなりにお金を持った人が多かった。そこを盗賊達に襲われ、めぼしい物は殆ど略奪され、抵抗するものは殺され、女は連れ去られた。母は何とかあたしだけでも逃がそうとしたが、それが見つかってしまい、抵抗した母はあたしの目の前で切り捨てられた。血塗られた母の顔が、あたしが最後に覚えている光景だった……