神様の小姓 ~神様の新年~
年越し後の神様と小姓さんの様子を書いてみました。
よろしければお読みください。
新年を迎える準備の段階から駄々をこねてサボりたがる神様を焚き付けて、なんとか神界から人界までやってくることができた。
なんか、やってきたというよりは、引っ張ってきたとか、引き摺ってきたという方が正しい気がしなくもないけれど、そこはまあ気にしない方向で。
それも神様が道中のたいして進んでもいないところで、『休みたい』だの『眠い』だの『疲れた』だのとぐずってしまうからで、これで実は偉い神様だったりするのだから困ったものだ。
結局、神様の祀られている宮に到着したのは年が明ける寸前だった。当然といえば当然だけど、“一年の祈願を”とやってきている方も深夜だというのに大勢見えているね。寒い季節にほんと大変だ……。
「神様っ、目を離した隙に寝ようとするんじゃないですっ。ほらほら、もう新年を迎える人たちが集まっているんですから、しっかりとお勤めお願いしますよ」
「えー……、少しくらい休んだっていいじゃないのよぉ」
「何言ってるんですか、せっかく祈りを捧げに来てくれた人たちがいるんですから真面目に見てあげてくださいよ」
「どうせ祭殿の扉が開いている訳でもないし、外の方が明るいだから見えやしないってぇ」
「そういう問題じゃないんです。心構えの問題ですよ」
「しょうがないなぁ……」
「一年に一度の晴れ舞台みたいなものなんですからちゃんとやりましょう。もう年も明けますよ」
普段はなかなか僕の話を聞いてくれないけれど、さすがに時と場所と場合を弁えているのか、いそいそと神様は御神体とされている“とある遺物”の前に陣取り、瞑想を始めてくれた。
多くの人が祈りを捧げに来てくれているとはいえ、さすがに人数が人数だからすべての祈りを聞き届けることができるわけではない。そこは神様でもしょうがないことらしいので、まあ、時には諦めも肝心ということだ。
ただ、強い祈りは運ばれてくる時に輝いて感じるらしいので、そういう強い気持ちに対して少しでも多く応じることができるように瞑想を行って精神を集中するのだとか、そういうもっともらしいことを以前仰っていた記憶がある。輝いて感じるってのはあくまでも比喩で実際に光る訳ではないのだろうけどね。僕も毎年見ていると少しずつ判断ができるようになってきている気がする。
「神様、ちゃんとがんばってくださいよ。僕は休憩がちゃんとできるように奥の場を整えておきますからね」
「…………」
集中しているのか返事が無いけれど、きっと大丈夫だろう、大丈夫だよね。
こうして見ている分にはやっぱりちゃんとした神様に見える。威厳も感じるし、明かりもないというのにどことなく淡く光っているようにも感じる。
僕は輪廻に従って転生した訳ではないので、生前の記憶もしっかり残されている訳だが、宗教やら神様という世界に全く興味の無く、知識のなかった僕にでも名前に聞き覚えがあるくらいに高名な神様に仕える事になってしまって、最初は恐れ多く慎重に接していた訳だ。
しかしながら、この神様、訪ねてくる他の神様の応対をほぼ小姓の僕に任せきりだったり、衣も履物も脱いだら脱ぎっぱなしだったり、寝るとなったら起こさないといつまでも寝ていたりとあまりにも自由に振る舞っている。
神話で伝わっている内容に嘘や偽りは無いらしいけど、それが全部って訳じゃないからねーなどとカラカラと笑い飛ばす始末なのだ。
仕えて数週間で、最初に感じていた威厳が無いも同然になってしまい、叱りながら仕事をさせる兼業助手みたいになってしまった。
宮の裏手にゆっくりと寛げる場所を整え、一年置いておかれて少し綻びの見えていた境界の引き締め直しを行った。神様の好きな御神酒も揃え、憩いの準備も整ったところで、様子を見にやってきた。神様は一見相変わらずちゃんと瞑想をしているように見える。
でも、そんな神様の様子に嫌な予感を覚えた僕は神様の背後にまわって、起きていれば聞こえる程度の大きさの声で呼びかけてみることにした。
「神様、ご苦労さまです。ご休憩の準備が整いましたがいかがいたしましょう」
「…………」
「かみさまー……」
……、反応がない。これはいけないな。
「神様っ、何寝てるんですかっ!!お勤めはどうなっているんですか!!!」
「ひぃっ!」
耳元で大声を出して叱ると、奇声を出して飛び上がる神様。これが何でもないときなら可愛げもあるんだけどねぇ……。
「神様、今度は聞こえてますね」
「う、うん……」
「返事は『はい』です」
「はい……」
「今はどのようなお時間でしたでしょうか」
「年始の祈願を受け止める時間……、です」
「そうですね。では神様は何をなさっていましたか」
「その、寝てました」
「どうするべきだったのかはわかりますね」
「祈願を聞き届けて、その祈りに対して力として返します……」
「じゃあこれからどうするか、わかりますね」
「集めた祈りに対応をします」
「せっかく休憩の準備を整えましたけど、一通りのことが終わるまで休憩は取らせませんからね」
「えーっ、そん…「反論は聞きません。寝ていた神様が悪いんですから」」
「ううっ……」
「ほら、祈りの心の整理くらいなら僕もお手伝いできますから、早く終わらせますよ」
「……!!ありがとう、ございます……」
いつもこれだけ素直にお礼が言えれば本当に可愛らしい方だと思うんだけどねぇ。どうしても普段の態度が怠惰すぎて、厳しく接しないとちゃんと神様の仕事をしてくれないから、口煩くなってしまうんだよね。
「ほら、気を落とさないでください。お勤めを無事終えたらお忍びで人界の散策でもしてから帰りましょう」
「えっ、いいの!?」
「ちゃんとお勤めを無事に終えてからですからね。適当にやっちゃいけませんよ。心配なので後ろで見てますから」
「約束ね、ちゃんと聞いたからね」
「わかりましたから」
「よし、やろっか」
現金なものだけど、これはしょうがないことかもしれない。様子だけは神界からいつでも知ることのできる人界だけど、実際に訪問する機会となると他の神様でもなかなか近年は無いみたいだし、実際にお忍びで人里に出るとなるともうほとんど機会がないことみたいだから。
「ねえねえ、初売りっていうやつに行ってみたい」
「それは無理ですね、お勤めの期間のうちに終わっちゃいますよ」
「じゃあこっそり……」
「ダメに決まってるじゃないですか!!」
「うぅ……」
「ちゃんとついて行ってあげますから、真面目にやってくださいよ」
「うん……、がんばる」
本当にこの方は自分が神様だという自覚があるのだろうかと時折不安になる。まあでもそんな神様が時には居てもいいんじゃないかなっていう気分にさせてくれるのがこの神様のいいところだろう。お勤めを無事終えた後のことを楽しみに笑顔で祈りに応える神様を見ていると、僕まで幸せを分けてもらえる気がして、今年も一年、大変だろうけどがんばってみようと思うのだ。
読了どうもありがとうございました。
特に前作を読んでいなくても問題ないと思うようにしてみたのですが……、
やっぱりこれは前作読んでいた方がいいのかな。
稚作“神様の小姓”の続きですね。
やっぱり(?)この二人はこんな感じになりました。
どうでしたでしょうか。
それと、前回の短編をご好評いただいた方々、どうもありがとうございました。
彼らの出会いの時点から連載にして書いてみようかどうか、
構想はなくもないのですが悩ましいところです。