2~彼は初めて己の“異”に疑問を持つ。
第2話、新キャラ登場です。
どうぞ、お読みください。
やつの目が光って見えるのは、カーテンから覗く月光のせいだろうか。
「チトセ....ユウシン....」
その声が背中を伝い、身体を震わす。
伸びてくる黒い腕に首を握られ、締めあげられるのが分かる。
何故だろう....苦しいと思わない。
それどころか、動こうとも思わないで、全ての神経がその目に操られているようだった。
「....コチラへ....コチラへ....」
「優真っ!!!!」
自分を示す声に身体の震えがピタリと収まった。
「はぁっ!!」
優真を呼んだ彼がやつの腕を肩から切る。
すけたように見えたが、肩から指先にかけてが消え去った。
と、ほぼ同時にやつ自体も消え去る。
「逃げられましたか....。大丈夫ですか!?優真!」
優真はそう言われて初めて自分が息をしていない事に気が付いた。
季之丸の手が肩に置かれ、慌てて酸素を肺に送り込む。
「けほっ....けほっ....はぁ.....はぁ....!」
「ゆっくり息をしなさい。」
深呼吸を繰り返しようやく息が整ってきた頃、優真は質問で頭がいっぱいだった。
「季之丸、なんでここに....てかさっきの誰!?なんで倒せただ?消えてなかったか?」
「優真、そう一気に質問されては何から答えていいのか分かりませんよ。」
「あ、そうだよな、ごめん。えっと....まず、季之丸はなんでここに? 」
順番に聞いていこう。
「何を言ってるんですか、優真。前にも言ったでしょう。」
季之丸はそう小さく笑うと、左の手のひらを心臓にあて、肩膝を立ててしゃがみ、言った。
「私風妃季之丸は、いつも貴方と共に生き続けていきます。貴方を守り、生かすことが、私目に課せられた生きる意味です。ですので、優真が危険な目にあうと、俺は直ぐにでも駆け付けますよ。」
季之丸は優真物心がついた頃から一緒にいる。
それは幼なじみという感覚ではない。
周りは皆、季之丸は優真のお目付け役だと言うが、それも外れちゃいないのだろう。
「危険な目....あれ、俺、死ぬとこだった....?」
「どうしてそれを俺に聞くんです?」
季之丸はそう言って小さく笑っているが、優真は本当に『死ぬ』という感覚が全くなかった。
それどころか自分の首を絞めていた、やつに恐怖すら微塵も感じなかった。
「なぁ、あいつ....誰なんだ?」
「............さぁ?俺にもわかりません。」
「なんで消えたんだ?」
「俺は勉強は全く駄目ですからね。どういう技術なのかさっぱりですよ。」
「あいつ、機械なのか....?」
「!!!」
季之丸は明らかに動揺した。
口が滑った、というふうに。
「なぁ、知ってるんだろ?季之。」
「さて、俺には分かりませんよ。」
「季之....」
「さぁ、今日はもうお休みになって....」
「季之丸っ!!!」
季之丸の肩がびくりとはねる。
それもそのはずだろう。
優真が誰かを大声で怒鳴るなど、珍しいにも程がある。
決して温厚だから、というわけではない。
怒鳴るほど興味のあることも、信頼に足る仲間も作っていないからだ。
つまり季之丸はその仲間に――むしろ家族のような存在だが、その季之丸に秘密事をされていることに怒鳴ったのだ。
「はぁ....。そこまで知りたいですか。」
「当たり前だ。きっと、今まで俺が変に思ってた自分のことをも全て、関係してんだろ?」
「....貴方は時々、勘が良すぎて苦手です。」
「そんな俺と頼まれてもねーのに、18年以上も一緒にいてんのは誰だっつーの。」
そうあしらってやると、季之丸はわずかに苦笑した。
「貴方ももうすぐ高校を卒業する。確かにそろそろ話していい時期かもしれませんね。」
ふと笑顔を消した季之丸は真っ直ぐに優真の目を見つめ、口を開いた。
その目は....やつの目によく似ている気がした。
お読みいただきありがとうごさいました。
まだまだ続きます。
次話、ついに優真の過去、そして優真自身の事が分かります。
お楽しみに(´ω`★)
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