意識の中〜過去と、今と、未来と、約束
「…………」
ここはどこなのだろう、と三織は首をかしげた。足元を見やれば、綿菓子のようなふわふわの雲のようなもの。その上に、三織はふわふわ座っていた。ふわふわ、ふわふわ。風もなく、ただただ、ふわふわと漂うだけ。
「……………」
見上げれば、上には青い空。太陽がないのに、明るい青。光源がわからないのに、周囲は明るかった。
「ここは、夢うつつ」
三織は隣を見た。いつの間にか、そこには“三織”がいた。いつの間にいたことに驚くことなく、三織は受け入れる。彼女が“三織”だということに疑問を抱かずに、三織は受け入れる。おかしいことに、おかしいと気付かなかった。
「少しは警戒しましょうよ」
長い長い黒髪を背に垂らした“三織”が苦笑を浮かべる。なぜ、と三織は首をかしげる。
「まぁ、別にいいのだけど。でも、ここに逃げ込んではダメよ? 現実を見ましょう、今の“わたし”」
三織は隣にいる“過去の三織”を見て、首を横にふった。それだけで、三織のいいたいことは“過去の三織”に伝わる。
「ダメよ」
“過去の三織”が強くいった。
「せっかく、会えたのよ。あなたは、会えたのよ。気持ちを通じあえる相手に会えたのよ」
三織は悲しく笑う。無理だと、首を横にふって“過去の三織”の言葉を否定する。
「血が、つながってるから? 生きて、ないから? 好きになった人と一緒にいることができるのに、理由をわざわざ作るの? いてもいいのに、いてはならない理由を勝手にこしらえるの?」
“過去の三織”はああもうと、そのあとかなり良くない言葉を使って悪態をつきはじめた。一通り悪態をついてさっぱりしたのか、しばらくして晴れやかに告げた。
「あなたたちは血は繋がっていないわ。だって、多聞は近松から遠松に養子にはいったのだもの。遠松は、生き延びた“あたし”の子孫。あたしと、多聞ではない誰かの子孫よ。だから、あなたたちは血は繋がっていないわ。それに」
“過去の三織”は三織を抱き締めた。ふんわりとひだまりの香りがした。
「多聞は、四日目には帰らない。ずっとずっとずっと、あなたの側にいる。離れはしないわ。ちゃんと、―――る姿、でね」
だから安心してお帰りなさい。
そして、三織は意識が浮上し始めたのを感じた。