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三日目。〜午前、心、行方不明




『……酷いぞー! 子孫ー!』

「……酷く、ない」


 お盆、三日目14日の朝。カーテンの向こうから、いつものように朝日が差し込む。

 朝食をすまし、午前の早いうちから机に向かっている三織の顔には、くっきりはっきりとクマができていた。母たちに何?! と心配されたわけだが、とにかく「暑苦しくて寝られなかった」といえばしぶしぶ納得はされた。昨日は39℃というありえない気温を叩き出した猛暑日だったからである。

 しかし眠れなかった原因は暑さではない。暑さではないのだ。

 原因は、三織が突っ伏す机の上で不貞腐れる小人忍者(ご先祖)忍者に求めることができる。


『どこがなのだー!』


 オレのどこが酷いのだー、と小人忍者(ご先祖)は叫ぶ。三織はうるさい、と思った。耳を抑える気力もわかない。


『子孫を、守ってるんだぞー?!』


 だとしても、説明の仕方にはもっと別の方法があったのではと、三織は切実に思った。





 話は昨夜、就寝前に遡る。

 吐きなさいと悪代官の微笑みで語る子孫に、小人忍者(ご先祖)は重大爆弾発言発言を投下した。


『子孫は狙われておるのだー!』

「はぁ?」


 三織の頭上に、たくさんの疑問符が生まれては乱舞したのは無理もない。


「誰が、何に」


 思ってもみなかった返答に、三織は後悔し始めていた。しかし好奇心というものは何よりも勝るものである。三織はためらうご先祖を急かした―――だから、確かに三織も“酷い”のだ、半分くらいは。しかし好奇心を除いても、自分が狙われておるのだといわれて、はいそうですかとは普通納得はできない。納得できなかった三織は、後悔しつつ良心が痛みつつも、先を知りたかった。

 そして、三織はより後悔した。後悔先に立たず、これを実体験したのである。


『あちらの住人だ』


 ご先祖は真面目に語った。三織はご先祖に、こちょこちょをする手を止めた。


「あちらって」


 三織の額に、手に、背中に、暑さ以外が原因の汗が流れ落ちる。忘れていた昼間に感じた恐怖がぶり返す。

 もう、三織を守ってくれる彼はいない。三織は自分で自分を守るしか、ない。


「い、やぁ……」


 口が、震える。声が、震える。声が、音にならない。

 幼い記憶が、フラッシュバックする。


 ―――境界から、“あちら”のモノがこっちへ来いと手招く。幼い三織は、何も知らないから、ほいほいと騙されかけた。


『ぼくがみーちゃんを守る! 何からも、守るから! みーちゃんに危険が迫っても絶対に、そばにいるから! 僕がみーちゃんを守るんだ!』


 守るよ、といった彼。でも、今はいない。もう、三織の横にはいない。交わした約束も、守られない。

 三織は、無意識に携帯電話のストラップの鈴を握る。これは、約束を交わしたあの日に彼からもらった鈴。彼のお守りについていた鈴。

 力をあらんかぎりに込め、鈴を握る。落ち着けと、自分を叱咤する。


『子孫、怖いのか』


 うつむき、顔を手で覆う三織に、ご先祖が近付く。顔を覗き込み、腕を撫でる。優しく、優しく撫でる。あまりにも優しいから、三織は泣けてきた。

 助けて、と叫びたい。

 助けて、と泣きたい。

 けれども、三織の手をとるのはいない―――


『泣くな。オレが、守るから。絶対、守るから』


 ふと、空気が揺れた。三織がまさに今欲しい言葉を、誰かが紡いだ。三織はびくっと震えて顔をあげた。涙に滲む三織は、戸惑う瞳を見た。


「だ、れ」


 三織の横には、くたびれた忍者装束の若い男がいた。薄暗くてわからないが、偉丈夫だった。がっしりした体格は太くもなく細くもない、無駄の無い体つきだった。顔は愛嬌のある可愛らしい顔つきであったが、今は戸惑いの感情に満ちていた。

 そんな見たことのない若い男性が、三織に手を伸ばそうとしてやめて、ためらいまた手を伸ばそうとして……という行動を繰り返したあと、困ったように笑い、いった。


『あ゛ー……オレだ、オレ』


 三織の脳裏に有名な詐欺の名前が思い浮かんだ。三織は思わずぷっと吹き出す。


『な、何で笑う、子孫?!』


 あたふたと動揺の隠せない彼は、三織を子孫といった。


「し……そん、て、じゃあ……あんた……」


 三織の顔が一瞬にして赤くなり、青くなった。そして、三織はある行動をとった。


 ―――びたああああん!!


 おもいっきり、ご先祖を平手打ちで殴る行動に出た。


『え、あ、何で?!』


 さらに戸惑うご先祖に背を向けて、三織は寝ることにしたのだ。

 でも、寝れなかった。

 でも、寝てしまいたかった。

 顔が赤くなって、青くなってをしばらく繰り返した。

 三織は結局、眠ることができなかった。





「………」


 そして、現在に至る。

 三織の頭の中はぐるぐると二つ三つの感情が渦巻いていた。


「………」


 昨夜、ご先祖と知らないときに、彼を見てときめいた―――薄いとはいえど、彼はご先祖だ。しかも、生者ではない。

 いくら三織が昔からそっち方面に敏感で、触れたり見れたり話せたりできても、彼は生者ではない。そもそも、血のつながりがある時点でアウトで。

 いや、それ以前に。


「………………」


 三織は、彼を好いていたはずではなかったのか。守るといってくれた彼を。


「…………」


 なのにご先祖にときめいた。そう、心ひかれた。守るからといわれて、心奪われた。


「…………」


 三織には、もうわからなかった。自分の心がどこにあるのか、わからなかった。




 そして、時は動く。


「三織ぃー、お客様よー! 降りてきなさぁーい」


 そして、時は残酷である。


 ふらふらと部屋を出る三織は、体のあちこちをぶつけながら階下へ降りる。そんな三織が心配で、ご先祖もぴょーんぴょんと飛び跳ねて後を追う。

 三織を追って階下におりたご先祖は、三織の肩に着地して、訪問者を見た。


「あ」


 そう声をこぼしたのは誰だったか。

 しかしそれは次の瞬間にどうでもよくなる。


「はっじめまして〜、颯天はやての幼馴染みさん♪」


 三織は、泣きたくなった。

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