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一日目。〜夕刻、迎え火

犬吉杯参加作品




 お盆。

 それはご先祖さまを迎える日本古来からある年中行事のひとつ。


「迎え火の準備できたー?」


 遠松とおまつ家も、迎え盆である本日は、他家と変わらずに迎え火を焚いていた。

 ちなみに今は八月、新暦のお盆であり、旧暦のお盆からみて一月遅れのお盆だ。

 迎え盆である日の夕方、晩御飯前のまだ明るい時刻、家族皆で庭先に出て、門の辺りで苧殼おがらに火を点けるのが遠松家の慣例だった。






 今年も遠松家の家族全員が揃った。

 普段は夫の転勤に付き添って北海道に住んでいる、他家に嫁いだ長女・一香いちか

 ようやくまとまった休暇がとれたとぼやく、長らく海外赴任が続く国際派弁護士の次女・二奈にな

 普段は実家から遠く離れた場所にいる姉二人が揃った。

 三女で末っ子である三織みおりはまだ高校生で、年の離れた姉たちが苦手だった。


「ちっちゃい〜、やっぱり女の子はいいよねぇー!」


 再会すれば必ず、抱きつき頬擦りを繰り返す長女。


「みーちゃん、生みーちゃんだ〜!」


 再会すれば必ず、抱き締め離してくれない次女。


「ぐぇ」


 姉と再会するたびに窒息しかける妹の気持ちにもなってほしい、と身長が150もない童顔女子・三織は再会のたびに心の底から思う。






 そんな遠松家、今年は変化があった。


「それ、ほんと?」

「ほんと」


 長女・一香がにへっと笑いながら、長すぎる苧殼を割り、三織へ手渡す。苧殼をもらい、手慣れた手付きで火を点ける三織は、驚きのあまり目を丸くした。ただでさえ大きい目がより大きくなった。


「好きな人に告白するんだ!!」

「えぇ?! 誰、誰っ!??」


 興奮して話す二人の前で、迎え火がチラチラと明るく辺りを照らし始めた。いつの間にか周囲も暗くなり始め、立ち上る煙が暮れなずむ空に漂う。

 毎年通りの、年の離れた姉妹の会話。

 しかし、今年は違う点がひとつ。


「なになに、みーちゃんついにコイバナ?!」


 遠松家の末っ子・三織が、告白をするのだと宣言したのだ。


「誰、誰っ!?」

「なーいしょ! 結果がわかったら報告するから!!」

「えー?」

「報告するから!」


 三織は、決意したのだ。

 いつも、いつも素直になれなくて、今まで引きずっていた。

 このままではいけない、と三織は考えた。危機感を持ったのだ。気の良い彼は、モテるから。

 だから、今年こそ。今年こそ、想いを告げて、この長年越しの想いにけりをつけるのだ。

 両想い、なんて期待しない。

 でも、どうか。

 見知らぬ誰かの彼氏になる前に。

 見知らぬ誰かの彼氏になって玉砕するよりは。

 まだ見知らぬ誰かの彼氏でないうちに想いを告げて、玉砕する方がいい。想いを告げられぬまま玉砕するよりは。

 お盆に帰ってくる彼に、想いを。想いを告げて、片恋に終わりを告げる。







 もう少しで燃え付き、役目を終える迎え火、この役目はご先祖への道案内標識。子孫はここだよ、帰る場所はここだよとお知らせする合図。

『久方のシャバ!』


 ここにも、久方の帰還に喜び踊るご先祖がひとり。



 さぁ、夏はもうすぐ終わりを迎え始める―――今年も、今年だけのお盆が始まる。

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