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Le monde brûlé  作者: フーデリッヒ
人類の終末
14/17

Armes et humanité

――ヴィーグエルン国空軍輸送機“ベウゼッツ”:午前9時00分――





「ぐっ...?!」

ユーラは突然、何かに心臓を貫かれた様な感覚に陥った。

「おいっ、大丈夫か!」

護衛についていた兵が駆け寄る。

「大丈夫、大丈夫だよ...。」

朦朧とした意識の中、兵が大丈夫と言い続けるのが聞こえる。

「おい、しっかりしろっ...!」

その声すらも遠ざかる。

そしてユーラは、闇へと呼ばれた。

「おいっ...おいっ...!」

彼は既に魂が抜けた後の抜殻のように、ただ首を後ろへ落として座り込んでいた。口は開いていて、恐らく魂はそこから抜けたのであろう。焦点の合わない瞳は、恐ろしい程無気力である事を強く物語っていた。

もはやこれ以上呼びかけても徒労に終わると思い、兵は彼の傍を離れようとした。

「...ぅ」

微かな、ベウゼッツの轟々たるエンジン音に掻き消されるようなその声を、兵は聞き逃さなかった。

「ユーラっ!?」

慌てて駆け寄ると、その目は輝きを取り戻していた。

「ユーラ、大丈夫か!」

「......」

そして瞳の輝きは徐々に妖しく、危なげになる。

「何だっ...」

ユーラは小声で何か呟いている、それだけは分かった。

そして、ユーラは目を見開いて立ち上がった。

「おいっ...おい!」

その瞳は、紅かった。そして彼はベウゼッツの後部ハッチへと、ゆっくりと向かう。彼の背中は、「誰も近づくな」と言っているようだった。

そして、兵はユーラが何をしようとしているかを知り、慌ててコクピットへ向かった。

この巨大な輸送機のコクピットはそこから前方へ50m、上へ7m程上がらなければならない上、貨物庫から直接接続されてはいない。

兵は走った。無我夢中で走って、コクピットの扉を勢い良く開けて中へ転がり込んだ。

「おい!後部ハッチを開けろ!今すぐだっ!」

「何事だ、落ち着け...どうするつもりだ...!」

「ユーラが...ユーラが出るんだ...!ハッチを開けないと風穴開けられるぞ!」

「正気かよ...」

「この速度で?機外へ?冗談じゃない、笑わせるな。レーダーも通信機もやられて、艦隊が勝利したか敗北したかすら分からないというのに、あいつはこんな近海に降りるつもりか?」

そう、空軍勢力は通信が途絶してから一度ヴィーグエルン上空へ引き返していたが、つい先刻、それなりの規模の津波が沿岸を呑もうとしているのを見てついに状況が無視できなくなり、本部に対してL.F.C.S(光周波数通信システム)を使用して前線への威力偵察任務を要求、本部はこれを受理し、空軍機はL.F.C.Sの拡散役を担う大型機数機を中心として再編成、前線へ赴く所であった。

「分からない、分からないが...」

「悪いが、無理だ。物資だって積んである。車両はロックしてあるが、それでもコンテナは吸われて落ちるんだぞ。」

「確かにそうだが...」

と、兵が言い終わるか言い終わらないかという時、衝撃がベウゼッツを襲った。

「まさか、本当にっ...!?」

アラームが作動する。

有線通信。

「貨物庫がっ...半分消えた...消えたんだっ...!」

その男の震えた声から、状況は深刻である事は容易に分かった。

「油圧系統にも異常が...ダメですっ...!」

新たな警報。

「左翼エンジンがっ...?!」

「クソっ、このベウゼッツが墜ちればこの飛行隊は通信が出来ない...!」

「他の隊の指揮下に入るように言っておけ...我々は損害状況を見て脱出する。」

「鋼鉄の鯨は砲火を見ず、かぁ...。」

一人、誰に言うでもなく呟き、機長がインカムを取る。

「総員退避、当機はこれより出来る限り沿岸へと寄る。貨物庫に穴が開いた。」

ベウゼッツに搭乗していた空挺部隊員55人に退避命令が出される。

「左翼炎上!」

「これ以上は持たん...お前も脱出するんだ!早く!」

そう言い終わらない内にどこからか爆音が聞こえた。機長と副機長はそのまま兵を押しのけてベウゼッツを後にした。

兵は立ちすくんでいた。高度は下がっている。様々な警告音が嫌悪感を呼ぶ交響曲を奏でている。そしてその旋律に心を囚われ、兵とベウゼッツはヴィーグエルンの沿海へと姿を消した。





――Nポイント:午前9時30分――





荒々しかった海も今ではすっかりと静けさを取り戻し、その上には天使が独り。

「敵機接近。前方、推定速度マッハ5、距離140000。超音速爆撃隊が先行しています。後方より遅れて電子戦機群、要撃機隊が続いています。数500。」

殆ど生身となったエレーナは、既に自己を失っていた。

「最外壁電子戦装備が破壊されました。船舶の着底によると思われます。」

彼女がそのアナウンスに応える事はなく、彼女は彼女の思うままに動いた。

「前方、相対高度1700、距離80000。照準波感知。」

今はただ静かに、海面を乱さぬようにと。

「エネルギー収束反応、弾頭分裂ミサイル、巡航ミサイル、対艦ミサイル、来ます。」

「巡航ミサイル、最短距離60000、エネルギー反応増大。」

「巡航ミサイル、着弾まで、40。」

「エネルギー反応分析完了、AOSです。臨界点まで5、4、3、2、1、」

エレーナは静かに手を前に向かって伸ばす。

「着弾。」

目にも止まらぬ速さでエネルギー弾が飛来する。しかしエレーナはそれを物ともせずに相殺する。

「巡航ミサイル着弾まで20」

ゆっくりと水面に片足のつま先をつけ、目を閉じる。

「残り15」

両手を広げ、一回転。

「10」

「9」

「8」

「7」

「6」

「5」

「4」

ゆっくりと、目を見開く。

「2、1、」


―――着弾。


エレーナは両手を向かってくるミサイルの方へと向けて、次々と爆散させる。

「弾頭分裂ミサイル、分裂。数120。」

両手を広げたまま、ぐるぐると回る。その姿はまるで、水上で踊る妖精のようで。

「対艦ミサイル、次いで超音速爆撃隊が上空を通過します。距離4000、相対高度12000。」

エレーナの手からは目に見えない槍が生えているかのようだった。

「超音速爆撃隊、サーモバリック爆弾投下を確認。」

そしてエレーナは、その槍を自分の身体の先で交差させる。

「着弾。」

サーモバリック爆弾はエレーナから数m離れた位置で爆発し、その爆風もエレーナを避けるようにして消えた。

そして少しづつその身体は海を離れ、空へと向かう。

「要撃機隊とのコンタクトまで40。」

そして後ろを向き、超音速爆撃隊に向かって手を伸ばす。

爆散する機体。超音速爆撃隊の超音速爆撃機と護衛機は一瞬の内に炎に包まれて墜ちた。

向かい来る要撃機隊の方へ向き直り、両手を広げる。

その槍は、壁を作っていた。しかし誰にもその壁は見えない。

だが、機銃掃射とミサイルの雨は、エレーナを直撃する。

そして要撃機隊は、その壁を、何も無いかのように...抜ける。

「っ...!?」

「装甲損傷率79%、危険域に達します。ダメージ・コントロール開始、応急修復。」

エレーナは一瞬だけ動揺したが、それはすぐに消えた。

「あいつ...私の技術を流用して...!」

彼女の視線の先には、光り輝く翼の生えた人間がいた。その者の瞳は紅く輝き、その閃光はエレーナの胸を突いた。

「何だ、あの威圧感...」

退いたら負ける、エレーナは手を伸ばす。しかしその人間は身を翻し、意図も簡単にその射線から退避した。

「何だ...あいつは...!」

そして次の瞬間、その人間はエレーナの背後にいた。

「っ...!?」

両手を振り回すが、当たらない。インターセプターにすらも。

「何だっ...何なんだっ...!」

焦りを覚える。

「バカなっ、どこだっ...!!」

その人間は消えていた。

しかし。



「ぅ...っ!」

エレーナは、右の胸が熱くなるのを感じた。

「っ...く...」

身体諸共装甲は貫かれ、そこからは鮮血が溢れだしていた。

「おのれっ...!」

しかしその人間の姿はない。

「ぐっ...!」

衝撃。

エレーナは海へと突き落とされる。

「装甲損傷率97%、全システム、シャットダウンします。」

「まだ...まだっ...!」

海中で、エレーナはもがく。空に向かって、差し込む太陽の光に向かって、手を伸ばす。

海に穴が開く。その槍は、まだそこにあった。

「まだ...戦える...!」

装甲を切り剥がし、単独で海上へと向かう。容赦も、迷いもない攻撃。それは彼女が海中に墜ちてからも続いていた。

既に身体はボロボロだった。それでも、海上へと浮き上がる。

「でて...こいっ...!!」

また、刺さる。

「ぁっ...う...」

右脚が墜ちる。しかし今の彼女にとって、脚など最早必要無かった。

「そこかぁっ...!」

射線を追って手を伸ばす。手応え。

「やったか...!?」

瞬きをした刹那、その人間の顔はエレーナの横にあった。

「っ...!?」

手を戻す暇もなく、腹側と背中側から滅多刺しにされる。もう、身体など殆どなかった。

「くそぉっ...効け、きけぇっ...!」

最期の力を振り絞り、既に片腕は失われていたが、両腕を広げて球状のエネルギー場を作る。

「ふふっ...執着...しすぎ...だ...」

徐々に場を狭める。

「貴様は...私と...しぬ...ん...だっ....この...エネルギーに...潰されてっ...!!」

まさに最期の捨て台詞だった。これ以上言葉は出ない。耳も、目も、あるのかないのかわからない。

時と共に狭まるエネルギーの壁は、エレーナの全ての力が注がれていた。

後少し、後少しでエネルギー壁に2人が触れるという刻。

一瞬にして人間は消える。触れていた物が、消えた。

「何...でっ...」

最早どうする事も出来ない。エレーナは息を吐いて目を閉じる。その瞼の裏には、ビフレスト島の景色。

生まれた時から、ゆっくりと順を追って、全ての物事が思い出される。その中でも一際輝きを持った記憶。

「ルミエル・デ・シェール」

いつから行われていたかは分からないが、島で一番盛大な祭りだ。その日は一年で最も星が美しく見える。その様子は光彩陸離、正に壺中之天のようであった。島中の人が想い想いの過ごし方をする中、エレーナは決まって岬に寝っ転がって、宇宙に迷い込むように、その星々と話すようにして過ごしていた。

そして、ユーラの事。

「結局、何も言えなかったなぁ...」

島の人間はもう恐らく残っていない。そして唯一残った自分すらも今消えようとしている。

思考停止。

そしてエレーナは、エネルギーの光に包まれて。



―――星となった。








――ヴィーグエルン国軍中央司令部地下司令室:午前10時00分――






つい30分程前にジャミングが消え、それまで一斉に行われていた多方面に対する情報収集の結果やその纏めの報告で騒がしかった司令室内も徐々に静けさを取り返してきた。艦隊は壊滅、空軍勢力は超音速爆撃機隊を除く全機が帰還予定となっていた。

「海軍の勇士...彼らは孤軍奮闘してくれた...今、彼らは英霊となったのだ...」

死中求活の末に自らの身を顧みずに敵艦隊を壊滅させたという活躍は、素直に喜べないものであった。

「だが、まだ戦争が終わった訳ではない。」

司令が立ち上がる。

「空軍機は一度帰還、補給を受けた後編隊を再編成して敵本土へ攻撃を仕掛ける。」

「しかし爆撃機は...」

「構わん。残存戦力のみでも十分相手はできるはずだ。それに敵の航空戦力は確認されているものは全て破壊してくれた。海軍がな。」

「国民は未だこの戦争の詳細を知りません。」

「ああ、それがどうした。」

「いえ、政府がどう出るかと。」

「どうせこの戦争は今日中に終結する。」

「そう、ですね...」

「とにかく今は補給に意識を集中させろ。」

「はっ。」






――Nポイント:午前10時00分――







「終わっ...た...」

右半身に凄まじい痛みを感じながら、ユーラはNポイントに一人、彷徨っていた。

「何があったんだ...これ...っ...」

右側の翼にも穴が開いていた。

「...司令の言っていた兵器かな...いや...これっ...僕と同じ...力...?」

直感だったが、ユーラは少し周囲を見回した。

「あ...」

足元に目をやった時、海の奥深くに微かな光があるのを見つけた。

「救難...信号...?いや、違う...そんな光じゃない...」

今にも海の闇に掻き消されそうな本当に微かな、微かな光。

ユーラはゆっくりと降りてゆく。海の底へと向かって、痛みを堪えながらも一直線に光へと向かう。気のせいか、光が近づくにつれて徐々に暖かくなるように感じられた。

そして、彼は光に手が届く所まで来て、止まった。

「そんな...なんでっ...!」

そこには、エレーナがいた。最早その躰は原型を留めておらず、頭、首、胴体、そこにはそれが繋がっているだけであった。その胴体は胸あたりから下が無く、切断面は円形になっていた。出血の跡も殆ど無い。まるで、この一部だけが異次元に瞬間移動したような、そんな雰囲気だった。

しかし、海中に沈んでいても、ユーラにははっきり分かった。

堅く閉ざされたその瞳からは、涙が流れていた。

「...」

ゆっくりと、その肌に触れようと、手を伸ばす。

その手がエレーナに届くまで、途轍もなく長い、長い時間が掛かるような気がした。エレーナが、逃げているような。

彼は闇の中の光に向かって手を伸ばしている。その闇は、今にもユーラの心の中に入り込んで、貪り食わんとしているかの如く、その空気を重く、苦しくしていた。

そして、その闇を切り抜けて、遂にその手は光に触れた。

「っ...!」

暖かさ。それは、今まで自分の感じた事はない、太陽よりも遥かに暖かい、優しい、温度だった。

「エレーナ...」

防護膜。それは明らかに自分のエネルギーによるものだった。それに気付いた瞬間、その光は輝きを増し、ユーラを包み込んだ。

優しい暖かさが全身に伝わる。これが、“幸せ”というものなのかもしれない。

目を瞑り、その優しい世界に身を委ねる。

「ユーラ...好き、だったよ...。」

ふと、光の中から泣きじゃくる声とともにそんな言葉が聞こえた。

「エレーナ...?」

「どうして、こんなことに、なっちゃったんだろうね...」

ユーラはやはり、エレーナの、その姿を見る事はなかった。

「...分からない、分からないよ......」

「また、一緒に...」

そして、光が一瞬にして遠ざかる。現実へ、海の底の暗黒へと戻される。

先程の温もりは、欠片もなく消え去った。その闇に呑まれたのかもしれない。

「一緒に...かぁ...」

海底に座り込み、砂を掴む。しかしそれは指の間からユーラの手を離れる。残ったのは、ごく僅かのみ。

「こういう、事なのかな...」

そしてユーラは残った砂を投げ捨て、天を仰ぐ。負の感情が一気に流れ込む。

光のおかげかもしれない、その翼は比類ない程に美しく、巨大になっていた。その輝きは天より注ぐ太陽の光にも匹敵するようだった。

「許さない...」

その瞳は再び紅の輝きを取り戻し、海は恐怖した。

海を抜け、空へと出て、そしてユーラはヴィーグエルンへと向かった。





――ヴィーグエルン国軍中央司令部地下司令室:午前10時17分――





「Nポイントにて強大なエネルギー反応がありましたが、消滅しました。」

「何...?」

勝利を確信していた司令室は静まり返った。

「残り数分で空軍各隊の出撃です。」

「...超高高度より侵入させろ。」

「その予定です。」

「よし、では後は任せた。」

「はっ!」

司令は立ちあがり、敬礼をして司令室を去った。



少しして、各地から補給が終わった編隊が空へと向かい始めた頃だった。

「キャッチ!」

「何だ!」

「Nポイントより直進してきたと思われる高エネルギー反応、急速接近中!」

「距離は!」

「距離400000、高度200ft...後数分で到達します!」

「映像を!」

「少し待って!」

メインモニタに巨大な光の翼が映し出される。

「2分前の衛星の映像だ。」

「これは...鳥...?」

「いや、ユーラだろう。」

「そうか、彼が帰ってくるのか...」

「彼は基地に戻り次第空軍と合流させて敵本土への畳み掛けに参加させよう。兵聞拙速だ。」

彼らは気付いていなかった。ユーラが何の為にヴィーグエルンへ向かっていたか。

「何か、変じゃない...?」

「何がだ...?」

「ユーラを示してる光点、霞んで見える...」

「疲れてるんだろう、少し目をつむっておけばいい。」

「ん...ありがとう...」

「いや、違う。」

横から少し震えかかった声がする。

「何が違うんだ。」

「よく見ろ...これは...」

そう言って彼はメインモニタの光点を拡大する。

「何...だ...これ...?」

その光点は細かい光点の集合体であった。

「何が起こっているんだ...」

「まあいい、目視出来る距離に来ればすぐ分かるさ...」

「こちらエラリー1」

「ん、どうした。」

最も早く再編成が済んだ編隊の編隊長からであった。

「前方に何か巨大なものが接近しているが、あれは敵ではないのか...?IFFにも応答がない。」

「ユーラだ。」

「ユーラ...?あいつ、俺らを通さないつもりなのか...?」

「どういうことだ...?」

「とても、眩しい...本当に通れるのか...?」

「高度を変えるなりして対処せよ。」

「...了解。」

「っ...待て、何だあれ...!」

同じくエラリー隊の機体の者であった。

「何って...っ...」

現地の航空隊が全て口を閉ざす。

「どうした!どうしたんだ!」

「転換して離脱する!」

「何があったんだ!状況を説明しろ!」

「前方の細かい光点が...俺たちを睨んでるんだ...」

「何を言っている...?」

「とにかく、あれに近づくのは...うわああああぁぁぁっ!!!」

交信が途絶える。

「何があった!エラリー5!エラリー5応答せよ!」

「こちらエラリー1、大量の光点が雨のように向かってくる、機体に穴がっ...交戦許可を!」

「...やむを得ん...許可する!各隊聞こえているか、現在A1130T-C区画にいる未確認のエネルギー集合体を敵とする!迎撃に当たれ!」

「了解!」

「エラリー隊全滅!」

「何だって...?!」

「敵、こちらへ来ます...すごい速度だ...」

「何だ...これ...」

衛星が写した写真には、数秒前にユーラが通過した村が跡形もなく破壊されている様子が写っていた。

「村が...」

「ええい...対空戦闘用意!防御を固めろ!」

「割り込みです!」

全員のヘッドセットにノイズが入る。

「誰だ...!」

「スピーカーに出力します!」

そして、スピーカーからノイズが流れだす。

「妨害だ...」

『...える、か...』

「音量を上げろ!」

『貴様達人類を、皆殺しにする。ヴィーグエルンのみではない。いずれはノーアヘルムもだが、手始めに貴様達からだ。』

「この声...ユーラっ...」

『いかなる交渉にも応じるつもりはない。容赦もない。そちらが手加減するのは勝手だが、滅ぶまでの時間が短くなるだけだ。』

その口調は淡々としていて、悪魔の呻きのような、嫌悪感を与えてきた。

「...ノーアヘルムに連絡だ...これは、最早我々だけの戦いではない...領土拡大戦争などしている場合ではないのだ...」

「ダリア隊会敵!」

「早く、ノーアヘルムに繋げ!」

司令のいない今、司令部では参謀長がその電話機を手にとった。





――――ノーアヘルム統合司令部・司令室:午前10時46分――





「何だ。今更和平条約をだなどと言わんだろうな。」

こちらも前任の司令が目覚めないので、副司令が電話に出た。

ヴィーグエルンの司令室はかなり慌ただしく、騒がしかった。

「聞け、今、古代兵器が宣戦布告をしてきた...」

「ふんっ、知ったことか。貴様らが勝手にしたことだ。此方側にこれほどの被害を出しておいて自分達の兵器に手がつけられないとは、様ないね。」

「違う、人類に対してだ...」

「発足を。そう言って、実際は我々が古代兵器を止めれば攻めこむんだろう。」

「此方には既にそんな戦力は残っていない!これを聞け!」

そう言ってヴィーグエルンの司令室から、不気味な声が聞こえてきた。

「っ...工作か...」

「信じないならいい、レーダーを見てみればいい!我々の情報を送信する!」

「欺瞞工作だろう。」

「ここまで言って信じないのかっ...!」

無理はない。つい先刻まで戦争をしていた国が何を言い出すか。

「その冗談はそれなりに面白いとは思うよ。では、せいぜい頑張り給え。」

笑いながら電話を切ろうとした瞬間。

「AOS起動!」

「何をバカな事を...!?エレーナもルーヴァンももういないぞっ!」

「しかし、起動確認の信号とエネルギー収束が...」

「誰がやっている...!」

「メインバレル固定されました、これは...敵の送信してきた光点へと向いています...!」

「しかし、撃てるはずは...」

「エネルギー供給率47%...アラートです、爆発すると...」

「何...?」

「HLTSがNポイント上の一点から何かを拾い上げている...」

「不安定すぎます!今すぐ止められる者は!」

「いない...どうしたんだ!」

「エネルギー供給率60%超過、砲身温度上昇!」

「待てよ、そもそもあれは破壊された後まったく手をつけていない...あるはずもない、幻影を見せられているんだ...」

「...そういえば...」

鳴り止まない警報の中、彼らは黙ってエネルギー供給率の数字が100へ近づくのを見守った。

「99...100!」

「ほら、何も...」

「うわああぁっ!?」

突如司令室内の照明が点滅し、機械類がノイズに晒された。

「高エネルギー反応、掠めて行った...」

「バカな!?どこからだ!」

「戦術兵器運用区からです!続いてIIAP、4基、サイロ開放!」

「中止だ!中止!中止信号を送れ!」

「それが、何度も試しているのですが...受け付けません。」

「発射されました。目的地点変わらず。」

「クソっ...こうなったら我々は我々の為に戦う。残存戦力を集結させろ!ヴィーグエルンへ向ける!」

「合従連衡、ですか...。」

「黙れ。」






――ヴィーグエルン沿岸:午前10時58分――






ユーラは、向かってくる空軍機とミサイルをまるで蝿を落とすように、ゆっくりと司令部へ向かいながら落としていた。憎悪と憤りの中に、少しの優越感を感じて。

地上から対空砲が火を吹き始める。ユーラは、その弾をあえて自分の間近で爆散させて見せる。

最早敵はいないと思っていた。しかし、背後から光。

「っ...!?」

ユーラは完全に油断し切っていた。既の所で防御が間に合わず、その光を直に浴びてしまう。

「ぐううっ...!」

翼が、身体が、溶ける。

「熱...い...誰だ...」

その間にも絶え間なく対空砲火は続き、不意に直撃弾を食らったユーラは、それなりにダメージを負っていた。

「無理...だ...」

ユーラは自分に出せるだけの力を出して、ビフレスト島へと逃亡を図った。

しかし空軍機が追う。

数十分の飛行の末、ビフレスト島周辺で、ミサイルがユーラの尻尾を掴む。

そのまま静かに、ユーラは故郷の海へと、墜ちた。

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