そめのくんとよしいさん
染野くんと吉井さん
ひたすらいちゃつく壁ドン作品を目指す。至ってライトに。情景描写、風景描写がうまくないので意識して書きました。
というのを意識して書きました。
なお、タバコ描写(高校生の喫煙)、雰囲気的にえっちい描写も多少有ります。ご注意を。
セブンスターの香り、タバコの煙は嫌いだったけど、好きな人間の匂いの一部なのだ。半年もすれば慣れてしまう。慣れてしまえば吉井の匂いとして認識できるようになるものだ。でも、何度かタバコなんて止めなよとたしなめたことがある。その際、吉井から、「いいじゃない、今のうち。」という若さを消費することを是とした回答を頂いたので、いつからか、まぁそれも正解だなと、それ以上言えなかった。他の理由としては、「創作には喫煙がつきもの!」という凡人には理解しかねる妄言をのたまっていた。まあ、そう言われてしまったら。吉井のやりたいようにした方がいいかなと。半ば諦めのような。だから、言うのをやめてしまった。
僕は止めろと言われて止めないってのが愛がないからだとは思わないし、止めろって言わないことが愛がないとは思わない。それは単純に互いの意見や主張や心情を尊重してるだけ。他人に自分の意見を強制できるほど、僕たちはしっかりとした年齢じゃない。
ただ、しっかりとした自分を認識できない中、今目の前に、三角座りで佇むその子が好きだという気持ちは何だろう、愛おしいってなんだろう。という自分の中の吉井に対しての好意の在処を探していた。はっきりさせたいと思った。でも、好きの理由を求めてみても、解答はない。確信はどこにもない。そういう気持ちは、ふわりとした煙の中にあって掴めないのだろうな。
そんなことを口を明けながらぼんやりと耽っていると、隣から嗅ぎ慣れた匂いを伴い紫煙がふわりと近寄ってくる。
「染野君は何を物思いに耽っておったのだね?」
僕の隣で、半分まで燃えたタバコを右手の親指と人差し指でつまみ、赤く燃える火を自分の方へ向けてタバコ全体を掌で包むようにしている吉井は(煙が直接あたらないようにする吉井なりの配慮らしい……)、僕の吉井に対しての好意を、好きとか恋とか愛とか、単純な言い方でしか伝えることができない僕の、浅いとも思われても仕方のない僕の気持ちを見透かしているのか、答え辛いことを聞いてくる。
答え辛いとはいえ、別に怪しいことを考えていたわけではない。聞かれたからには何かしら言わなければ。
「えっと、あーうん、僕たち二人について、かな」
返答に困る僕をみて不審に思ったのか、その言葉を聞くやいなや、延びたタバコの灰を切ろうとしたのか、吉井はブレザーのポケットから携帯灰皿を取り出す。出した灰皿を見やり、一寸おいて「もういいや」とそのまま吸いかけのタバコを携帯灰皿に投入して、火を消した。
そして、こちらを向き問いかけてきた 。
「ん? どういうこと? もしかして、ぷかぷか煙をふかしてる女の子は嫌になっちゃった……?」
ああ、かわいいなあ。こちらに乗り出して潤とした涙目の顔をこちらに見せる。ああもう、かわいい。
吉井の顔が近づいてきたので、肩からぐいっと抱き寄せる。仄かにタバコ。でも、吉井の肩までのびた黒くて細い髪は夕焼けの光をたくさん吸収して、あたたかな太陽の匂いがする。そしてシャンプーコンディショナー吉井愛用の品々の匂い。多様な匂いが鼻腔を刺激する。吉井の匂いで思考が麻痺する。そんな感覚がたまらなくなり、つまりはこれ以上はちょっと我慢ならないということで、クーリング。抱き寄せた身体を肩からゆっくりと引き剥がし、両手で吉井の頬を包む。少し冷たくなった手に暖かさが流入する。突然の僕の行動に吉井は「なぁに?」と瞳を大きくして見つめる。形の整った眉毛、目尻がつんと上がり凛とした二重のまぶたは、はっきりと自己を主張していて、一見気が強うそうに見える。でも笑う時は目が線になる。笑うと吉井の目は、はっきりした目がくしゃっと目尻に垂れるカーブを描く直線をつくり、キツい目尻を柔らかくする。それが心地よいギャップになっていて僕は好きだ。ただ、そんな吉井は僕しか見た事無いと思う。僕は見つめ返し「そんなこと、あるもんか」と回答をぽつりと述べ、続けて「ああ、吉井はかわいいなぁ。かわいいなぁ……」と呟く。
「へへっ」口角が緩やかに上がりにこりとなる吉井。かわいい。僕が何をしたいか理解したのか、吉井はくっきりした瞳を閉じる。閉じると同時にバレバレか。と、僕も目を閉じて、桜色にほんのり染まる吉井の唇に口づけする。
心地よい夕焼けの陽光が当たる特別教室棟とプールの間、いくら人気がないといっても、誰にも見られないとは限らない。
この状態を見られたら恥ずかしいなと思うけれども、もうちょっともうちょっと、もうちょっと触れて居たいと思っているうちに吉井の方もやはり同じ考えなのか、両手を僕の首に回してくる。
吉井のカーディガンの袖からちょこんと出た指が僕の首の向こうで絡まり、がっちりと固定される。拍子に僕の方に吉井の体重がかかりその勢いで後ろに崩れていく。吉井の頬に触れていた両手で倒れないように態勢を整えようとしたが間に合わず、コンクリートの硬い感触が僕の背中と両肘を襲う。
「お、あっ!」不意の衝撃。突いた肘は赤茶色のブレザーを着ていたお陰で擦りむいたりすることはなかったが、強打したためやはり痛い。ただ、密着した吉井を守ろうとした結果だからか、自己満足を満たす痛みだった。
首に絡みつく腕はそのまま、僕の身体の上、やわらかな掌で頭を撫でる笑顔の吉井は「痛くない、痛くない」と耳元で囁いた。痛いはずだけど確かにもう痛くない、かな。きっと吉井のやわらかさ、体温、仕草全てが気持ちよすぎて神経を麻痺させているに違いない。僕って幸せなんだね。でも、吉井はどうなのかな? そんなことを考えながらぎゅっと強く抱いてみる。
柔らかい吉井の身体が覆いかぶさり、押し倒された状態で暫く抱き合う。そんな状態がしばらく続いているうちに、夕焼けは闇を帯びてきて徐々に暗くなってくる。周辺にあまり人がいないと言うことは、明かりもないということで、少し寂しい気分になる。
僕の上に覆いかぶさる体勢から、よいしょと、両手を僕の肩に添え起き上がり、吉井は跨がってきた。ウェスト部をたくし上げて標準より短くなった紺単色のスカートから、吉井の引き締まった太腿が覗くが、素肌は黒いタイツで隠れてしまっている。そして何か見とれる様にこちらの顔をじぃと見つめてくる。僕の顔は吉井には、はっきりと見えているのだろうか。
暗くなっているが、僕からは吉井の顔ははっきりと見える。長いまつげが映えるきれいな瞳がこちらを向いている。
こうやって、一緒にいるのは心地よい。そばにいると言う安心感が淡い光のように二人を包んでいるようだった。だから、もうちょっと二人の時間を過ごすことにした。言い方を変えれば吉井成分の補給と言うやつだ。そんなことを思い付いたので言ってみようとする。
同時。
「わたし、染野成分、補給中」
「吉井成分……あ」僕は最後まで言い切る事が出来なかった。
改めて顔を見合う。
「同じこと考えてたのか。それにしても」
ふふっと声を漏らす。二人同時に笑う。
笑って目が垂れる吉井。かわいい。不意に吉井が僕の胸に倒れ込んでくるが続ける。
「本当に、何で同じタイミングて言おうとするかな。ちゃんと最後まで言えなかったんじゃないか」耳元で囁くと、くすぐったそうに吉井は僕の上で身を振るわせた。
「あえ、ごめんごめん、ささ、どうぞ! 吉井成分が?」お返しとばかりに僕の耳元で囁く。吐息がふわっと耳に当たる。近い。しあわせ。
それでも、言えと言われて言うのはどうにも恥ずかしいものだ。絶対顔を見られない様に吉井をぎゅっと抱き、密着する。
「吉井成分補給中……」と言うと吉井は頬を僕のほほと重ねてすりすりとこする。
「あー、なんだよー恥ずかしいじゃないか」
「いいじゃない、そんくらい。恥ずかしくない! 恥ずかしくないよ!というか、それに……もっと恥ずかしいことならあるでしょうに……そう、それよりもさ!もっと補給しなさいよ。えと、吉井、成分!」
一気に捲し立てられてあっけにとられるが、それはある種の照れ隠しなのだなと、頬のすりすりを受ける。
多分今日の分は補給できたかな。垂れた吉井の髪から、ふわりとセブンスターの香りを感じた。
しばらくそんな状態を続けて、「もう補給は大丈夫かな」吉井は僕から離れて、三角座り。足元にあったタバコを手にとる。釣られるように僕も上体を起こし、なんだ今度はニコチン補給かよと飽きれながら、にへにへと満足そうにする吉井の顔を見つめる。フィルターをやわらかそうな唇で軽く咥え、制服のポケットに入れてあった100円ライターで火を付ける。手際よくルーチンワークをこなす吉井の姿は様になっているとさえ思ってしまう。暗闇の中ライターの火がぼんやりと回りを明るくする。決して光量は多くないが二人だけを照らすのだ。さっきよりも暗くなったにも関わらず、吉井の顔ははっきりと見える。見つめ続ける僕を見て、吉井もにこりと微笑みを返す。かわいい。ライターの火がタバコに移り、産まれた煙が周囲を侵食し、靄がかかったように周囲から二人を分けた。
ここは確かに人はこないけど、二人だけの秘密の場所ということはない。さきほどの熱い抱擁もそうだが、喫煙という違反行為が当然見つからない訳がない。
「タバコ、見つかったらどうするんだよ? 停学じゃないか?」
「停学くらいいいじゃない。見つかる時は二人一緒でしょ?」
「まあ、多分そうだろうね。というかそういう問題じゃなくてさ」
「それなら、停学中ずっと一緒に居ていちゃいちゃできるじゃない」
咥えていたタバコを手に取った吉井は、にっとする。
「あ、できると思うけど、そういう問題じゃなくてさ、きっと、自宅学習だよ。家にいないのが見つかったらどうなるか……」
ふふふ、と吉井はフィルターを咥え、煙を吸う。
恐らく追加の停学悪くて退学。そんな事態は避けたい。一緒に高校生活を過ごすという楽しみが無くなってしまうのはあってはならない。こうして学校で会って、一緒にいて、まあまあそこそこの冒険をするっていうのが、それなりに楽しいってことなんだろうな。でもそれよりもなによりも、高校時代という今この時しかない、今後体験できなくなる大切な時間、そばに居るこの子とできるのならば一緒に過ごしたいというのが、本音なんだと思う。だからこそ、学校から離れてしまうって言う事は絶対避けなければいけない。そこそこの冒険を達成することによる快感よりも、それによって、ここに一緒に居れなくなるというリスクの方が重い。……別に吉井の制服姿が見れなくなるのが嫌だとかそういう理由ではない。
そうだ、ちゃんと言おう、学校なんかでタバコなんて吸うなよ。少し我慢してみようか。そうやって、ちゃんと言おう。意を決す。足を両腕で抱えてタバコをふかしている吉井の目の前に立ち、吉井の両肩をやさしく掴む。
「あ、あのさ、学校で吸うのはやめような、吉井」
「ふぇ?」煙を吸う吉井は突然の僕の行動に驚いたようで目を見開き固まり、咥えていたタバコがその拍子に地面に落ちて火の粉を蒔いた。
「吉井、学校でさ、タバコ吸うのやめにしよ。や、やめろよ……」
あたりが急に静かになるように感じた。吉井はびっくりして無言、僕も続く言葉を考えてなくて無言。
先に動いたのは吉井だった。その場に落ちたタバコを拾い上げ、いつのまにか出してあった携帯灰皿に捨て、携帯灰皿の蓋を閉める。ちゃんと火は消えてるのだろうか。少し心配した。
「よし!」といいながらこちらを向き『タバコなんかなくなったぞ!』と主張するように、得意気に携帯灰皿を僕に差し出す。ちゃんと消えているようだ。
そうだね、いい子だ。
吉井はかわいい。
頭を撫でることにした。僕とそう身長が変わらない吉井の頭に手を乗せる。
乗せた掌からは吉井の温度が伝わる。ゆったりとしたスピードで髪の毛の流れに合わせて撫でる。
「えらいよ、吉井」
ビクンとする吉井。
「なんだよ……照れくさい、な」
頬を染め少し下を向く吉井はかわいい。もじもじして身体を小さくする。
カーディガンの裾にほとんど覆われてしまった両手で、口の辺りを隠している。上目遣いでこちらを見る。
もう一度、黒く艶のある髪を撫でる。
もう一度、指を広げ吉井の髪を櫛のように、優しく、優しくすく。
もう一度、掌で丁寧に頭の天頂から撫でる。肩まで撫でると毛先が待ち遠しく僕の手を待っていた。そうだね、君んところも撫でてあげる。
「んっ……」
「ん? いやだった? 」
「あ、うんん、違うの。もっと、やってて、いいよ……? 気持ちいいから…… 」
あまり見たことがない吉井の仕草を、頭に手を置きしっかりと見る。
新鮮な反応なので、とてもかわいい。これからはもっと……。
「じゃあ、もっと撫でる」
「ん、どうぞどうぞ」
気持ちいいのであれば、余計にね。
なんだ、こんなことで喜ぶのか。と、良いことを知ったとこちらも嬉しくなり、喜ぶことをもっとやってあげたいと、隣でにこやかな顔をする吉井を見て心から思った。
撫で続けていると、「そういえば」
「ん?」
「理由きいてないんだけどさ、どうして、さっきは学校で吸うなって言ったの? あんなに強く言ってくれたのって初めてじゃない? ちょっと、びっくりしちゃったよ」にっこり笑顔で問いかけてくる。
いやいや、法律ではあなたの年齢じゃタバコなんて吸っちゃいけないし、そもそも、学校で喫煙という完全にアウトな状況であるにも関わらず、どうしては、ないでしょうに。
一緒に居たい、同じ時間を過ごしたいから、という理由が一番。それの根本は、吉井の事がすごく好きだから。じゃなかったら一緒に居たいとは思わない。
でも、何がそうさせている? どうして『好き』なのだ? 吉井と一緒に居たいという僕の気持ちは、吉井の気持ちありきではなく、僕の思いだ。僕の自己中心的な考えだ、そこに吉井の気持ちは無い。だからこそ、吉井に問われた時にちゃんと答えたい。しっかりした答えを持っていたい。納得してもらいたい。でも、そんなものは煙の様なもので、掴もうと思っても霧散してしまう。考えが纏まらない。でも吉井は僕の答えを待っている。
「どうしてって……ここに、学校に、一緒にいれなくなったら、嫌じゃないか……僕は嫌なんだよ。ここに居れるのは今だけ、なんだから。ああ、なんだ、なんか、うまく説明できないけど、一緒に居たいってのは僕の自己中な考えだろ? そんなのって一方的だろ? それじゃ、理由が説明できないんだよ。だから、吉井のこと好きなのに何で好きなんだろうって考えちゃうんだよ。ほら、だってそうだろう? 愛とか恋なんて、形がなくてタバコの煙みたいにモヤモヤしてて、ふっと消えちゃうような感じなのに。だから、吉井のことなんで好きって確信が持て言え……っん!」
不意に吉井が言葉を遮るようにキスをした。吉井が目をつぶっていたので釣られるように僕も目を閉じた。
吉井に側頭部を持たれ固定されると同時に唇が無理矢理こじ開けられた。吉井の舌が侵入してくる。特に抵抗なんかはしない。全て吉井の思うがままに、僕は受け身になって吉井を受け入れる。絡ませる。ぬるっとした舌の感触がくねり、まぐわい、互いの体液が口内で混ざる。ひとしきり混ざりあったところで、満足したのか、吉井は侵入を止め、舌を戻した。それからは普通のキス。それが暫く続いた。
濃密な接吻が終わり、二人のの顔が離れると同時に目を開けると、唾液の細い糸が二人を繋いでいたのが見えた。唾液の橋の先、吉井は恍惚の表情を覗かせている。そういえば、キスの最中、タバコの味は不思議としなかった。
「二人の事を考えてたって、さっき言ってたよね?」
「あ、うん、そうだよ」
吉井はにやりとして上目を使う。
「それって、さっき、言ってた好きの理由を考えてたってこと?」
「そう……だよ」
「わたしのこと、どう好きなのか、何が好きなのかーーわからないんだ……」
視線を下にそらし、消沈したように見える吉井。ぼくはそんな吉井の悲しそうな顔を見て、ふいにかわいいなと思ってしまったが、悲しませてしまったことに動揺してしまった。動揺によって思考が煙のようにふわふわして霧散する。ええいままよ。ごちゃごちゃ言わず本心を、『好き』という気持ちを伝えよう。思わず強い言葉が出る。
「好きだよ……俺は、俺は吉井のことが好きなんだ! でも、どうして好きなのかって、ちゃんと言えた方がいいじゃないか……」
伝わっているだろうか? 吉井を見ると、真剣に、まっすぐに僕の方をじっと見ている事がわかる。
「わたしは、こう思うんだ」
ほんのりほほを染め、まっすぐ見据える吉井の視線。じっと吉井の瞳を見ると、周囲の暗さも相まって仄かにきらめく。
吉井は本当にかわいい。
「染野くんは、わたしの事たしなめたというか、心配、してくれたでしょ? わたし、それがすごく嬉しかったんだよ。しかも、一緒にいれなくなるからって……それは、わたしも嫌なんだよ? 離れ離れになるなんてね……だからこそ、凄く、凄く、染野くんが、わたしの事を思ってくれているんだな。そう感じたんだよ」
「吉井……」
いつの間にか吉井は僕を包んでいた。抱擁しながら耳元で話し続ける吉井。
「きみは、好きってことに理由を付けたがったけど、本当は、理由なんて必要ないと思うんだよ。誰かの事を好きになるってのはただそれだけで、本当にそれだけなんだと思うよ。心がそう思っちゃったのなら、そうなんだよ。誤魔化せないんだよ。だから、好きって理由を理詰めで導くものじゃないんじゃないかな。それって後付けって感じがするんだよね。どっちかというと、そうやってわたしの事を思ってくれたり、わたしの事ぎゅってしてくれたり、わたしの事を『好きだよ』って心を込めて言ってくれたり。それがあれば、わたし、満足なんだよ? だから、染野くんがわたしの事どれだけ好きなのか、解るよ? だから、理由なんていらないよ」
暫しの沈黙。
「わかった?」
「うん、わかった」
「わたしも、染野くんのこと、大事に思ってるんだよ?」
吉井は抱きつく強さをより一層強めた。心地よい痛みが身体を軋ませる。僕ももう少し強く吉井を抱く。吉井の存在を確認するように。
「大好き、染野くん」
「うん、ぼくも、大好きだよ。吉井」
「じゃ、少しだけ、わたしんち寄ってく?」
耳元で呟かれる。
「冷えちゃったしね。そうさせてもらうよ」
にへへ。吉井が笑う。
ほんとうにかわいい。
吉井の家につき、吉井の部屋に上がる。「寒かったもんねー暖かい飲み物持ってくるね!」と言い、鞄を僕の方に放り投げ階下のキッチンへトテトテと行ってしまった。
吉井の匂いが充満する部屋に一人取り残され、立っているのもなんだかなと思い。ベッドの端に寄りかかる。ふわふわとしたラグマットが手のひらをくすぐる。
結局、僕は深く考えすぎてたのか、はたまた、吉井が斜め上の思考をしているのか。思考を巡らせども答えは出るわけではない。ただ、自分に素直で、勘が良くて、時々ダメな僕を優しく包んでくれる吉井。笑顔が素敵で、じっと見てると顔を赤くして目をそらしてしまう吉井。肩まで伸びた艶やかな髪の毛、芳しい洗髪料の香りと、タバコの香り。構ってあげないとむすっとしてる吉井。かわいい吉井。そんな吉井が僕は本当に大切なんだな。本当に大好きなんだな。そんなことが深く心に刻まれた。
理由なんて大して重要ではなくて、吉井の事をどう思っているか。どう行動するかってことが大切であって、それを素直に吉井に伝えることが大事だということ。お互いが大切に思っていれば理由は関係なく、好きという事で繋がっているんだな。僕はぼんやりと物思いに耽った。
物思いも一段落したところで、じゃあ、一本と、ラグマットの上に無造作に置かれたセブンスターの箱から、タバコを一本おもむろに取る。 ぎこちない手付きで火をつける。別に僕も吸わない訳ではない。頻度が高くないというだけ。
「ん、よいしょっ」という声と、ほんのり紅茶の匂いと一緒に、吉井が部屋に入る。吉井の両手はティーポットとペアのティーカップで塞がれていた。
「ノックしたのに気づかなかった?」
「あ、うん、ごめん」
右手に持っているタバコが目に入ったようで、温かい紅茶が入ったポットと、空のカップ二つを机の上にそそくさと置いて僕を向く。側に寄りおもむろに僕の右手首をつかみんできた。タバコを奪おうとしているようだ。火、着いてるよ、あぶない。
「タバコなんか吸っちゃダメ! 特に染野くんはダメ! 健康に悪いんだよ? それに、そんなのよりも他に吸うものある……よね?」
吉井、お前が言うな。そしてその言い方はおっさんくさいぞ。
きっと紅茶は冷めてしまうだろうな。
おわり
壁ドンを目指して、軽い感じで書いて行ったんですが、なかなかどうしれ、うまくはいきませんでしたが、始めの着想「たばこ」からここまでイメージを膨らませるってのいうのは、なかなか楽しかったです。