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Aill Loadストーマ青年期外伝その1~フリーダム村の警備隊長~

ロード大陸と呼ばれたこの大陸の中央にはカーエイ山と呼ばれる大きな山がある。そのカーエイ山は密林に囲まれており、狩猟者や冒険家などがよく足を踏み入れる。カーエイ山から南西に位置するところにフリーダムと名前が付けられた小さな村があった。その村には小さくも村を守るために警備隊が組まれていて日々の危険から村を守っていた。今日も朝から村の若い者の叫び声から警備隊の仕事が始まった。


「今日も平和ですね。ロバートさん」


と、警備隊の事務室で休む一人の若い男が言った。彼の名前はストーマ。ストーマは丸い机の周りにある椅子の一つに座って悠々とお茶を飲んでいた。その対面に剣を手入れしながら外の様子を伺うロバートと呼ばれたストーマより少し歳のいった男が座っていた。


「外の声が聞こえてんだろ? これのどこが平和なんだ。のんきにお茶なんか飲んでないで出る支度をするんだよ!」


「解ってますよ。どうせまた盗賊か何か出たんでしょう」


この村の若い男のする仕事は決まっていた。生活に必要な木々を森から取ってくるか、フリーダムの村から東にあるダグラムと呼ばれる町に出稼ぎに出ているか、はたまたストーマたちのように村の警備に就いているかのどれかである。


「だといいんだがな。最近は薪割りの手伝いやら木材運びばかり手伝わされて剣の腕が鈍っちまう」


と、ロバートが愚痴をこぼしていると外で叫んでいた若者が警備隊の事務所のドアを開けて入ってきた。


「ストーマさん! ロバートさん! 大変だ! 森でモンスターが出たんだ!」


と、若者は事務所に入ってくるなりそう二人に訴えた。この世界ではモンスターは珍しく、森で見かけると言っても草食動物や鳥類などである。その若者の訴えをロバートは疑問を感じてこう返した。


「モンスター? 何かの見間違えじゃないのか?」


「そ、そんなことはない! 確かに見たんだ!」


以前に似たような報告を受けて調べたところ同じ村に住む者を見間違えてモンスターだと勘違いして大騒ぎになったことがあった。ロバートはそれと同じことじゃないのかと再度聞き返すが若者はモンスターだの一点張りであった。


「とにかく、その現場に行ってみないと何も解らないみたいだね」


と、ストーマが言うと


「そうだな。……まぁ行ってみるしかねえか」


半分気が乗らないロバートであったがストーマと若者を一緒に連れてその森へと出かけた。若者が言うには、森の木を切る作業をしていたところ近くの茂みから変な唸り声と共にそのモンスターは現れたという。木のように枝分かれした二本の角、死んだような目をした顔が印象的だったと若者は二人に話した。その話を聞いているうちに三人はモンスターが出たという現場に到着した。現場には作業中だったのか木の前にノコギリなどの作業用の道具が置かれたままになっていた。だが戻ってきて現場を見た若者が一つ疑問を口にした。


「あ、あれ? 弁当がない……」


「弁当?」


ストーマが聞くと若者はこう喋りだした。


「ええ。伐採道具と一緒に昼食も持ってきたはずなんですが……見当たりません」


若者は切り倒す木の周りをぐるっと見渡しているが弁当はなかった。ストーマとロバートも辺りを探すが弁当らしきものは見当たらなかった。


「確かにないな。モンスターに弁当を持っていかれたんじゃないか?」


と、ロバートが言うとストーマが何か閃いたのか、若者にもう一度モンスターの特徴を聞き出した。


「先ほども言いましたが木のように枝分かれした角と、死んだような目をしていました。あまりの姿にすぐに目を逸らして逃げてしまったので深く思い出すのは……」


と、若者は言った。それを聞いたストーマは手を叩いてこう言った。


「やっぱり……。ロバートさん犯人は解ったよ」


「犯人? だれかの仕業だってのか?」


と、ロバートが聞き返すとストーマはこう言った。


「この近辺じゃモンスターなんて滅多に見かけない。そして人を襲わないで弁当だけを盗んでいった。それを行うとしたら彼らしかいない」


「彼ら?」


と、若者が聞くとストーマは頷いた。


「うん。多分こっちのほうだ」


ストーマは森の中を先頭で歩き出した。若者とロバートはストーマの後を追いかける。ロバートも向かう先に歩き出した途端に犯人が解ったのか、ああと声をあげて手のひらを叩いた。数分後、三人は森の中にある集落に到着した。ここにはゴブリンと言われる亜人が住んでいる。


「ここに犯人がいます」


と、ストーマが言い切ると若者はこう反論した。


「私が見たのはゴブリンではなくもっと違う生き物です。決してゴブリンでは……」


「まぁいいから。もうちょっとついてきて」


そう言うとストーマは集落の奥にある一つの家を訪ねた。ストーマはドアをノックすると一人の女ゴブリンが顔を出した。その女ゴブリンは頭にウサギの耳が生えており、それ以外は特に変わった様子もない人間であった。


「あらストーマ君おはよう。こんな朝から一体どうしたの?」


「サッキーさんおはよう。朝から悪いんだけど、一つ事件が起きちゃってさ」


サッキーと呼ばれた女ゴブリンはストーマの後ろにいる若者とロバートを見て大体を察した。


「もしかして仲間の誰かが迷惑かけちゃった……ってことかな?」


と、サッキーが言うとストーマは頷いてこう言った。


「うん。前に狩猟で手に入れた鹿の顔を子ゴブリンたちが遊びで持っていっちゃったことがあったんだ。それを使って今回悪さした子ゴブリンがいるんじゃないかって訪ねたんだよ」


それを聞いたサッキーは少し考えた後に思い出したような顔をして答えた。


「あー……いたねぇ。ここでもそれを使って仲間を驚かして楽しんでた奴が……。後で戻ってきたらとっちめて謝罪行かせるから今日のところはお帰り願えないかな?」


と、眠そうにあくびを始めるサッキー。見たところ起きて間もない様子であった。


「うん。そうしてくれると助かるよ。それじゃ俺らはこれで戻るね」


「あーうん。お仕事頑張ってねー……」


こうして三人は村へと戻った。昼頃に子ゴブリンの一人が警備隊の事務所に謝りに来たことは言うまでもない。そしてその日の昼過ぎ、二人は朝と同じように事務所の机を囲んでのんびりしていた。


「全くここの村人は早とちりすぎる。昨日だって商人と盗賊を間違えて大騒ぎしだすしよ」


とロバートが愚痴をこぼした。それを聞いたストーマはロバートの前にお茶を差し出してこう言った。


「村が平和な証拠だよ。本当に盗賊なんかが毎日出てたら大変じゃない」


「俺はそっちのほうが楽しめるんだけどな……」


と、雑談を交わしているとまた事務所の外で何か騒ぎが始まったのか叫び声が聞こえはじめた。


「また仕事のようだなストーマ」


「今度は何だろうね」


「変なことじゃなければ歓迎だ。特に剣を使う仕事なら大助かりだ」


と言いながら二人は事務所の外に出て叫び声の発端を見に行った。

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