動き出す者。
きりのところで終わったのは久しぶりです。
まだ残暑が厳しいですが朝と夕方は先月と比べてかなり過ごしやすくなった分、マシになったと言うべきでしょうか。でも夏が苦手な私にはまだキツい訳で……。
制服に着替えた夜城を出迎えて、屋敷の外へ出ると既に黒塗りのベンツが待機していた。使用人としての性分なのか、俺達の姿を確認すると黒南風さんはわざわざ運転席から降りてドアを開けて俺達を中へ誘導する。夜城は慣れてるからともかく、庶民気質な俺にはそこまで丁寧なもてなしを受けるとくすぐったい気分になる。
俺達が席に付いたのを確認すると黒南風さんは再び運転席へ戻り、車を走らせながら俺のナビに従って家を目指す。屋敷から学校までの通学ならリムジンでも何の問題もないが俺の家は道幅が狭い為、リムジンでは曲がりきれない角が多い。仮にそうでなくとも細長いリムジンが市街地を走ればそれだけ迷惑だと思うけど……。
「そこの角を左に曲がってから車を止めて下さい」
屋敷を出てから僅か十分。あっと言う間に俺達は目的地周辺までやって来た。左へ曲がり、適当なところで車を黒南風さんは車を停止させる。
「出来るだけ早く戻って来てね?」
「夜城、そこは気をつけてねと言うとこだろ」
「別に気をつけることなんてないと思うけど?」
チッ、やはり夜城にこのノリを期待するのは無理があったか。そのことに少しだけ落胆するものの、すぐに俺は下車して足早に自宅へ向かう。流石にこの時間に君江さんが家に帰ってるとは思えないけど、なんか見つかったらどうしようという罪悪感がもやもやとして胸にこびり付く。
「……?」
玄関前まで来て何気なく家を見上げた時、ふと妙な違和感を覚えた。パッと見た感じは別に変わったところはないんだが……なんだ? なんか妙な胸騒ぎがする。
「…………」
分からない。俺は一体何を感じ取ったんだ? 自問しつつ鍵を開けて入ろうとしたが逆に鍵が掛かってしまう。えっ? ひょっとして俺、鍵開けっ放しで朝出て行った?
(……いや、そんな筈はない)
昨日の記憶を辿ってみてもその可能性はないと、自信を持って言える。確かに俺は昨日、学校へ行く前にしっかりと戸締りをして出て行った。玄関の扉に鍵を掛けて、本当に掛かってるかどうかも確認したから間違いない。にも関わらず玄関の鍵が開いてたということは君江さんが家にいるかも知れないってことか?
(家に居るからって鍵掛けないのは無用心でしょう……)
胸中でこの場に居ない君江さんに忠告して、改めて鍵を開けて入って──思わず絶句した。君江さんが腕を組んで仁王立ちしてるから? それだったら冷や汗ものだけどある意味状況はそれより酷い。
だって──玄関を開けて飛び込んだ光景は荒らされた形跡が傷痕として残っていたんだから。
「君江さんっ!」
堪らず、家主の名前を大声で呼ぶ。靴を脱ぎ捨ててリビングに駆け込む。
椅子が倒れ、花瓶の破片が広がっているが人の気配は感じられない。いつも通帳と印鑑をしまってある引き出しを確認してみたが抜き取られた形跡はなかった。それだけで物取りでないことは明白だ。
(まさか、君江さんが……っ!)
家に入る前から感じてた胸騒ぎがここに来てはっきりとした形で俺の心を掻き乱す。慌てちゃ駄目だと必死で自制心を働かせて君江さんの部屋を目指す。
ドアノブを捻って、扉を開ける。本棚にビッシリと並んでた本は床に乱雑している。引き出しも開きっぱなしで大事そうな資料がその辺に投げ捨てられてる。前々からどんな仕事をしてるか謎だったけど、ひょっとして君江さんの仕事って結構危ない系だったりするのか?
(くそっ、次から次へと……っ!)
苛立ちのあまり、壁に拳を叩きつける。自分の力ではどうすることも出来ないと分かってはいても家族の身に何かあって平然としていられる程、俺はドライな人間じゃない。頭では分かっていても感情が追いつかず、二度三度と壁を叩く。それで気分が晴れる訳がないが少しだけ落ち着きを取り戻すことが出来たのは不幸中の幸いだ。
(……そうだ、携帯…………)
君江さんがこの家に居ない。それは分かった。なら残された手段は携帯に連絡して安否の確認を取るしかない。電話帳を呼び出して君江さんの番号にコールする。
『この電話は現在、電源が切られているか、電波の届かない地域にあります──』
「くそっ!」
電話も駄目か。安否が確認できない以上、後はもう君江さんの無事を祈るしかない。取り合えず学校行く準備する前に警察に連絡した方がいいだろう。そう思い、携帯から警察へ連絡しようとして──
「水を刺すようで悪いけど、警察は止めた方がいいと思うよ」
俺の行動を制止するように第三者の声が介入してきた。誰かなんて確かめるまでもない、夜城だ。
「なんで来たんだ?」
「皇君の叫び声が聞こえたから」
そうか、俺の声はそんなに五月蝿かったのか……。いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
「夜城、警察は駄目だと言ったが犯人に心当たりでもあるのか?」
俺の質問に夜城は小さく首を振る。じゃあなんで警察は止めた方がいいなんて言い出したんだ?
「犯人に心当たりなんてない。……でも犯人の目的なら分かった」
「目的って、君江さんじゃないのか?」
「少し違う。犯人の目的は栂野君江じゃない、私たちと同じ六条星夜の確保。それが奴等の目的」
そう前置きしてから夜城はトランプサイズのカードを俺に差し出す。表の柄は見たこともないレリーフが彫られてる。多分、君江さんを襲った敵組織のエンブレムか何かだろう。
「灯台下暗しってよく言うわよね。正直、こんな身近に居たなんて完全に盲点だったわ」
身近に居た? 一体何の話をしてるんだ、夜城の奴は?
「皇君は知らないのも無理はないけど、皇君の育ての親……栂野君江さんは私たちの組織で科学班の班長をしてるの。だけど栂野さんは始めからこちら側の人間じゃない。十数年前、私たちが拾った人。そして私たちが拾う前の彼女は六条の姓を名乗ってた」
「…………」
初耳だった。前々から君江さんは只者じゃないとは思っていたけどまさか君江さんの職場が夜城の科学研究部で、しかも昔は夜城と敵対関係にある六条家の人間だったなんて……。正直、あまりの展開に俺自身が付いて来れてない状態だ。
「……それで、夜城はどうするつもりだ?」
「栂野さんが六条の姓を隠してたってことは六条星夜である可能性が出て来たから探すわ。確かに性別を偽ってウチの傘下に入れば隠れ蓑としては最高の環境よ。私たちからしたらまんまとやられたってところだけど」
「…………」
夜城の言い分は分かる。警察とは根本的に違う組織であるなら個人の経歴をより深く調査することはないだろう。そういう組織もあるかも知れないが夜城たちのところはそれをしなかった。だから今まで君江さんは身分を隠し通すことが出来た。
だけど──
「君江さんのこと、信じてやってくれないか?」
夜城は六条星夜の処遇に対して『悪いようにはしない』とは言ったけど正直なところ、今の夜城を見るとその言葉を信じるのが難しい。それに夜城は普段の時と戦う時とのギャップが激しいから本当に何をするか分からない。
「それは栂野さん次第だよ。私が正義の味方である以上、悪は絶対に許しちゃいけない存在だから」
真っ直ぐな眼が──まるで俺の心の内まで射抜くような眼光が、俺の網膜に焼きつく。そこには普段のおどおどした夜城の姿なんて全く見当たらない。あの眼はプロの格闘家がリングに上がって相手を睨める時の視線そのものだ。
「ひとまず私はこの部屋を少し調べるから皇君は先に学校行ってて」
話はそこで終わりなのだろう。夜城は携帯を使って黒南風さんを呼ぶとすぐに乱雑した本をいくつか手に取り、ページを捲り始める。多分、俺が声を掛けたところで夜城が俺に興味を示すことなんてないだろう。だから俺は黙って君江さんの部屋を出て行くことにした。
「…………」
パタンっと、扉の閉まる音が耳朶に強く残る。酷く静かな廊下はまるで俺の気持ちそのものを表してるように思える。
家族がピンチで、友達がその家族に危害を加えようとしている──
君江さんも夜城も、どちらも俺にとって大事な存在で、どちらか一方を取ることなんて出来ない。それでも俺は選ばなければならない。揺らした天秤が掲げた方を手に取り、傾いたモノを切り捨てる覚悟を。
聖が部屋から出て行ったのを確認することもなく、入れ替わるように入室してきた砕牙に短く指示を飛ばし、黙々と資料を読み漁る沙耶。まだ君江が星夜であると断言は出来ないが大まかな筋は通っている。
六条星夜が六条本家から消えたのは十年前。そして君江が名前を偽り、夜城家に拾われたのも十年前だ。話の筋は通るし、何より当時の六条家は後継者争いの真っ只中だったと聞いてる。当時の星夜がそれなりの歳であることは容易に想像が付いた。
(後は、栂野さんが六条星夜だという証拠さえあれば……)
君江が名前を偽っているのは分かったが、正直なところ情報不足で君江が六条の人間だという確かな証拠は掴みきれていない。とはいえ、全く信憑性のない情報でもないので現状は『その可能性が高い』という程度のものなのだが……。
「……?」
何気なくページを捲ると、不意に一枚の写真が抜け落ちた。興味本位で写真を拾い上げてみるとそこに移っていたのは君江を始めとする六条家の人間。
そして──
「……そういうこと、だったの」
写真に写っているその人物を見て、誰に言う風でもなく呟く。どうして星夜が六条家を抜け出せたのか今まで謎だったがその写真にはその答えが示されていた。時間は掛かったが自分たちの読み通り、星夜はこの町にいた。
「黒南風さん、皇君は?」
「皇様でしたら今頃は学校へ行っていると思われますが、如何なさいましたか?」
「六条星夜の正体が分かったわ。これを見て」
事務的に告げると沙耶は写真を砕牙に投げ寄こす。空中に放り投げられた写真を器用にキャッチした砕牙は言われた通り写真に目を落とし──驚愕した。
「お嬢様、まさかこれは……」
「そう。星夜っていうぐらいだから女だと思ってたけどそれがそもそもの間違いだった」
淡々と告げ、砕牙から写真を受け取りそれを本のページに挟み直し、本棚へ戻す。君江が六条の姓を名乗っていたのは事実だろう。しかし彼女は星夜ではなく、彼を屋敷から連れ出した張本人。どういう意図を持ってそんな行動に出たかは分からないが、今一つだけハッキリしていることがある。
「黒南風さん、すぐに追いかけよう。まだ遠くへは行ってない筈だから」
後ろ指を突かれてる気持ちはあるが、正直なところ真っ直ぐ学校へ行く気分にはなれなかった。学校で授業を受けて放課後になった頃には多少なりとも落ち着くことが出来るかも知れないが、それでも俺は学校へ行く気分にはなれなかった。
(君江さんが巻き込まれた原因はやっぱり、俺だよな……)
家の現場と現状を鑑みれば俺に原因があるのは一目瞭然だ。しかも夜城は俺の家を捜査してるんだ。、、、、あのことがバレるのは時間の問題と言っていい。だから俺は敢えて学校へは行かず、こうして私服で町に出てる。……あぁ、藤原先生のメンチ切った顔がありありと眼に浮かぶわ。
(タイヤ引きグラウンド二○周ぐらいは覚悟しとかないとなぁ……)
呑気にそんなことを考えつつも、どうすれば君江さんを助けられるかを考える。ついでに夜城の対応策も練らなきゃならない。
当たり前だが正面から戦うのは論外。夜城家ってのは表の世界でも結構幅の利く財閥だ。そうでなくとも人員を割いて俺を探し出すなんてことは容易い。となれば残る道は夜城自身の説得なんだが……まぁその辺については追々考えるとしよう。まずは君江さんの行方だけでも掴まないと。
(けど、どうやって行方を掴めば……)
夜城の話によれば警察関係者はあまり宛にはならないらしい。仮にそうでなくとも事実関係がハッキリしてないこの事件をまともに扱ってくれるかどうかさえ怪しい。そもそも君江さんが今、無事に逃げ延びているのか? それとも既に捕まっているのかさえハッキリしてないんだ。せめてそれだけでも分かればもちっとマシな方針が立てられるんだが……。
あーでもない、こーでもないと一人悶々と唸っていると不意に携帯電話が鳴った。画面には公衆電話と記されていた。
「……はい、皇です」
『聖、私よ』
「き、君江さん!?」
深く考えずに電話に出てみれば相手は君江さんだった。こうして電話を掛けてきたってことは少なくとも君江さんは敵に捕まってない……と考えていいのか?
「君江さん、今何処にいるんですか?!」
『安全な場所よ。それより聖、あなたここ数日誰かに襲われたりしなかった?』
「それは……」
正直に話していい事なのか? でも今のところ手掛かりが無いに等しい状況だし……。
「……六条星夜の件で襲われたよ。それと夜城沙耶って娘から君江さんの職業のことも知った」
『沙耶ちゃん今こっちに来てるの!?』
「来てますけど……君江さん知らなかったんですか?」
能力云々の件もこともあるから俺はてっきり君江さんもある程度の事情を知ってるとばかり思ってたんだが……。ひょっとして君江さん、夜城と面識薄いのか? でも夜城のことちゃん付けで呼んでたからそれなりに親しいとは思うけど。
『……聖、もしかして夜城ちゃん…………』
「多分、もう知っていると思う」
『…………』
それだけで君江さんは俺の言いたいことを悟り、押し黙ってしまう。君江さんも何時かはこんな日が来るって予想はしてたんだろうけど今回は間が悪すぎる。そしていよいよという時が来れば、俺は──
『聖、もう事情は察していると思うから説明は省くわ。……今、この町に六条家の刺客が二人いるわ。あなたを捕らえる為に』
「はい……」
『本当なら私が側にいて守ってあげなきゃいけないけど今、それをすることが出来ない状況なの。……けど聖、あなたならどうにか持ち堪えてくれるわね?』
「任せて下さい君江さん。君江さんだって知っているでしょう? 俺は──正義の味方なんですから」
君江さんを安心させる為に強がってみたけど実際、君江さんがどうにかしてくれるまで持ち堪えられる自信なんてこれっぽっちもない。相手は戦いのプロに対して俺は素人丸出し。しかも俺の能力は未だにどういう物なのか分からない状態。逃げ切れるっていう確信はないけどここまで来たら乗りかかった船だ。是が非でもやってやろうじゃないか。
『それを聞いて安心したわ。出来る限り早く合流するからそれまで無事でいてね。……じゃ、切るわよ』
その言葉を最後に、君江さんは電話を切った。もう後戻りは出来ない状況だが元より逃げ場なんてない。いや、逃げ場がないっつーか単に逃げ回るだけだしそれはそれで男としてはちょっと情けない気もするけど……致し方ない、か。
(……ま、とにかく今は逃げるか)
別段、隠れ場所に宛がある訳じゃないがひとまず人込みの多い通りに出てどうするか考えよう。木を隠すには森っていうぐらいだからな。……あぁでも、こうなると分かればせめて足ぐらいは用意したんだが……流石に今、家に戻るのは危険か。鉢合わせなんかしたら大変だし。そう思いながら俺は商店街の方へ向かっていった。
聖が本格的な逃亡を始めた頃、学校は丁度その日のカリキュラムを終えていた。この日の授業は教員側の都合で短縮となり、普段の日よりも早く放課後を迎え、多くの生徒があの先公が口うるさいだの、駅前に新しい店が出来たなどと話しながら帰路に着いていた。
「…………」
そんな中、一人だけ明らかに機嫌の悪い生徒がいた。
喜多川宗谷である。文武両道、容姿端麗、才色兼備、おまけに実家は金持ちである彼は典型的な御曹司と言ってもいい。唯一、欠点らしい欠点を挙げるとするなら男に対してのみ、上から目線であることぐらいだろう。その彼が今、こうして悩んでいる姿は──実はそう珍しい光景ではない。
(皇聖め……)
結局、今日は登校することのなかった友人の顔を思い浮かべる。有り体に言えば宗谷は聖に対して強い劣等感を抱いている。成績で負けてる訳でも、容姿が劣っている訳でもない。なのに自分はただの一度たりとも、あの男に勝ったと思えた試しがない。
(何故、あいつばかり……)
あいつばかり、俺の欲しいものを手にしている──
何度も自問してきた問いを胸中で反芻する。能力で勝っていようとも、自分にはどうしても聖のようなカリスマ性がない。クラスの皆は彼のことを良く思っているし、クラスでの話し合いが暗礁に乗りかかった時は大抵、彼が率先して場を纏めていく。
無論、彼にもそれだけの能力はある。が、少なくともクラスメイトたちが選ぶのはいつも決まって聖であって、宗谷ではない。
昨日の一件もそうだ。新たに自分たちのクラスにやってきた転校生──夜城沙耶は他の誰でもない、聖に対して誰よりも強い好感度を抱いている。当人たちは否定してたし、聖も彼女には興味がないと言っておきながら気さくな感じで彼女と実に楽しそうに話をしていた。
嫉妬。羨望。宗谷の心像を言い表すなら概ねそんなところだろう。
「そこの君、少しいいかな?」
「何だね?」
不機嫌極まりない時に声を掛けられた所為か、いい加減な態度で対応する。教師か友人がその場に居れば彼の行動を見咎めていただろうが生憎と周りにはそういう人間は誰一人としていなかった。
「失礼。どうも私から見たあなたは心中、穏やかではないので何事かと思いまして」
「そうですか。でしたら放っておいて頂けますか? こう見えても僕は──」
「皇聖に勝ちたくはないですか?」
「ッ!?」
まるで自分の胸中を読み取ったかと思ってしまうほど、目の前の男は宗谷の気持ちを正確に言い当てた。不機嫌だとか、怒っている風に見えるという次元ではない。完全に心を読んでいると言っても差支えがないレベルだ。しかもこの男は聖のことを知ってると来ている。
「皇の知り合いですか?」
「知り合いという程でもないが……まぁ、似たようなものだと思ってくれて構いませんよ。……それより君に一つ聞いておきたいことがあります」
「何ですか?」
不審に思いつつも、宗谷は特に考えず男の話に乗ってきた。それを見て、男は僅かに口元を吊り上げるが宗谷がそれに気付くことはなかった。
「君が劣等感を抱いている男……皇聖に勝ってみたくはありませんか? もし君にその気があるなら私は協力することを約束します」
「ほ、本当ですか!? ……あ、いや。疑う訳じゃあないんだが、本当に勝てるんですか?」
「えぇ、本当ですとも」
念を押すように訊く宗谷に対し、男は笑顔で答える。その表情から何かを汲み取ったのか、彼は実にあっさりとこの男の言葉を信用してしまった。
「そういうことなら是非お願いします! ……えっと──」
「ガイ、と申します。私を知る人間は皆、そう呼んでおります」
その男──六条家から派遣された彼は、極めて友好的な笑みを浮かべてそう言った。