女神様、私に“腕力スキル”とかいらないですから!? 〜帰りたいのにイザークさんが切なすぎる〜
女神ルミエールがまたしても勝手なことを…!
「腕力スキル」を授かった私は、なぜか丸太も荷馬車も軽々持ち上げられるように。
笑っているイザークさんだけど、その瞳の奥には“ある切なさ”があって――?
そして村に響く悲鳴。初めての実戦が始まる!
甘さ・笑い・切なさ、全部入り回です。
村の長老の家を出たあとも、イザークさんはどこか口数が少なかった。
歩く横顔が、少しだけ陰って見える。
「……どうしたんですか?何か気になります?」
「いや……」
短く答えたあと、低く続ける。
「本当に……そのうち帰ってしまうんだな、と思って」
その言葉に、胸の奥がチクリと痛んだ。
「……まだ帰る日なんて決まってないですよ」
そう答えると、イザークさんは微かに笑った。けれどその笑みは、どこか寂しげだった。
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家に戻ると、彼は気を取り直したように言った。
「腕力スキル……本当に身についたか、試そう」
「試すって、どうやって?」
「これだ」
差し出されたのは、私の背より長い丸太。
「いやいやいや!これ絶対無理ですって!」
笑いながら両手をかけた瞬間――
ズボッッ!
信じられないほど軽く、丸太が持ち上がった。
「……うそ、なんで?」
私が混乱していると、イザークさんは驚きと嬉しさの入り混じった目を向けてきた。
「軽々と……本当に力がついている…」
「ちょっと面白いかも!他にも試してみたい!」
イザークさんが口元を緩める。
「なら……これだ」
今度は近くにあった荷馬車を指差した。
「いやいやいや、これさすがにムリですよ!」
そう言いつつも、持ち上がってしまった。しかも車輪ごと。
「うわぁぁ…!なんか怖い!」
慌ててそっと元に戻すと、イザークさんは腕を組んでふっと笑った。
「これなら俺がいない時も安心だな」
「……え?守ってくれるんじゃないんですか?」
「もちろん守るさ。だが……お前の方が強くなりそうでな」
その言葉は冗談めいていたけれど、どこか本気にも聞こえた。
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そんなやりとりをしていた時だった。
遠くから、村人の悲鳴が響く。
「オオカミだ!家畜小屋にオオカミが!」
私とイザークさんは顔を見合わせる。
その瞳に、一瞬だけ戦士としての鋭さが宿った。
「……行くぞ」
「えっ、私も!?」
「腕力スキルを試すには、いい機会だ」
そう言って剣を抜くイザークさん。
私はごくりと息を呑む。
胸の奥で、緊張と不思議な高揚感が同時に膨らんでいた。
――そのとき、彼が小さく呟いたのが聞こえた。
「……こうして一緒に戦う日が、いつまで続くんだろうな」
その声は、風に溶けてしまいそうなほど静かで。
けれど、耳に残って離れなかった。
こうして、私の“初めての腕力スキル実戦”が始まったのだった――。
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今回、イザークさんの「帰ってしまうのか…」が本音過ぎて、私も胸がぎゅっとなりました。
でもそのあと腕力スキルで丸太や荷馬車を持ち上げる私に、ちょっと笑ってくれたのが救いです。
次回は初めての実戦!オオカミ戦です。果たして腕力スキルは役に立つのか…?それとも…?
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