【番外編⑤・完結】春風に結ばれる想い 〜ミクの恋物語〜
今回は「ミクの恋物語」編のラストとなる番外編です。
彼女がトウジと心を通わせ、新しい一歩を踏み出すお話。
どうぞ最後までお楽しみください。
公園で全てを話し終えたあと、トウジはしばらく黙っていた。
やがて決心したように顔を上げ、ミクをまっすぐ見つめる。
「……今、ヨウコは家にいるか?」
思わぬ問いに、ミクは目を瞬いた。
「えっ……今日はヨウヘイさんとデートに行くって……」
言いにくそうに答えると、トウジは小さく頷き、穏やかに続ける。
「ちょうどいい。二人のところへ行っていいか、聞いてみてくれないか」
その真剣な眼差しに、ミクは息をのむ。
けれど、次の瞬間にはスマホを手に取り、姉へ短いメッセージを送っていた。
(今、トウジさんと一緒。会えないかな?)
すぐに返ってきた返信は――
(わかった。家の近くのカフェで待ち合わせよ。)
胸の奥で不安が膨らむ。いったい、何を話すつもりなのか。
そんなミクを見て、トウジは柔らかく笑んだ。
「大丈夫だ。ミクが思ってるような変なことは起きない。ただ……けじめをつけるだけさ」
その声に、胸の奥の緊張が少しだけ解けた。
――私は信じよう。この人のことを。
***
カフェには、すでにヨウコとヨウヘイが並んで座っていた。
ガラス越しに見える姉の横顔に、ミクの鼓動は早まる。
「よう。いきなり呼び出して悪かったな」
軽く片腕を上げて声をかけると、トウジは席に着いた。
その隣で、ミクは緊張で背筋を固くする。
「いいのよ。私も色々聞きたかったから」
ヨウコは穏やかな笑みを浮かべながらも、目は鋭い。
「……でも、今日はミクと出かけていたんじゃないの?」
「ははっ。そんな怖い顔するな。お前の妹を悲しませるようなことはしない」
そう前置きしたトウジは、表情を引き締めて言葉を紡ぐ。
「今日は……けじめをつけるために来た」
空気が静まり返る。
ヨウヘイも、姉も、黙って耳を傾けていた。
「ヨウコ。お前のことを、俺は愛していた。あの世界で……必死に追いかけて、失って、どうしても忘れられなかった」
ヨウコのまなざしが揺れる。
トウジは視線を落とさず、続けた。
「けど――今は違う。ミクが、俺の過去も全部ひっくるめて受け止めてくれた。気づいたら俺は、彼女のことばかり考えていた。俺には……こいつなんだって。だから、今日ここで伝える。これから俺は、ミクと共に歩む」
ミクの頬が一気に熱くなる。視界がにじみ、涙がこぼれそうになった。
ヨウコは静かに息を吐き、微笑んだ。
「……そう。やっと聞けたわ。おめでとう」
ヨウヘイも口元を綻ばせる。
「兄さん、おめでとう」
安堵の言葉に、ミクの胸がじんわりと温かくなった。
状況はまだ呑み込めないけれど――ただ一つだけ確かだ。
トウジさんが、私を本気で大切にしてくれている。
勇気を振り絞り、ミクは勢いよく宣言した。
「お姉ちゃん! トウジさんは私がもらうね! 私が、幸せにするから!」
その真剣な声に、一瞬場が静まり――次の瞬間、笑い声が弾ける。
「も、もう!真剣なのに!」
頬を膨らませるミクを、トウジは優しい眼差しで見つめた。
その姿を見て、ヨウコもヨウヘイもようやく肩の力を抜いた。
「それなら……このあと、ダブルデートでもしてみる?」
ヨウコの軽やかな提案に、場が和んでいく。
4人は並んで街へ歩き出した。
春風が頬を撫で、笑い声が青空へと溶けていく。
そして天界からその様子を覗いていたルミエールが、楽しげに声を上げた。
「まぁ! 想像以上にハッピーエンドじゃない! やっぱり人間って、面白いわね☆」
――それは新しい絆の始まりを告げる、祝福の風だった。
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これで「ミク編」はひとまず完結です。
彼女の不安や揺れる気持ちも、ようやく春風に解けていきました。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます!
次回更新についてはまだ未定ですが、気まぐれに番外編や別視点を投稿するかもしれません。
もし更新があれば、またぜひ読みに来ていただけたら嬉しいです✨




