【番外編】『背が高いだけの私が、美形兄弟と!? 〜妹ミクの物語③〜』
ミクは走っていた。
春の風が頬を打ち、ワンピースの裾がはためく。
涙でにじむ視界の中、足だけが勝手に動いていた。
「どうして……どうして私なんかが……!」
息を切らして足を止めた瞬間――
「ミク!」
背後から声が響く。振り返れば、必死に追いかけてきたトウジがそこにいた。
「追いかけてこないで……!お姉ちゃんじゃなくて、私なんかを……!」
震える声に、彼は力強く言い切った。
「今、俺が見てるのはお前だけだ」
その言葉に、胸が大きく揺さぶられる。
でも、ミクは必死に首を振った。
「私……最初はお姉ちゃんの代わりでもいいって思ってました。トウジさんを慰められるなら、それでいいって……!」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、言葉があふれる。
「でも……いつの間にか欲張りになっちゃって……!お姉ちゃんの代わりじゃ嫌で……私を見て欲しいって思うようになっちゃって……!わがままで、ごめんなさい!」
嗚咽が喉を震わせる。
トウジはしばらく黙っていたが、やがて深く首を振った。
「……違う。お前は代わりなんかじゃない」
一歩踏み出し、彼はミクの肩を強く抱き寄せた。
「覚えてるか? 雪の日のこと。裸足で飛び出して、俺のために泣いてくれたお前を、俺には"こいつだ"って思ったんだ」
ミクの瞳が大きく揺れる。
「ヨウコじゃない。俺が今見てるのは……ミク、お前だ」
その言葉に、ミクは堪えきれず、わんわんと泣きながら彼に飛び込んだ。
胸の奥の不安や恐れが、涙と一緒に溶け出していく。
「……っ、トウジさん……」
「落ち着いたら、ちゃんと話す。ヨウコとのことも……全部。だから、信じて待っててくれるか」
耳元で低く囁かれ、ミクは泣きながらも小さく頷いた。
――春の風が、二人を優しく包み込んでいた。
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今回はついに、ミクが自分の本当の気持ちを言葉にしました。
「代わりじゃ嫌」――彼女の涙が届いた瞬間、トウジもまた大切な想いを返してくれました。
ただし、まだすべてが解決したわけではありません。
次回は「ヨウコとトウジの過去と真実」に迫ります。
どうぞお楽しみに!
 




