護衛だらけデート・影のふたり
急きょ決まったギルヴァントとの二人きりデート――
……のはずが、影からこっそり(?)ついてくる黒い影がふたつ。
「護衛だ」と言い張るイザークと、「ただの野次馬」なナディールの、こそこそ&イライラ観察記録です。
ヨウコとギルヴァントが並んで歩く後ろ――さらにその後ろの路地や建物の陰に、黒い影がふたつ。
「……近すぎる。殿下、あれは完全に距離が近すぎる」
「はいはい、嫉妬するなよイザーク」
「嫉妬ではない。護衛としての判断だ」
「ほぉ、護衛ねぇ。じゃあその“護衛”は、殿下が彼女の手を取った瞬間、剣を抜きそうになってなかったか?」
「……抜きはしない」
「半分くらい抜いてただろ」
「……」
ドレスを見終えたあとに寄った宝飾店の中、ガラス越しに二人を見つめながら、イザークは眉間の皺を深くする。
ギルヴァントがヨウコにネックレスをつける仕草――それは、まるで誰かに見せつけるようにゆっくりで。
「くそ……」
「おやおや、殿下は普段こんな優しい顔をするんだな。新発見だ」
「普段と違いすぎて逆に怪しい」
「“恋”ってやつじゃないか?」
「そんなわけが――」
イザークの否定は、ギルヴァントがヨウコの耳元で何か囁いた瞬間、途切れた。
――近い! 近すぎる!
思わず前に出そうになるイザークの肩を、ナディールが押さえる。
「落ち着け。今行ったら尾行がバレる」
「尾行ではない。護衛だ」
「はいはい。じゃあ護衛さん、尾行がバレないようにもう少し影に隠れろ」
カフェに入った二人を、向かいの路地からじっと見張る。
甘い物が苦手なはずのギルヴァントが、ヨウコの差し出したフルーツを素直に口にする――その瞬間。
イザークの視線がギルヴァントの唇を追い、次にヨウコの笑顔に止まる。
「……くそっ! 俺でもされたことないのに!」
歯ぎしりするイザークに、ナディールは肩を震わせて笑った。
「イザーク、今日は帰ったら酒でも飲もうぜ。語ることが多そうだ」
「……余計な話を広めるな」
――そんな影のふたりの存在など露知らず、ヨウコは「思ったより楽しかった!」と笑顔で馬車に乗り込むのだった。
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ギルヴァントの溺愛モードにはヨウコは鈍感ですが、イザークは全力で気づいています。
そしてナディールは全力で面白がっています(笑)
次は……酒の席での“反省会”もいいかもしれませんね。
 




