ミニマルライフストーリーvol.2 ~ランニングで全国を旅する夢
主人公:隼人
27歳の公務員
好きなことは、ランニングとビール
ランニング後のビールが何よりも幸せ
夢は、日本全国を完走すること
10月31日、気温は21℃で晴天日和。
この日は気候にも気温に非常に恵まれている。
仕事が終わると直行で帰宅し、すぐにランニングシャツに着替えた。
夕飯を済ませて軽いストレッチをした後、家を出て走り出す。
90分走って帰宅した後に、シャワーを浴びる。
それからはテレビを見ながら、ビールを嗜んでゆっくり過ごした。
現在、一人暮らしをしている。
山の近くにあり、かなり田舎な場所だ。
会社の勤務地は、市役所なので市の中心部にある。
最寄りから勤務地まで電車で約20分かかり、降りてからも徒歩20分ほどかかる立地だ。
勤務地を考えれば、やや不便な立地かもしれない。
周りにスーパーやコンビニもほとんどない。
1kmほど歩いた先にコンビニとスーパーが1件あるくらいだ。
家賃が高い東京に住んでいるわけでもない。
いったいなぜ、そんな場所を選んだのか?
それは、空気が非常にきれいだからだ。
そして、そんな新鮮な空気の中をただ走りたいだけなのだ。
自宅付近では、家が比較的少ないため、自動車が通ることもほとんどない。
マンションや高層ビルがないため、空が広い。
割と広めの道路を独占して、一人で淡々と走っている。
そんな環境だと、歩いても、走っても、立っているだけでもとても気持ちがいいのだ。
さわやかな風が吹いていたら、なおさら気持ちがいい。
晴天日和の中、そよ風にあたり、おいしい空気を吸って走る。
家に帰ってシャワーを浴びた後、グラスにビールを注いでゆっくり過ごす。
至福のひとときだ。
これほど贅沢な過ごし方は他に見当たらないくらいである。
住んでいる物件はアパートだ。
一般的に見ると立地が悪いため、家賃は非常に安い。
1LDKの間取りで、家賃は4.8万円。
築年数も7年とかなり新しい。
それに加え、家賃補助が2万円出るため実質2.8万円で生活している。
1日のスケジュールはほとんど決まっている。
金曜日と雨の日以外、走らない日はない。
朝6時に起床し、30分の散歩。
7時には家を出発し、歩いて駅まで行く。
会社に到着するのは8時前。
8:15〜17:15まで基本残業なしで働いている。
ご飯を買って家に帰り、18:30には帰宅する。
それからご飯を食べて、90分走る。
シャワーを浴びて、ビールを軽く飲んでから寝る。
といった生活が、ほぼ毎日のサイクルだ。
休日に限っては、朝早くから、近くの山を頂上まで往復したり、大自然の中をクロスカントリー走したりしている。
日によっては、勤務地まで走って往復することもあるくらいだ。
会社に勤めてから、このようなライフスタイルが定番になっている。
なぜ、それほど走ることに夢中になったのか。
きっかけは、中学から大学まで陸上部で長距離をしていたことだ。
もともと実力派の選手で、高校では全国大会出場は叶わなかったが、あと一歩というほどの成績を収めていた。
大学は、スポーツ推薦で入学した。
将来は実業団に所属し、駅伝やマラソン選手として活躍することを夢見ていたのだ。
しかし、大学に入学してから、記録が思うように伸びなくなった。
足の故障も続いたので、3年生の頃にプロの道は諦めた。
それでも走ること自体は好きで続けたかった。
そこで競技ではなく、趣味として新たに再開したことが、自分の新たな人生へと導いたのだ。
部活に属していた時は、とにかく記録を重視していた。
ストイックに自分を追い込む練習が非常に多い。
なので走ることの楽しさよりも、自己記録を更新することに喜びを感じていた。
それはそれでもちろん楽しかった。
部活を引退してから、競技ではなく、趣味として走ることの楽しさに気がついたのだ。
周りの景色や空気を感じながら走ることの楽しさだ。
3年生の終わりまでは、陸上競技に専念していたため、就職先については考えていなかった。
始めは陸上のコーチになろうかと考えてもいたが、中途半端な実績しか残せなかったため道は険しかった。
学校の先生になって陸上部の顧問になることも検討していたが、教職もとっておらず、今からでは到底間に合わない。
考えながら日々過ごしていくうちに、当時公務員ランナーであった川内選手の活躍を意識するようになった。
彼のライフスタイルに惹かれるようになっていったのだ。
そこで自分も、同じようなライフスタイルを目指し、公務員を受験しようと決心したのだ。
決心したのは、4年生の4月。
春の公務員試験には間に合わない。
なので秋日程の地方にある市役所を受験することに決めた。
この時期、足の故障で練習や試合に参加できない状態が続いていた。
なので、監督に事情を話し、4月に退部した。
公務員試験の対策など何をすればよいかわからない。
そして時間も残されていない。
そのため公務員になるために学校に通いたいと親を説得した。
想いが伝わり、退部してすぐに公務員の予備校に通うことができたのだ。
何もかもが急なので焦りでいっぱいだったが、段取りはいったん全て完了した。
あとはひたすら勉強に取り組むだけだ。
勉強自体は全く苦手なわけではない。
大学はスポーツ推薦で入学したが、高校は一般入試で入学した。
高校受験までは人並みに勉強を頑張っていたのだ。
高校に入学すると部活動が基軸になったため、定期テストの直前だけ力を入れて勉強するような状態だった。
実際に公務員試験の勉強を始めて見ると、科目数も多ければ、内容も難しい。
それでも絶対にあきらめることはない。
退部の覚悟や予備校に通っている費用、自分が下した決断という責任感から、あきらめるという選択肢はなかった。
学校の授業も残っていたため、授業中はほとんど内職をしていた。
とにかくがむしゃらに勉強し、わからない問題はすぐに予備校の先生に聞くようにした。
部活動で鍛えられた集中力と根気強さで、当初は一日15時間くらい勉強していた。
始めは順調だったが、だんだんと能率の悪さに気がつき始めた。
睡眠も削って、ずっと椅子に座って勉強しているため、脳が疲弊していた。
眠気が頻繁に襲ってくる。
ぼーっとしたり、考え事をする時間も増えてきたことに気がついたのだ。
なので、やり方を変えてみた。
息抜きとしてランニングを1時間取り入れるようになった。
そして睡眠時間も2時間増やした。
そうすると能率がかなり上がり、今まで以上に集中して勉強できるようになったのだ。
結果的に、地方の市役所を4か所受験して、2つ合格することができた。
走ることの楽しさを改めて学んだのは、勉強の合間の息抜きとしてのランニングだった。
陸上部にいた頃は、タイムを上げることだけが念頭にあったため、いつの日か純粋に走ることの楽しさを忘れていたのだ。
リラックスして走ることで、周りの景色や空気を感じることができる。
体力的にも精神的にもゆとりをもって走ることで、爽快感が得られる。
その効果が勉強を大きく捗らせ、合格につながったと信じている。
内定が決まってからは、趣味としてのランニングばかりするようになった。
大学が都会的な立地にあるため、今まで行ったことのない街をあちこちと走り巡るようになったのだ。
そのランニングの習慣が、今の生活の基盤となっている。
地方への引っ越しで物件を決める際に、走ることを基軸とした生活環境に身を置きたかった。
なので、通勤が可能な範囲で、走る環境が整っていそうな物件を選ぶことにしたのだ。
実際、社会人になってから、あまり生活のイメージは変わらなかった。
強いて言えば、週末の仕事終わりに同僚や先輩たちと飲みに行くのが恒例になったのは意外だったかもしれない。
走るのはもちろん楽しいし、家で一人で飲んでいるときも楽しい。
しかし、たわいもない会話で、みんなでワイワイガヤガヤと盛り上がるのも非常に楽しい。
質素な生活を心がけているわけではないが、お金を使うことと言えば、飲み代くらいだ。
あとはランニングシューズがボロボロになったときに、買い換えるくらいである。
食事においては、仕事帰りに駅近くのスーパーで、半額になった総菜や菓子パンと缶ビールを買う。
朝は菓子パン、昼はお弁当、夜はご飯を炊いて総菜を添えて食べるといった食生活だ。
ランニングとゆっくりする時間を確保するため、料理や洗い物をする時間を極力省いている。
そういった生活を続けていくうちに、何か新しい夢をもちたいと思う気持ちがだんだんと湧いてきた。
走ることが大好きだ。
走ることを通してもっといろんな楽しみを見出したい。
最初に思いついたのは、フルマラソンやハーフマラソンに参加することだ。
しかし、これらは競技なので、やはりタイムを意識してしまう。
それだと陸上競技と何ら変わりはない。
もっと走ることを楽しめる形で、何かないかとぼんやりと考えていた。
そんなある日、テレビでクロスバイクで日本を横断するという特集を見ていた時に、
“これだ!”
というアイデアがひらめいた。
それが、ランニングで日本全国を旅するという夢だ。
普段のランニングも楽しいが、新しい試みとしてもっと大きいことにも挑戦したい。
日常生活に刺激的なスパイスを加えたかったのだ。
すぐにでも挑戦したかったが、仕事を辞めるわけにはいかない。
なので長期休暇や有給を使って、一県一県を回っていこうと考えた。
しかし、ただ走るだけでは自己満足で終わってしまう気がしていた。
そこでXやインスタを通して、その旅の様子や自分の夢、走ることの楽しさを多くの人に共有したいと考えたのだ。
そして、実行に移し始めたのが24歳の時だ。
現在、山口に在住している。
同僚たちに自分の夢を話した時、始めは何を言い出すのかと驚きあきれていた人もいた。
当然の反応だ。
しかし、山口県を制覇したときの状況を話してから、みんなの様子が変わっていった。
東西は岩国から下関まで、南北は宇部から萩まで広域にわたっている。
週末を利用して、山口を約3か月かけて走り切ったのだ。
その話をしたときに、本当にすごいと周囲の人たちが感動していた。
それ以来、みんなが心から応援してくれている。
それからも電車やバスを一部利用しながら、他県を走り回った。
広島・岡山・島根・鳥取といった中国地方を約3年かけて完走することができたのだ。
現在は九州を攻略している最中だ。
面積が大きい都道府県は、体力的にも精神的にもかなりの気力が必要である。
特に北海道においては、想像するだけでも挫折しそうな広さだ。
しかし、新しい土地を走ることができて、走りがいのあるコースが多いといった喜びもある。
何年かかってもいい。
それでもあきらめず、地道に一歩ずつ自分の夢に近づいていきたい。
自分にとって必要なモノ、それは健康な体と心だ。
それさえあれば他に何もいらない。
いつまでも元気に走り続けられること。
そして、その後においしいビールが飲めること。
そういったシンプルを極める生活こそが自分を豊かにしてくれている。
全国を駆け巡る旅はこれからもまだまだ続いていく。