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みんなの質問コーナー

(休憩を終え、再びそれぞれの席に着いた対談者たち。先ほどのプライベートな雰囲気は薄れ、再び議論の場としての緊張感が戻りつつある。司会者あすかが、手元のタブレット端末のようなものを見ながら、明るくコーナーの開始を告げる)


あすか:「さあ、皆さん、スタジオにお戻りいただきありがとうございます!休憩室『SalondesÉtoilesPerdues』では、少しはリラックスできましたでしょうか?さて、番組もいよいよ後半戦!ここからは、この歴史的な対談をリアルタイムでご覧になっている視聴者の皆さんからの質問に、直接お答えいただく『みんなの質問コーナー』をお送りします!」


(あすか、タブレットを示しながら)


あすか:「いやー、もう、私のこの端末『クロノス』にも、皆さんへの質問が、それこそ時空を超えて殺到しておりまして!熱い議論を受けて、皆さんの言葉をもっと深く知りたい!という声で溢れていますよ!全てをご紹介できないのが残念ですが、いくつかピックアップさせていただきました。時間の許す限り、お答えいただければと思います!」


(あすか、最初の質問を選ぶ)


あすか:「では、最初の質問です。これは…ルネサンス時代の美術を研究しているという、フィレンツェの学生さんからですね。ミケランジェロさんにお伺いします。『あなたは芸術を「神への奉仕」だとおっしゃいましたが、具体的に、作品を創る上で、どのように神の存在を意識されているのでしょうか?また、教皇など、現世の依頼主の意向と、神の御心と思われるものが異なった場合、どうされるのですか?』…とのことです。ミケランジェロさん、いかがでしょう?」


ミケランジェロ:「(少し考え込み、厳かに)…神への奉仕、それは単なる言葉ではない。制作を始める前、私は必ず祈りを捧げる。そして、大理石と向き合う時、あるいは壁画を描く時、私は常に神の視線を意識する。この手は、神から貸し与えられたもの。この才能も、神の栄光のために使うべきもの。その思いが、私を支え、困難な仕事へと立ち向かわせるのだ」


(ミケランジェロ、一度言葉を切る)


ミケランジェロ:「依頼主の意向と神の御心が異なると感じた場合…それは、芸術家にとって最も過酷な試練だ。私は、可能な限り、依頼主を説得しようと試みる。神学的な解釈や、芸術的な必然性を説いてな。しかし、どうしても聞き入れられぬ場合は…(苦々しい表情になり)…最終的には、己の良心、すなわち神の声に従うしかない。たとえそれが、依頼主の不興を買い、仕事や報酬を失うことになったとしてもだ。…もっとも、教皇陛下のようなお方を完全に無視することはできん。そこには、常に葛藤があった…」


ダ・ヴィンチ:「(静かに頷き)…ミケランジェロ殿の苦悩、お察しする。私も、パトロンの意向と自身の探求心が衝突することは少なくなかった。芸術家が、その純粋な創造性を保ちながら、現実社会とどう折り合いをつけていくか…それは、いつの時代も変わらぬ難問ですな」


あすか:「神の声と現実の依頼…その狭間での葛藤、そして譲れない信念。ミケランジェロさん、貴重なお話、ありがとうございました。さて、続いては、現代美術に興味があるという、パリの若者からの質問です。ピカソさんにお願いします。『あなたの代名詞でもある「キュビズム」ですが、なぜあのような、対象をバラバラにして再構成するような描き方をしようと思われたのですか?あれは、伝統的な絵画への反逆だったのでしょうか?』」


ピカソ:「(待ってましたとばかりに、ニヤリとして)反逆?まあ、それもあるな!古臭いアカデミーの連中が、遠近法だの写実だのに凝り固まっているのが、我慢ならなかったからな!だが、それだけじゃない。キュビズムは、単なる破壊じゃないんだ。もっと『リアル』な世界の見方を追求した結果なんだよ」


あすか:「もっと『リアル』な見方、ですか?」


ピカソ:「そうだ。考えてみろ。我々が物を見る時、一つの角度からだけ見てるわけじゃないだろう?例えば、目の前にあるこのグラス(テーブルのグラスを指す)。正面から見え、横から見え、上からも見える。それを同時に認識しているはずだ。あるいは、人の顔だってそうだ。笑っている顔も、怒っている顔も、その人の記憶の中にある様々な表情も、全部ひっくるめて『その人』として捉えている。キュビズムは、その『多角的な視点』や『時間的な経過』を、一枚の絵の中に同時に表現しようとした試みなんだ。一つの決まった視点から描かれた絵よりも、よっぽど現実に近い、新しい『リアリティ』だと俺は思うぜ!」


黒澤:「(感心したように)…なるほど。多角的な視点を一枚の絵に…。それは、私の『羅生門』で試みたことと、どこか通じるものがあるかもしれんな。一つの出来事が、立場によって全く異なる真実を見せる…」


ダ・ヴィンチ:「複数の視点を同時に…それは興味深い試みだ。だが、ピカソ殿、その結果として生まれた形は、多くの者にとって理解し難いものになったのではないかね?伝わらなければ、芸術としての意味が薄れるのでは?」


ピカソ:「伝わらない奴は、頭が固いだけさ!新しい見方を拒否してるだけだ!芸術は、分かりやすさだけが全てじゃない。観る者に『問い』を投げかけ、考えさせることも重要な役割なんだよ!」


あすか:「新しいリアリティの追求、そして観る者への問いかけ…!キュビズムの狙いが少し見えてきた気がします!ピカソさん、ありがとうございました!さあ、どんどん行きましょう!次は、映画監督を目指しているという日本の青年から、黒澤監督への質問です。『監督の作品は、どれも映像への強いこだわり、「完璧主義」が感じられます。なぜそこまで完璧を求めるのでしょうか?また、それは現場のスタッフや俳優との間で、軋轢を生むことはなかったのでしょうか?』」


黒澤:「(少し厳しい表情になり)…完璧主義、か。よくそう言われる。だが、私自身は、完璧だと思ったことなど一度もない。常に、もっと良くできたはずだ、という後悔ばかりだ」


(黒澤、言葉を選びながら続ける)


黒澤:「なぜ求めるか…それは、映画が、一瞬で消えてしまうものではなく、フィルムに焼き付けられ、後世まで残るものだからだ。だから、妥協はできない。今、自分が持てる全ての力、全ての知識、全ての感性を注ぎ込んで、最高のものを残さなければならない。未来の観客に対して、それは最低限の責任だと考えている」


黒澤:「現場での軋轢…それは、あっただろう。私の要求は、時にスタッフや俳優にとって過酷だったかもしれん。天候を待ち、何度もリテイクを重ね、彼らを精神的にも肉体的にも追い詰めたこともあっただろう。…(少し間をおいて)だが、本当に良いものを作るためには、それが必要だった。そして、私の『組』の連中は、その思いを理解し、必死についてきてくれた。彼らがいなければ、私の映画は一本も完成しなかった。彼らへの感謝の念は、決して忘れることはない」


ミケランジェロ:「(静かに頷き)…その気持ちは、少し分かる気がする。大理石も、一度削ってしまえば元には戻らん。だからこそ、一彫り一彫りに全霊を込めねばならんのだ。妥協は、神への裏切りにも等しい」


あすか:「未来への責任、そしてスタッフへの感謝…。黒澤監督の完璧主義の裏にある、熱い思いが伝わってきました。ありがとうございます。さて、次は少し趣向を変えて…美術愛好家の方からです。ダ・ヴィンチさんへ。『あなたは「モナ・リザ」や「最後の晩餐」のような最高傑作を残しながら、一方で多くの未完成作品があることでも知られています。なぜ、あれほどの才能がありながら、作品を完成させることができなかったのでしょうか?』」


ダ・ヴィンチ:「(苦笑を浮かべ)…耳の痛い質問ですな。たしかに、私の手元には、構想だけで終わったもの、途中で筆を置いてしまったものが数多くあります。それは、私の才能が足りなかったから…というよりは、むしろ、私の好奇心が旺盛すぎたせいかもしれませんな」


あすか:「好奇心、ですか?」


ダ・ヴィンチ:「そうです。一つの主題に取り組んでいる最中にも、次から次へと新しいアイデアや疑問が湧き上がってくるのです。解剖学、光学、水力学、飛行術…世界のあらゆる謎が、私を手招きする。すると、どうしてもそちらに気を取られ、絵画の制作が疎かになってしまう。あるいは、完璧を求めるあまり、わずかな不満点でも許せず、筆が進まなくなってしまうこともありました。私の理想は、常に現実の能力のはるか先にあるのです。完成させられなかったのは、私の怠慢であり、限界でもありましょうな」


ミケランジェロ:「(皮肉っぽく)フン、やはりな。才能の無駄遣いだ。一つのことに集中できぬ者に、真の偉業は成し遂げられん」


ピカソ:「いや、俺はダ・ヴィンチの気持ち、少し分かるぜ。次から次へとアイデアが湧いてきて、じっとしてられないんだよな!完成させることより、常に新しいことを始める方が面白いのさ!」


あすか:「旺盛すぎる好奇心と、完璧主義…天才ならではの悩み、ということでしょうか。ダ・ヴィンチさん、ありがとうございました。さあ、まだまだ質問は来ていますよ!次は、経済学を学んでいるという方からです。これは、ピカソさんと、あるいはダ・ヴィンチさんにも関連するかもしれませんが…『芸術とお金の関係について、先ほどのラウンドで議論がありましたが、改めてお伺いします。芸術家が豊かになること、商業的に成功することは、芸術の価値を損なうのでしょうか?それとも、むしろ芸術活動を豊かにするのでしょうか?』」


ピカソ:「(即座に)決まってるだろう!豊かになることは、芸術家にとってプラスだ!金があれば、誰にも指図されず、好きな画材を使い、大きなアトリエで、思う存分制作に打ち込める!精神的な自由を得るためにも、経済的な自由は不可欠だ!もちろん、金に目が眩んで、魂のない、売れ筋ばかり狙うような奴は論外だがな。だが、本当に才能と情熱があれば、金なんかに芸術は殺されやしない!むしろ、よりパワフルになる!」


ダ・ヴィンチ:「私も、基本的にはピカソ殿に同意する。パトロンからの潤沢な支援が、私の活動を支えたことは事実だ。しかし、注意すべき点もある。富や名声は、時に芸術家を本来の目的から逸脱させる危険性も孕んでいる。贅沢な生活に慣れ、挑戦する意欲を失ったり、世間の評価ばかりを気にするようになったり…常に自らを律し、富に溺れぬ精神的な強さが必要でしょうな」


あすか:「経済的な自由と、それに伴う危険性…なるほど。お二方、ありがとうございました。さあ、時間の許す限り、もう一つくらい…あ、これは多くの方から寄せられている質問ですね。皆さん全員に、簡単にお答えいただけますでしょうか?『皆さんは、それぞれ同時代に強力なライバル、あるいは意識する芸術家がいたと思いますが、その存在は、ご自身の創作活動にどのような影響を与えましたか?』」


(あすか、まずダ・ヴィンチとミケランジェロに視線を送る)


ミケランジェロ:「(ダ・ヴィンチを睨み)…ライバルだと?フン、私にはライバルなどおらん!私が競う相手は、過去の偉大な芸術家たち、そして何よりも、私自身の限界だけだ!」


ダ・ヴィンチ:「(微笑を浮かべ)私は、ミケランジェロ殿をはじめ、同時代の優れた芸術家たちの仕事には常に敬意を払い、注意深く観察していましたよ。彼らの才能は、私にとって刺激であり、時に自らを省みる良い機会ともなりましたな」


ピカソ:「ライバルか…マティスとかブラックとか、面白い奴らはたくさんいたな!互いに影響し合い、競い合い、時には喧嘩もした!そういう奴らがいたからこそ、俺も燃え上がることができたのさ!一人でやってるより、よっぽど面白い!」


黒澤:「…ライバル、という意識はあまりなかった。だが、小津(安二郎)さんや溝口(健二)さんといった、同時代の偉大な監督たちの作品からは、常に多くのことを学ばせてもらった。彼らの存在が、日本の映画を豊かにしたことは間違いない」


あすか:「それぞれのライバルとの向き合い方…これもまた、個性が出ていて非常に興味深いです!皆さん、たくさんの貴重なご回答、本当にありがとうございました!」


(あすか、名残惜しそうにタブレットを置く)


あすか:「いやー、もっともっと伺いたい質問は山ほどあるのですが、残念ながらお時間となってしまいました。『みんなの質問コーナー』、いかがでしたでしょうか?これまでの議論で生まれた疑問や、皆さんの意外な一面も垣間見えて、さらに理解が深まったのではないでしょうか」


(あすか、表情を引き締める)


あすか:「さあ、長かった対談も、いよいよ最後のラウンドを残すのみとなりました!最後のテーマは『創造の源泉』。皆さんを突き動かし、歴史に残る傑作を生み出させた、その根源にあるものとは一体何なのか?最後の最後まで、どうぞお見逃しなく!」


(質問コーナー終了のジングル。対談者たちは、最後の議論に向けて、再び気を引き締める)

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