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ラウンド3:芸術は誰のために?〜神か、パトロンか、大衆か、自己か〜

(前のラウンドまでとは明らかに違う、張り詰めた空気がスタジオを支配している。対談者たちの表情も一層険しく、あるいは挑戦的になっている。司会者あすかが、その緊張感を楽しみつつも、覚悟を決めた表情で口火を切る)


あすか:「ラウンド1、2では、それぞれの芸術の『至高性』や『美の基準』について、熱く語っていただきました。しかし、どれほど素晴らしい芸術も、それが生み出される背景には、必ず『動機』が存在するはずです。神に捧げるため?王侯貴族を満足させるため?あるいは名もなき大衆に何かを訴えるため?それとも、ただひたすらに、己の内なる衝動に従うため…?この問いは、芸術家の存在意義そのものに関わる、最も根源的で、最も意見が分かれるテーマと言えるでしょう!」


(あすか、スタジオを見渡し、対談者たちの反応を窺う)


あすか:「まさに、魂と魂のぶつかり合い!ここでは時間制限も文字数制限もありません!どうぞ、皆様の信念の全てを、この場にぶつけてください!さあ…この最も熱いテーマ、どなたから口火を切っていただきましょうか…?やはり、最も純粋なる信仰を芸術の根幹に据える、この方からでしょうか。ミケランジェロさん!あなたの芸術は、誰のためにあるのですか!?」


ミケランジェロ:「(待っていたとばかりに、強い眼光であすかを睨みつけ)決まっているだろう!私の芸術は、ただ御一方、全能なる神のためにのみ存在する!我々芸術家は、神から特別な才能(タレントゥム)を授かった(しもべ)に過ぎん!その才能を用いて、神の栄光を称え、神の教えを形にし、人々を信仰へと導くこと…それこそが、我々に課せられた唯一にして至上の使命なのだ!」


(ミケランジェロ、拳でテーブルを軽く叩く)


ミケランジェロ:「教皇陛下や、富あるパトロンからの依頼を受けることもある。だが、それはあくまで神の御業みわざを地上で実現するための『手段』に過ぎん!彼らが支払う金貨など、私の魂にとっては、制作に必要な大理石や絵の具代以上の意味はない!真の報酬は、神の御心に適う仕事ができたという満足感、そして来世での救済だけだ!地上の名声や富など、塵芥ちりあくたに等しい!」


あすか:「神のため!そして報酬は来世での救済…!まさに信仰に生きる芸術家の鑑のようなお言葉!しかし、ダ・ヴィンチさん、少し現実的な視点から伺いますが、本当に『金銭』や『パトロンの意向』は、芸術制作において些末なことなのでしょうか?」


ダ・ヴィンチ:「(静かに首を振り)ミケランジェロ殿の信仰心の篤さには敬服する。しかし、現世を生きる我々にとって、それは少々理想に過ぎるのではないかな?芸術家も霞を食って生きているわけではない。壮大な計画を実現するためには、莫大な資金と、それを支援してくれる強力なパトロンの存在が不可欠だ。私自身、ミラノ公、チェーザレ・ボルジア、そしてフランス国王…多くのパトロンに仕え、彼らの要望に応えることで、自らの芸術的・科学的探求を進めることができた」


(ダ・ヴィンチ、自身の経験を語る)


ダ・ヴィンチ:「もちろん、パトロンの意向が常に自分の追求と一致するとは限らない。時には妥協も必要だろう。しかし、彼らの権力と財力なくしては、そもそも『最後の晩餐』のような大壁画も、スフォルツァ騎馬像のような巨大な計画も実現しえなかった。芸術家は、現実的な支援者との良好な関係を築き、その中で自らの才能を最大限に発揮する方法を模索すべきだ。…そして、同時に忘れてはならないのは、自分自身の飽くなき知的好奇心を満たすという動機だ。私にとって芸術とは、世界の謎を解き明かすための探求の一部でもあるのだから」


ミケランジェロ:「(嘲るように)フン、パトロンのご機嫌取りと自己満足か、ダ・ヴィンチ殿らしいな!貴殿の言う『探求』とやらは結構だが、それが神への道に繋がっておらねば、ただの遊び、時間の浪費に過ぎんぞ!」


ダ・ヴィンチ:「神への道が一つとは限るまい、ミケランジェロ殿。自然の摂理を探求することもまた、神の偉大さを知る道だと私は思うがね」


ピカソ:「(大声で割り込み、二人を指差しながら)やめろ、やめろ!神だのパトロンだの、どっちもくだらん!あんたたちは、いつまで他人のために芸術やってるんだ!?芸術ってのはな、まず第一に、自分自身のためにあるんだよ!」


(ピカソ、胸を叩いて)


ピカソ:「俺が絵を描くのは、誰かに頼まれたからじゃない!金が欲しいからでもない!(もちろん、金はあった方がいいがね!)ただ、描かずにはいられないから描くんだ!頭の中に溢れ出てくるイメージ、腹の底から突き上げてくる衝動…それをキャンバスに叩きつけずには、生きていけないからだ!それが芸術家の本能だろうが!」


あすか:「描かずにはいられない衝動!自分自身のため…!」


ピカソ:「そうだ!そして、その『個』の表現が、結果的に『時代』を映し出す鏡になるんだ!俺たちは、自分が生きている時代、その空気、その痛み、その狂気を、誰よりも敏感に感じ取って、それを作品に刻み込む!それが、後世の人々にとって、その時代を知るための重要な証言になる!神様だの王様だの、そんな超越的なもののために描くんじゃない!今、ここに生きる人間のために、そして未来の人間のために描くんだよ!パトロン?フン、俺がパトロンを選ぶ側だ!」


ミケランジェロ:「(怒りに震え)貴様…!芸術をなんだと思っている!自己満足の落書きを時代だの未来だのと…!神聖なる芸術への冒涜も甚だしいわ!」


ピカソ:「冒涜?結構じゃないか!古臭い権威や常識をぶっ壊してこそ、新しいものは生まれるんだぜ、爺さん!」


黒澤:「(静かに、しかし強い口調で)…ピカソ殿の言う『自己表現』の重要性は理解できる。だが、芸術が完全に『自己のため』だけで良いのだろうか?私はそうは思わない」


(黒澤、ピカソを真っ直ぐに見据える)


黒澤:「特に、我々が作る映画は、多くのスタッフ、キャスト、そして莫大な資金を必要とする。それは、個人の衝動だけで動かせるものではない。そこには、観客に対する責任が生じる。時間とお金を払って観に来てくれる人々に対して、我々は、感動や、あるいは何かを考えるきっかけを提供しなければならない。独りよがりな表現に陥り、観客を置き去りにするような作品は、少なくとも私の目指す映画ではない」


ピカソ:「(面白そうに)ほう、観客への責任ねぇ…黒澤さん、あんたは優等生だな!だが、大衆なんてものは気まぐれで、移ろいやすいもんだぜ?彼らに媚びを売って、分かりやすいものばかり作っていたら、芸術はどんどん堕落していくんじゃないか?」


黒澤:「…媚びを売るのとは違う。私は、自分が本当に描きたいと信じる『物語』を、最高の形で観客に届けたいだけだ。それが結果的に多くの人々の心を打ち、興行的にも成功すれば、それに越したことはない。だが、そのためなら何でもする、というわけではない。そこには、譲れない一線、作家としての矜持がある。大衆に迎合するのではなく、大衆を引き上げる…それが理想だ」


ダ・ヴィンチ:「ふむ、『大衆を引き上げる』か…それは興味深い考えだ。我々の時代、芸術は一部の特権階級のものだったが、あなたの『映画』は、より多くの人々に開かれているようだ。それは、芸術のあり方として、一つの進歩なのかもしれぬな」


ミケランジェロ:「進歩だと?フン、大衆に分かりやすいものが良いものだとは限らん!むしろ、安易な感動や娯楽に流れ、真に価値あるもの、崇高なるものへの畏敬の念を失わせる危険なものではないのか?神の教えも、難解だからこそ人々は深く考え、信仰を深めるのだ!」


ピカソ:「ハッ!大衆をバカにするなよ、ミケランジェロの爺さん!大衆の中にも、本物を見抜く目はあるぜ!問題は、あんたたちのような『選ばれた人間』だけが芸術を独占しようとしてきた、その古い体質の方だろう!」


あすか:「神か、パトロンか、自己か、大衆か…!皆さん、それぞれの芸術が誰に向けられているのか、その信念が激しくぶつかり合っていますね!ここで少し視点を変えて…『お金』、つまり商業主義と芸術の関係についてはどうでしょう?ピカソさん、あなたは生前から大変な成功を収め、莫大な富を築かれました。それは、あなたの芸術に何か影響を与えましたか?例えば、『売れる』ことを意識して描く、ということはあったのでしょうか?」


ピカソ:「(ニヤリとして)金か?ああ、たくさん稼いださ!いい家に住んで、いい女を抱いて、好きなものを好きなだけ買った!それが悪いことか?金があるから、誰にも指図されず、好きなように描きたいものを描けたんだ!貧乏で、パトロンの言いなりになるしかなかった昔の芸術家より、よっぽど自由だったぜ!」


(ピカソ、ルネサンスの二人を挑発するように見る)


ピカソ:「『売れる』ことを意識したかって?馬鹿言え!俺が描いたものが、結果的に『売れた』だけだ!時代が俺に追いついてきたのさ!もちろん、画商との駆け引きは楽しんだがね。それもゲームみたいなもんだ。だが、金のために自分のスタイルを曲げたことなんて、一度もない!」


ミケランジェロ:「(軽蔑したように)俗物め…!貴様のような男に、真の芸術が分かろうはずもない!」


ダ・ヴィンチ:「(冷静に)ピカソ殿の成功は、時代の変化を象徴しているのかもしれぬな。芸術家が、教会や王侯貴族だけでなく、『市場』という新しいパトロンを見つけた時代…それが良いことか悪いことかは、一概には言えぬが」


黒澤:「…金は、映画を作る上で必要不可欠だ。だが、金のために魂を売るようなことがあってはならない。私も、予算の問題で作りたいものが作れなかったり、逆に大金をかけた作品が興行的に失敗したり…そうした経験は数多くしてきた。その度に、芸術性と商業性のバランスの難しさを痛感する。だが、最終的に信じるのは、自分が本当に作りたいものを作る、という一点だけだ」


あすか:「うーん、お金と芸術の関係、これもまた難しい問題ですね…。では、『評価』についてはどうでしょう?皆さん、同時代の批評家や、あるいは後世の人々からの評価を意識することはありますか?ミケランジェロさん、あなたは生前から『神のごとき』と称賛されましたが」


ミケランジェロ:「(ぶっきらぼうに)評価だと?そんなものはどうでもいい!私が気にするのは、ただ一点、神が私の仕事をどう評価されるかだけだ!人間の評価など、風のように移ろいやすい。生前にどれほど称賛されようと、神の御前に立った時に認められねば、何の意味もない!」


ダ・ヴィンチ:「いや、評価は重要だ。特に、同時代の理解者や、後世の研究者による正しい評価は、芸術家にとって大きな励みとなり、また自らの仕事の意味を確認する上でも役立つ。もちろん、的外れな批判に惑わされる必要はないがね」


ピカソ:「評価?気にするだけ時間の無駄だ!俺の作品の価値は、俺自身が一番よく分かっている!他人が何を言おうと知ったことか!むしろ、スキャンダルになるくらいの方が面白いじゃないか!無関心でいられるより、よっぽどマシだぜ!」


黒澤:「…評価は気になる。特に、自分が尊敬する人々からの評価は。だが、それに一喜一憂していては、前に進めない。何よりも大切なのは、自分が納得できる作品を作れたかどうかだ。後世の評価は、後の時代の人々が決めること。我々は、ただ、今、全力を尽くすしかない」


あすか:「神の評価、専門家の評価、スキャンダル、自己評価、そして後世の評価…評価一つとっても、これだけ考え方が違うのですね…!まさに、芸術家の生き様そのものが表れているようです!」


(あすか、熱気を帯びたスタジオを見渡し、一呼吸置く)


あすか:「神のため、パトロンのため、自己のため、大衆のため、時代のため、未来のため…そして、お金や評価との関係…。『芸術は誰のために?』この問いには、本当に様々な答えがあり、そして、そのどれもが、それぞれの芸術家にとっては真実なのでしょう。しかし、だからこそ、これほどまでに議論は白熱し、私たちの心を揺さぶるのかもしれません!」


(議論は最高潮に達し、それぞれの主張がぶつかり合い、火花を散らしている。ダ・ヴィンチの冷静な分析、ミケランジェロの信仰に基づく激情、ピカソの既成概念への反逆、黒澤の観客への想い…四者四様の芸術への向き合い方が、鮮烈に浮かび上がる)


あすか:「(興奮を隠しきれない様子で)いやはや、皆さん!本当に、本当に、凄まじい議論でした!私、案内人として、こんなに魂が震えたのは初めてかもしれません!この熱気、まだまだ語り尽くせないことは重々承知ですが…残念ながら、このラウンドもそろそろお開きの時間とさせていただきます!」


(あすか、名残惜しそうに)


あすか:「この激論の後では、さすがの皆さんも少しお疲れでしょう?ここで一旦、幕間といたしまして、特別な休憩室『SalondesÉtoilesPerdues』、失われた星々のサロンへとご案内したいと思います。時空修復師たちが腕によりをかけて用意した、皆さんが少しでもくつろげる空間です。そこで、激闘の慰労をしつつ、もしかしたら、意外な共通点が見つかる…かもしれませんよ?」


(あすか、いたずらっぽく微笑む)


あすか:「それでは皆さん、熱い議論、本当にありがとうございました!休憩の後、後半戦もどうぞお楽しみに!」

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― 新着の感想 ―
 誰のための作品か。  私としては全ての人と解り合い共存共栄を図るための手段であってほしいと思います。
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