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ラウンド1:「我が芸術こそ至高!」〜それぞれの頂点〜(前編)

(オープニングの興奮冷めやらぬスタジオ。司会者あすかが、熱気に満ちた対談者たちに向き直る)


あすか:「さあ、皆様!ウォーミングアップは十分でしょうか?いよいよここからは、本格的なディベートタイム、ラウンド1の開始です!テーマは改めて…『我が芸術こそ至高!』オープニングでの宣言、実に痺れましたが、ここからはさらに深く、なぜご自身の芸術が他の追随を許さない『最高』の芸術なのか、その具体的な理由、そして他の芸術にはない絶対的な強みを、存分に語っていただきましょう!」


(あすか、まずダ・ヴィンチに促す)


あすか:「では、再びダ・ヴィンチさんからお願いできますでしょうか?絵画こそが科学に裏打ちされた知性の極致、とのことでしたが、具体的にどのような点が『最高』なのでしょう?」


ダ・ヴィンチ:「(落ち着いた様子で頷き)よろしい。先ほども申し上げた通り、絵画は、自然界のあらゆる様相を捉えることができます。それは、ミケランジェロ殿の得意とする力強い人体だけではない。広大な風景、繊細な植物、水面のきらめき、そして何より、言葉では言い表せない人間の複雑な感情や心理…例えば、私の『最後の晩餐』に描かれた弟子たちの動揺や裏切りへの反応。あれを彫刻で、あるいは他の手段で、あれほど微細に、かつ雄弁に描き分けられるでしょうか?」


(ダ・ヴィンチ、静かに問いかける)


ダ・ヴィンチ:「さらに、絵画は色彩という強力な武器を持っています。喜び、悲しみ、神聖さ、あるいは不気味さ…色はそれ自体が感情を喚起し、空間に深みを与え、光と影の戯れを表現する。彫刻のように単色ではなく、音楽のように一瞬で消え去るのでもない。色彩と形が調和した絵画は、まさに世界の縮図であり、最も豊穣な表現を可能にするのです。加えて、遠近法や解剖学といった科学的知識を用いることで、その表現は限りなく現実に迫り、かつ理想的な美をも構築できる。これほど万能で、知的な探求心を刺激する芸術は他にありません」


あすか:「なるほど…!心理描写、色彩、科学との融合…絵画の表現領域の広大さ、よく分かりました!さあ、これに対してミケランジェロさん、彫刻の『最高』たる所以、反論をお願いします!」


ミケランジェロ:「(苛立ちを隠さず)フン、色彩だと?心理描写だと?そんなものは表面的な飾りに過ぎん!ダ・ヴィンチ殿、あなたの言う絵画の『万能性』とやらは、結局のところ平面という限界の中での話だ。我々が扱うのは、現実の空間に存在する『実体』なのだぞ!」


(ミケランジェロ、身を乗り出して語気を強める)


ミケランジェロ:「考えてもみよ!彫刻は、観る者がその周りを歩き、角度を変え、時には触れることさえできる。光の当たり方で陰影は無限に変化し、その量感、質感、存在感は、壁に描かれた絵とは比較にならん!私の『ダヴィデ』がフィレンツェの広場に立った時の、あの圧倒的な存在感を、絵画で再現できるかね?あるいは『ピエタ』の、死せるキリストを抱くマリアの悲しみの深さ、その衣のひだに至るまで…あれは、大理石という永遠の素材に刻み込まれたからこそ、千年後も人々の心を打つのだ!」


あすか:「実体、存在感、そして永遠性…!彫刻ならではの力強さが伝わってきます…!」


ミケランジェロ:「そうだ!しかも、彫刻は制作そのものが困難を極める!固い石を相手に、構想を練り、槌を振るい、魂を削るようにして形を生み出すのだ。それは単なる技術ではない。強靭な精神力と肉体、そして何より神への深い信仰心がなければ成し遂げられん!ダ・ヴィンチ殿のように、あれこれ手を出しては未完成のまま放り出すような態度では、真の傑作は生まれんのだ!」


(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロの最後の言葉に僅かに眉を動かすが、冷静さを保っている)


あすか:「おおっと!ミケランジェロさん、ダ・ヴィンチさんへの痛烈な一撃!これは…」


ピカソ:「(割って入り、面白そうに)ハッハッハ!爺さんたち、まだそんなことで言い争っているのか!永遠性だ?神への奉仕だ?ちゃんちゃらおかしいね!」


(ピカソ、ルネサンスの二人を交互に見ながら嘲笑う)


ピカソ:「あんたたちの言う『最高』は、結局、昔の王様や坊さんを喜ばせるためのものだろう?しかも、見たものをそっくりそのまま描くか彫るか…そんなのは職人技だ。芸術じゃない!」


ダ・ヴィンチ:「(静かに反論)ピカソ殿、我々は単に模倣しているのではない。自然の中に潜む完全な美、イデアを追求しているのだ。それには高度な技術と知性が必要だ」


ミケランジェロ:「そうだ!貴様のような、子供の落書きみたいなものを芸術と呼ぶなど、片腹痛いわ!」


ピカソ:「(挑発に乗らず、余裕の表情で)落書き?いいじゃないか、子供は見たままじゃなく、感じたままを描くだろう?それが本質だ!俺たちがやったのは、見える世界を一度ぶっ壊して、もっとリアルな、多角的な真実を再構築することだ!キュビズムを見ろ!なぜ対象を一つの視点からしか描いちゃいけない?横顔も正面も、記憶も感情も、全部同時に描いたっていいじゃないか!それが人間の『認識』に近い、新しいリアリティなんだよ!」


(ピカソ、熱を帯びてくる)


ピカソ:「最高の芸術ってのはな、時代を映し、時代を創るもんだ!古い価値観にしがみついてるだけじゃ、何も生まれん!常に変化し、挑発し、観る者の脳みそをシェイクする!それができない芸術は、死んでるも同然だ!俺の絵を見て『美しい』と思わなくてもいい。『何か』を感じてくれれば、それでいいんだ!」


あすか:「時代を創り、脳みそをシェイクする!ピカソさんらしい過激なご意見!伝統的な美しさだけが芸術じゃない、と…さあ、この三者三様の『最高』論を聞いて、黒澤監督、映画の立場からはいかがでしょうか?」


黒澤:「(静かに口を開く)…三人のお話、それぞれに一理あると思う。ダ・ヴィンチ殿の言う知的な探求、ミケランジェロ殿の言う魂の力、ピカソ殿の言う革新性…どれも芸術にとって重要な要素だ」


(黒澤、一度言葉を切る)


黒澤:「だが、やはり私は、映画こそが現代における最高の芸術形式だと考える。なぜなら、先ほども言ったように、映画はそれら全ての要素を内包しうる総合力を持っているからだ。絵画のような構図の美しさ、彫刻のような存在感(それは役者の肉体やセットによって表現される)、そしてピカソ殿の言うような既成概念の破壊(それは編集や映像表現によって可能になる)。これらを組み合わせ、さらに音楽と音響効果、そして何よりも『物語』という時間軸に乗せて、観客の感情に直接訴えかけることができる」


(黒澤、ゆっくりと続ける)


黒澤:「考えてみてほしい。絵画や彫刻は、どれほど素晴らしくとも、その『一瞬』しか捉えられない。だが映画は、喜びから悲しみへ、静寂から喧騒へと、時間を自在に操り、人生の起伏そのものを描き出すことができる。『七人の侍』の戦闘シーンの躍動感、『生きる』の主人公が最後にブランコを漕ぐ場面の静かな感動…あれは、静止した芸術では決して表現できない、時間芸術ならではの力だ。観客は、暗闇の中で、その物語世界に没入し、登場人物と共に生き、感情を共有する。これほど深く、広く、人々の心に届く芸術が他にあるだろうか?」


ダ・ヴィンチ:「(興味深そうに)ほう…時間を操る、というのは面白い考えだ。確かに、我々の絵画では、一画面に異なる時間を描くこともあるが(『最後の晩餐』などを念頭に)、それは暗示的だ。あなたの『映画』とやらは、それを連続的に見せるわけか…」


ミケランジェロ:「フン、しかし所詮は光と影の戯れ、虚像ではないか。我々の彫刻のような、永遠に触れることのできる『実体』はあるまい」


ピカソ:「物語、物語って言うがね、黒澤さん。あんたの映画は分かりやすすぎるんじゃないか?芸術ってもんは、もっと観る者に考えさせる、謎めいた部分がなくちゃつまらんよ」


黒澤:「(ピカソに)…分かりやすいことが悪いとは思わん。謎を提示することも時には必要だが、それ以上に、人間の真実を描き、観客の心を掴む『力強い物語』こそが重要だと、私は思う」


(黒澤、ピカソを真っ直ぐ見据える)


あすか:「うーん、議論が深まってきましたね!絵画の万能性、彫刻の実体と永遠性、新しい表現の探求、そして映画の総合力と時間軸…それぞれが『最高』であると主張する根拠、非常に説得力があります!しかし、同時に他の芸術への鋭い指摘も…これはまだまだ決着がつきそうにありませんね!」


(あすか、少し興奮した様子で)


あすか:「ダ・ヴィンチさんは色彩なき彫刻を、ミケランジェロさんは平面の絵画を、ピカソさんは古い芸術を、そして黒澤さんは動きのない芸術を…それぞれ、他の分野の限界も指摘されています。このあたり、もう少し詳しく、互いに突っ込んでみませんか?」


(あすか、更なる議論を促し、ラウンド1の後半へ)

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