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1-6 奇跡の生還

 やがて俺達は、洞窟の出口に到着することができた。


「すみません、転移門(ゲート)の通行料まで払っていただくなんて」

「気にするなよ」


 洞窟の少し開けた空間に大きな門が立っている。転移門(ゲート)と呼ばれるそれは、洞窟の土壁とは明らかに異なる素材でできており、奥には渦のような空間が広がっている。


「まさか、第4層以降も歩いて帰るわけにはいかないだろ」


 転移門には2通りの使い方がある。1つは隣接する上または下の階層に転移すること、これが本来の使い方だ。もう1つはダンジョンの入口まで転移すること、これはギルドによって付加された特殊な使い方だ。後者の使い方をする場合、ギルドに通行料を払わなければいけない。


「確か、第4層は雪山のエリアなんですよね」

「そうだな。洞窟とは全然違うエリアだ」


 ダンジョンは複数の階層から構成されているが、異なる階層は、それぞれがまるで別世界であるかのように、まるで異なる地形や環境になっている。例えば、俺達がいる第5層は真っ暗な洞窟だが、第4層はウィズの言う通り万年雪に覆われた山脈だ。


「特に、第3、4層は最近踏破されたばかりのエリアだ。だから、まだまだ危険がたくさん潜んでいる」

「はい。消耗した今の私達でなくても、通り抜けるのは難しそうですね」

「俺もそう思う。危険を回避できるなら、通行料だって払う価値はあるさ」


 冒険者は、自分の命と稼ぎを天秤にかける稼業だ。危険を冒して資源を回収することもあれば、今のように金で身の安全を買う判断が必要になることもある。稀に、通行料惜しさにダンジョンに棲みつく猛者もいると聞くが、目の前の少女にそれを強いるのはあまりに酷だろう。


「よし、それじゃあダンジョンから脱出しよう。転移門の行先はどうなっている?」

「待ってください。今、確認しますね」


 ウィズはそう言うと、転移門に備え付けられている大がかりな装置を覗き込んだ。それは転移門とも土壁とも異なる部品で作られており、よく見えるところにギルドのマークが彫り込まれている。転移門に帰還機能を追加するための制御装置だ。


「制御装置は待機状態です。このまま門をくぐれば、街ではなく第4層に転移してしまいます」

「困ったな。制御装置の操作って、いまいち自信がないんだよな」

「もしかして、ヒイロ様って()()()()()ですか?」

「実はそうなんだよ。特に最近のやつは使い方がわからないんだよなぁ」


 意外そうな目で見るウィズに、俺は気恥ずかしくなって頬を掻いた。制御装置のような高度なものは少ないが、魔力が込められた道具は、魔術師がいなくても魔法が使える文明の利器として重宝されている。ただし、あまりに高価なため、街で見かけるとしても稀だ。


「ウィズは魔術師ウィザードだから、魔道具を作れるのか?」

「と、とんでもないです! 魔道具を作ったり直せるのは、と~っても高位の魔術師だけです。私なんて、まだまだ勉強中ですから」

「へえ。でも、人並みに扱えるってだけで、俺にはうらやましいよ」

「むふふ。そういうことなら、制御装置の操作は私に任せてください」


 満足そうに鼻の穴を広げながら、ウィズが装置に触れる。すると、装置から魔力特有の淡い光が漏れ出し、転移門の柱を伝って全体に広がった。このように、だれでも手軽に転移の行先を変えられるというのだから、魔道具の力とは信じられないものだ。


「ヒイロ様、帰還の準備ができましたよ!」

「あのさ、ウィズ。本当にたったこれだけで、門が街に繋がったのかのか?」

「多分、大丈夫ですよ。むしろ、何をそんなに疑っているんですか」

非魔道具アナログ人間は、質量のないものは信頼できないんだよ~!」


 はじめの方は珍しそうに俺のことを見ていたウィズだが、最後の方は面倒な珍獣でも扱うように俺を転移門の中まで連れていく。ダンジョンから帰還するためには転移門を使うしかないのだが、理屈のない不信感というのは、どうにもなくすことが出来ないものである。


「あの、ヒイロ様」

「ん?」


 さて、俺の背中を押しながら一緒に転移門に入ったウィズが、ふと改まった口調で俺に話しかけてきた。ここを抜ければ、ダンジョンから生還できる。彼女ともお別れだ。

 

「私、いつか立派な冒険者になって、貴方にお金を払います」

「金? 俺が君を助けた謝礼金ってこと?」

「はい。あと、転移門の通行料も」


 払わなくていいぞ、と言いかけた俺を、ウィズが遮った。

 

「だって、悔しいです。私だって、ヒイロ様のように強くなりたい。誰かを助けられるくらい、強く」

「誰かを……助ける……」

「それに、謝礼金をふっかけてきた冒険者達を見返してやりたいです! 逆に私が彼らを救助して、いっぱいお金を稼ぐんです!」

「救助……金を稼ぐ……」


 自分の言葉に、だんだん強気になっていくウィズ。無事にダンジョンから帰れるとわかって、元気を取り戻してきたのだろう。そんな彼女の横で、俺はその言葉の一つ一つにひっかりを覚えた。俺の頭の中にある正体の見えないモヤモやは、何だ?

 

 その時、俺の頭にアイデアが浮かんだ。


「それだ! 俺達で救助隊を結成するんだ!」

「え? え?!」


 俺は喜びのあまり、ウィズの肩を掴んで揺さぶった。突然の奇行に驚いたのか、彼女は目を丸くして俺を見る。


「冒険じゃなくて、救助のためにダンジョンへ潜るんだ! そうすれば、俺達みたいな遭難者を助けられる! 謝礼金は……まぁ良心的な金額設定にして……金が稼げる!」

「そ、それはそうですけど……」

「だからウィズ、俺と一緒に救助隊をしよう!」


 我ながら名案だ。俺達は、魔力のない聖職者と、瀕死だった魔術師のみで第5階層から帰還した。この経験を活かして、モンスターや自然災害に襲われた遭難者達を救助できるのではないか。

 

 それに、この案ならウィズと別れずに済むし、彼女が危険な冒険をする必要もなくなるかも、というおせっかい心もある。

 

「もちろん、遭難者がその後も自由に冒険できる仕組みも作ろう」


 俺は、ウィズの目を見てはっきり言う。彼女のようなつらい思いをする新米冒険者をなくすこと、これは彼女にとっても大切なことに違いない。


「そして、仲間に見捨てられた人の、最後の希望になろう」


 今度は、自分自身にも向けてはっきりという。仲間に裏切られて死ぬところだったウィズだけにではない。あのとき、仲間の無事を優先して自分を犠牲にしてしまった俺自身に。


 やがて、転移門が魔力を帯びて、俺達をダンジョンの外へと移送する。俺達は絶望的な状況で持てる力と知恵を振り絞って、ダンジョンから生還することができた。

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