第3話
翌朝、王子は城の広間に家臣たちを集めて宣言した。
「この靴を持ち主に返す。それが僕の使命であり、この国の未来でもある。」
家臣たちは一斉に首を傾げた。
「靴は靴だが、靴である以上に靴なんだ。この靴を履ける女性こそ、僕の運命の人だ。」
家臣の一人が恐る恐る尋ねた。
「ですが、王子……この靴は、ビニール製です。」
「そうだ。それが大切なんだ。」
「ど、どうしてでしょう?」
王子は微笑んだ。「普通の靴は履ける。しかし、この靴を履ける人は、この靴を履ける人なんだ。」
「……全然わかりません。」家臣たちは全員で頭を抱えたが、命令には従うしかなかった。
こうして、靴探しが始まった。
王子の命令を受け、家臣たちは次々と家を訪ね歩いた。そして、ついにエラの家にもやってきた。
「この靴に足が合う人がいれば、その人が王子の運命の人です。」
家臣が靴を掲げると、継母は素早く前に出た。
「まぁ、王子様がわざわざ……それでは、うちの娘たちを試してみてくださいませ!」
義姉Aが勢いよく靴を手に取った。
「これ、すっごく軽い! さすが王子、時代の先端を行ってるわね!」
彼女は無理やり足を突っ込もうとしたが、サイズが全然合わない。
「んー、これ、王子が選んだ靴だし、ちょっとくらい伸びてもいいよね?」
そう言って靴を引っ張り始めた。家臣が慌てて止める。
「お嬢様、それ以上引っ張ると壊れます!」
「大丈夫! 王子がこの靴を選んだってことは、私が履けるってことだもん!」
「全然大丈夫じゃないです……!」
次に義姉Bが靴を手に取った。
「まぁ、この靴……私の美しさにちょっと釣り合わないけど、仕方ないわね。」
彼女は片足を高々と上げ、華麗に靴を履こうとしたが、バランスを崩して派手に転んだ。
「でも大丈夫……転んでも私は美しい。」
彼女は倒れたままポーズを決めるが、家臣たちは完全に無視した。
義姉たちの試着が失敗に終わると、継母が前に出てきた。
「この靴、私が履けるか試してもいいかしら?」
家臣たちが困惑していると、継母は横文字を交えた説明を始めた。
「だって、この家庭は私のリーダーシップで成り立っているのよ。私が王子とシナジーを生み出すのが、一番効果的でしょう?」
家臣の一人が小声で「この方はどちら様ですか?」と尋ねたが、誰も答えられなかった。
一連の騒ぎを見ていたエラは、ため息をつきながらゆっくりと立ち上がった。
「その靴、私のです。」
家臣たちは驚き、継母と義姉たちは同時に振り返った。
「何を言っているの、エラ! あなたなんかが……!」
「いや、これ本当に私のです。」
エラは靴を手に取り、すっと履いてみせた。ぴったりだ。
「ぴったり……!」家臣たちが声を揃えた。
「どうして!」義姉Aが叫んだ。
「……私が履けるように作られてるからですよ。」エラが淡々と答えると、義姉Bが叫んだ。
「でも、私の方が美しいのに!」
「靴には関係ないと思いますけど。」
継母が慌ててエラに詰め寄る。
「エラ! あなたはこの家のバックオフィスなのよ! 表に出るべき人間じゃないわ!」
「……そう思うなら、掃除でもしててください。」
エラがさらりと答えると、継母は「グヌヌ……」と唸るばかりだった。
「この靴の持ち主が見つかった……!」
城に戻った家臣が報告すると、王子は満面の笑みを浮かべた。
「やっぱり、この靴は靴以上の靴だったんだ。」
家臣たちはまたしても頭を抱えたが、命令を遂行すべく準備を始めた。
エラの運命は、再び王子と交差しようとしていた――。