プロローグ
こんにちは、このたびは拙作をご覧いただきありがとうございます!
本作は、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう名作に、現代の皮肉や社会的なテーマをスパイスとして加え、独自のアレンジで仕上げた短編小説です。
登場人物たちの壊れた性格や、予想を裏切る展開を通して、少しでもクスッと笑っていただけたら幸いです。
物語に込めたのは、「自由とは何か?」という大きなテーマ……ではなく、ツッコミどころ満載のキャラクターたちが繰り広げる、テンポ良く笑えるやり取りです。
もし、どこかの場面で肩の力を抜いて楽しんでいただけたなら、それがこの作品の最大の喜びです。
それでは、どうぞごゆっくりお楽しみください!
朽兎
これは、現代にあるかもしれないどこかの小さな国の話。
ここでは、王子がSNSで婚活に疲れ、魔法使いがブラック企業で過労死寸前。義姉たちは「映える」を追い求めて迷走し、継母は横文字を使った自己啓発に夢中だった。
そして、そんな家族の中で、淡々と日々をこなしていたのがエラだ。
「私は普通に暮らしたいだけなんだけど。」
床を磨きながら、エラはそう心の中で呟く。彼女が願うのは、ただ平穏無事な日常。しかし、それを許さない存在がこの家には揃っていた。
「これ、絶対バズるでしょ!」
義姉Aがスマホを片手に叫んだのは、朝のキッチンだった。彼女は昨晩から続く「舞踏会準備の映え写真マラソン」の真っ最中だ。
「ねぇエラ、これどう思う? この写真、王子に見せたら絶対『面白い子だな』って思うでしょ?」
「いや、普通に考えて見せないほうがいいと思います。」
「どうしてよ!? 私のトークセンスと映えセンスがあれば、王子は一発で心を掴まれるに違いないのに!」
エラはため息をつき、モップを置く。キッチンの床は昨晩の大騒ぎで散らかったままだ。義姉Aが「映えるパーティー感を出す」と言いながら床にパンケーキを撒き散らし、それを義姉Bが「このパンケーキ、私のドレスに合わない!」と叫んでさらにめちゃくちゃにしたのだ。
「それにしても、この構図……なんか微妙じゃない?」
義姉Aはスマホをじっと見つめると、顔を上げて叫んだ。
「ライト! もっと光が必要よ! エラ、そこのライト持ってきて!」
エラはまたため息をつくと、キッチンの隅からライトスタンドを引っ張り出す。
「これでいいですか?」
「うーん、まだ違う! 下から当てて! もっと脚が長く見えるように!」
エラは渋々ライトを下に向けた。「これで王子の婚活疲れがさらに悪化しますね。」と心の中で呟きながら。
その隣では、義姉Bが鏡の前で延々とポーズを決めている。
「美の神が私に降臨してる……今日の私、やばいわ。」
「そんなに美しいなら、鏡の前にいなくてもいいんじゃないですか?」
エラがツッコミを入れると、義姉Bは得意げに答えた。
「鏡に映る私が美しいから、美しさを保つのよ。」
「その理屈、全然分からないんですけど。」
「エラ! キッチンの掃除は終わったの?」
義姉たちの騒ぎの中、リビングから継母の声が響いた。
エラが「まだ片付け途中です」と返事をすると、継母は紅茶を片手に自己啓発本を大げさに掲げながら言った。
「エラ、あなたのプロダクティビティ、全然ダメね。家庭経営にはリーダーシップが必要なのよ!」
「つまり掃除を早く終わらせろってことですか?」
「違うわ! あなたには家のリソースを最適化し、舞踏会プロジェクトのROI(投資対効果)を最大化する役割があるのよ!」
エラは窓を拭きながら、小声で「ROIって、ここ家庭ですよね」と呟いた。
継母はさらに続ける。
「いい? あなたはこの家庭のバックオフィス。義姉たちが前線で活躍するためのサポートを完璧にするのがあなたの仕事よ!」
義姉Aが「私たち、そんなに前線に立ってる?」と首を傾げたが、継母は気にせず大演説を続ける。
「この家庭は、これから貴族社会でポジショニングを確立するの。私のリーダーシップでね!」
エラは「それなら掃除くらい自分でやったらどうですか」と思ったが、口には出さなかった。反論しても「プロアクティブな姿勢が足りないわ!」と怒鳴られるのがオチだ。
そんな日常が、これからも続くはずだった。少なくとも今日の夜までは。
しかし、その日の夜、エラの人生に突如として現れたのは――この家で最も無気力な存在だった。
「はぁ……また仕事かよ。」
庭先で小さく呟いたその声は、エラの運命を静かに変えていく。