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双青の都  作者: 吾瑠多萬
9/19

しからずんば、即ち


隊長は急いで神殿に戻った。執務室に入るとデスクワークをしている姫王の手をとり、無理矢理寝室へと連れ込む。

隊長は二人きりになると、彼女を抱きしめた

姫王は抱きしめてくれた事を少し嬉しいと思ったのだが、囁かれた言葉を聞いて青ざめた

ラズワードは耳元で言った

「聞いてくれ。奴らは明後日の深夜に攻め込んでくる。直ぐに避難計画を立てないとまずい」


姫王はいつに無く真剣なラズワードの顔を見詰めた

「わかったわ。直ぐにやるから、貴方は軍をお願い」

隊長は頷くとヴェルの唇に軽くキスをして離れた

姫王もしばらく思い詰めた表情で座りこんでいたが、やがて意を決したように副官を呼んだ


それから姫王から住民に対して避難訓練を行うと発表があった。以前から避難訓練は定期的に実施していたから疑問に思うものは少なかったが、今回は大規模に行い、日時は明日と発表されると騒然となった。

食料と最低限必要な家財道具などを持って船に避難、とは随分本格的だと誰もが思ったが、時折隊長の思いつきにより突如の訓練をやるのは皆慣れていた。特に軍関係者は。本日は国全体がお休みとなって皆、明日の避難訓練の為に準備に勤しんだ

神殿では軍関係者が集まり、明日の訓練の詳細が発表された。姫王と住民は避難船に全員乗船、島を一周した後、北上し戻ってくることになった。それまで守備隊は持ち場で島を守る訓練を実施する事になった



「以上が詳細だ。何か質問はあるか?」


隊長が説明を終えると、出席者の佐官達は何も言わず緊張していた。これは訓練ではないと誰もが薄々思っていたからだ。彼らは昨今さっこんの情勢から見て、敵が近々攻めてくるのはわかっていた。だが、明日が訓練なら敵は明後日くらいに攻めてくると読んでいるのではないか、と誰もが思ったが口に出す者はいなかった


「皆、言いたいことはわかってるよ。敵がいつ来るのかだろ?明日の深夜あたりだな」

「どこでその情報を」

「何、俺の勘だよ」

皆は隊長のカンだけで避難訓練をするのかと思ったが、どこかで情報を掴んだに違いないと思い直した


「船には選抜した軍人を乗せる。こちらでリストを作るから、後で本人に通知してくれ。それ以外は訓練だ。もちろん敵役は俺だよ」

皆は本当に訓練をやるのか、という顔をした

「当たり前だろ。敵が来る前に予行演習しないと皆死ぬぞ。大丈夫だよ、ちゃんと手加減するから」

「それが一番当てにならないから皆困っているんですよ」

副隊長は呆れたように言った。一同頷く


「おいおい、そんなに信用ないのかよ、俺は」

「その通りです」

皆の声が一致すると、会議室には笑い声が漏れた



その夜、隊長は姫王の寝室へと向かった。手には明るく輝く青翠色の宝石がついた首飾りがあり、手に巻きつけた紐の先に宝石が揺れていた。寝室に着くと扉をノックする


「ヴェル、今いいかい?」

「お帰りなさい、ラズ。いいわよ」


既に寝衣(しんい)に着替えたヴェルはベッドで枕を背にし起きていた。ラズは中に入るとヴェルの唇に軽くキスをする。ヴェルはそれに応えた


「どうしたの、随分優しいのね」


ヴェルが輝くような笑顔でラズを見ると、ベットの側にあるランプの光が美しく輝く髪を少しだけ煌めかせた


「たまにはね」

「あら、毎日でも大歓迎よ」


ラズは笑いながらベッドに腰掛ける


「君に渡したいものがあって」

ラズは手にした宝石をヴェルに見せた

「それは、貴方のお父上から頂いた形見でしょ?」

ヴェルは顔を顰めるが、ラズは構わずヴェルの首に掛けた

「ラズ、貴方が自分が居なくても良いように渡すのなら、私は受け取らないわよ。わかっているでしょ?」

ラズは頷く

「お守りだよ。これから何があるかわからない。持っていてくれ」

「私のお守りは貴方よ。側から離れないで」


ヴェルはラズに抱きついた。ラズは優しく彼女を抱擁し美しい髪を撫でていたが、彼の心中は暗かった。敵が外だけならなんとかなる。だが、内にもいるとなると困難さが跳ね上がる。避難前に出来るだけ内の敵は排除するが、それでも完全にできるかどうかはわからない


彼が外の敵と戦わないと戦線が維持できない以上、ヴェルを一人にする時間は当然長くなる。霊力だけで言うならば、ラズワードよりも姫王の方が上かも知れない。だが彼女は守る事が出来ても攻撃する力を持たない。その時、彼女を守るものはこの宝石しか思いつかなかったのだ。鉱石には意志がある。父上が下さった鉱石なら彼女を守ってくれると信じているから、渡した。逆に言えばそれ程追い詰められていることが、彼を忸怩たる思いに駆り立てた

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