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双青の都  作者: 吾瑠多萬
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悪意


執務室に入ってくる姫王は表情が柔らかくなり一層綺麗になった。側近たちはやっと結ばれたのかと安堵したが、隊長は何も変わらず、掃除できる便所はないかと今日も巡回を強化していた


「ラズワードと副隊長はどこにいるかしら」

姫王は副官に問う

「隊長はわかりませんが、副隊長は佐官室にいると思います」

「そう、なら副隊長を呼んで」

「承知しました」


副官は副隊長を呼びにいく。副隊長は姫王に呼ばれる事など滅多にないので何事かと急いで執務室へと向かう

「お呼びでしょうか、姫王様」

副隊長は片膝をついて挨拶する。姫王は書類に目を落として何か書き込んでいた

「立って楽にして頂戴。聞きたいことがあって呼んだの」

姫王は顔を上げると副隊長の顔を見る


「この頃状況が厳しいと言うことを副隊長は理解していますか?」

「はっ、理解しております」

姫王は少し考えていたが

「単刀直入に聞くわね。あなたは私の為に命を捧げる覚悟はありますか?強制している訳ではないので、思っている事を教えて」

側で聞いていた副官は驚いた。姫王様は副隊長に何をさせる気なのかと


「はっ、その覚悟はできております」

また姫王は沈黙し、副隊長の顔を見ていた。副隊長はその眼差しに潜む葛藤と慈愛を感じた

「わかりました」

姫王は一度大きく頷くと、副隊長に心から言った

「ラズワードを頼みますね」

「承知しました」

副隊長は深く敬礼すると、退出した。姫王は少し考えてから、副官に命令を出した


神出鬼没な上に気配を消すのが上手いので、探し出すのが一苦労だと副隊長が愚痴をこぼしていた頃、隊長は島の北端に隠してある船着場にいた。ここはこの島へ逃げてきた時に使用された船が隠されており、定期的にメンテナンスがされている。船を一つ一つ点検しながら、いつでも使える準備をしていたのだ。彼の勘は近日中に敵の大規模な襲来があると告げており、いつでも逃げられる準備が必要だと思っていたからだ。


船の燃料だけでなく、食料や衣服、医薬品など長期の生活に必要なものを一人で備蓄庫から運んでは載せていく。すると、誰かがここへ近づいてくる気配がある。彼は身を隠して様子を伺った


「本当にやるの?」

「そうだ、我らの王はこの船を沈めておくように言われている」

「そんなことしたら、バレるよ」

「知ったことか。その頃には皆死んでいる」


男と女の声が近づいてくる。どうやらあまり状況がよろしくない。何か企んでいるようだ

「それでどうするの?」

「船底に穴を開けておくのさ。簡単だろ?」


何か道具を持っているのか、男は引きずるような音を立てた

「これさえあれば、簡単に穴が空く」

「それ何?」

「ドリルと呼ばれる道具さ」


女は何も言わなかったが、動揺しているようだ。隊長はどうやら色々と事情を聞いておく必要がありそうだと、二人の後をつけた。二人は一つの船に乗り込むと、船底に向かう


「荷物が沢山あるね。誰か出航の準備をしているみたい」

「そんなはずあるか。襲撃が明後日の深夜だとは誰も知らない」

「え、そんなに急なの?昨日2週間後って言ってたじゃない」

「急遽変更になったと今朝連絡がきた。向こうも大慌てで準備に忙しいから僕らがこの役をやることになった。俺たち二人だけが知る秘密任務だ。無論、明後日に変更になったことも僕らしか知らない」


男は秘密任務を与えられた事を誇りに思っているようだが、女は特に何にも思わないようだった

「そうなんだ。なんだか嫌な予感がする。隊長殿が気づかないとは思えないよ」

「あいつは我らの秘密を知っていたのだ。早急に始末しないと」


隊長はどこかで聞いた声だと思っていたら、食堂で質問してきた兵士かと思い出す

あいつは敵のスパイだったようだ。なるほど、合点がいくと隊長は思った。一般兵士が戦いの根本理由を誰にも聞かず直接聞いてきたからだ。目的がなければ普通はしない。あの時何が目的なのかと少し疑問に思っていた。


彼らが船底で準備をしている間に隊長は彼らが使った梯子をこっそり引き上げ、ハッチを閉めた。女は何かの気配に気づいて振り返った

「ところで穴を開けたあと、どうやって逃げるの?」

「降りてきた梯子があるだろう、それを使う」

「ないよ?」


男は何言ってんだと言わんばかりに振り返ると確かに梯子はなかった。

船底は天井が高い為に梯子のようなものがないとハッチに届かない上にハッチは閉まっていた。それ以外の出口はないし、船底に穴を開けたら自分達も水死することになる

「ねえ、どうするの?」

女の声に男は答えられず、ただ呆然としていた


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