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双青の都  作者: 吾瑠多萬
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季節は巡りまた同じ季節となり、さらに一巡した。この国の状況は悪くなるばかりだった。外から攻めてくる敵の数は日増しに増えており、島の防衛は段々と難しくなってきていた。それでも規格外の隊長いるおかげで島内に被害らしい被害はなく、兵士もまた同様だった。だが、隊長と副隊長はこのままでは自滅してしまうと危惧していた


「どうするよ、このままだとジリ貧だな。敵の数が多すぎる」

「確かにそうですね」

島は防衛しやすい利点がある反面、逃げ出すのが難しい。また比較的平和な期間が長かったこともあり、当初よりも人口は増えていた。土地もこれ以上の人を養う余力がなかった。隊長は無意識に懐に手をやって煙草を出そうとしたが、そこに煙草はなかった。


隊長は顔を顰めたが直ぐに諦めのため息をついた。姫王から禁煙を命じられたのだ。体に良くない、ヤニ臭い人とキスはしたくない、など。キスなどしたこともないのに、この人は何を言っているのだろうと思ったが、普段からやらかしているので反論することは出来なかった

「結界を張るにしても姫王様がいないと無理だしな。動くなら皆一斉に動かないとこの状況では危うい」


姫王は結界を張ることができる。無敵ではあるが、これも自らの命を削っていくことになるのでずっと続ける訳にはいかないし、大きさにも限界がある

「対岸の大陸に移動するのが最も簡単ですが、そこでは敵にすぐ捕捉されますね」

「そうだよな」


二人は海を見つめていた。空の青も海の青もどちらも変わりなくずっと青いままだ。何も変わらない。雲は相も変わらず漂うだけだった

「北へ行くしかないな」

隊長はつぶやいた

「北、ですか。他の島へ移住するということですか?」

「あんまりしたくないがな。北は奴らにとって忌地だ。それで当面凌ぐしかあるまい」

「そんな話、聞いたことありませんが」

副隊長は驚いた様子で隊長を見る


「あいつらを北へ追い詰めると何故かそれ以外の方角へ逃げようとする。わざと北だけ逃げ道を作っても避けるんだよ。おかしいだろ?」

隊長は我慢できないのか、煙草を咥える仕草をして火をつけた。もちろん真似だけだ。副隊長は目を細め、面白いものでも見たような目で少し笑っている


「一度首ねっこ捕まえて北へ飛んだんよ。そしたらそいつ発狂してな。暫く暴れたんだけど、そのうちグッタリして静かになったと思ったら、人の姿に戻って普通に喋ったんだよ」

「アイツらがですか?」

「アイツらが、だ」

副隊長は驚愕のあまり声が出なかった。人とはとても思えない容姿をした敵は、言葉も行動も違う

「なら、何者かが人外に作り替えたと。命を喰っているのではなく」

「いや、確かに命は食われている。正確には霊的な命だ。だから身体が無くなる訳じゃない。人に戻ったと言っても完全に腑抜けているから、普通の人だとは言えないが」


隊長は何か考えるように、暫く黙っていた

「誰かが作り替えたようだ。そいつの話ではここより東の地域で普通に暮らしていたが、ある日人外の者が来て攫われたそうだ。そして気づいたら今だった、という訳だ。その間の記憶は全くない」


二人の間に沈黙が流れる

「そんなこと誰にも言えませんね」

「当たり前だ。姫王様に報告したら、黙ってろってさ」

隊長は煙草の火を消す仕草をすると、少し苦笑いをしてその手を止め自分で言い訳する

「どうしても煙草を吸いたくてな。何も消す仕草までしなくてもいいのに」

「代わりにこれでも食べますか」

副隊長は懐から赤い小さな実を取り出す。乾燥した棗椰子だった。携帯もできて栄養価も高いから、隊の皆にもそれを持ち歩いている者は多い。隊長は笑いながらそれをもらうと口の中に入れ、嬉しそうに笑った。隊長は実はこれが好物だった。甘くて濃厚なその味がなぜか故郷を思い出させるのだ


彼はその場を立ち去った


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