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双青の都  作者: 吾瑠多萬
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新兵と悪戯(後半)


長い訓練の末、ようやく新兵も一人前となる日が来た。ラドンもその一人だ。今日の任命式には姫王様もご列席される。噂に聞く美しい姫王様が見られると皆興奮していた。正装した訓練生は演台の最前列に並ぶと副官が司会として今日の式典の開催を宣言する

「次にラズワード総司令官兼近衛隊長殿より訓示を賜る。一同気をつけ、傾聴」


司令官が会場に入ってくると演台に登る。皆一斉に敬礼した。司令官も答礼する。ラドンは何処かで聞いた名前だなと思っていたが顔を見てギョッとした。あの便所掃除担当だと言っていたラズワードさんではないか

彼のことは同期の連中にも話をしていた。色々と親身に話を聞いてくれるので、皆気軽に彼に声を掛け相談に乗って貰っていた。彼らも動揺して目線だけはラドンに向けている。どうゆうことだよ、と言いたいのだろう


ラズワードは新兵達の動揺する様子を目を細めて面白そうに眺めていた。すると後ろからラズワードにしか聞こえない位の音で副隊長の咳払いが聞こえる。面白がってないで早く始めてください、趣味が悪いですよ、後で姫王様に言い付けますからね、と

「皆、楽にしてくれ。初めて会うわけではないからな」

皆休めの姿勢を取るが、顔色が青い


「そう気にするな。別に意地悪でやったわけじゃない。便所掃除担当がいる新兵の兵舎があるわけないと誰が最初に言い出すか知りたかっただけだ」

いや十分意地悪だろうと皆思った


「まあそれはいい。折角の機会だからお前達にこれだけは守ってほしいことがある。絶対に死ぬな。これだけだ。死に直結する行為を見かけたら俺は貴様らを許さん。安全基準を守れ。道理や規則、マニュアルはその為に存在する。時にそれらが逆に死に直結すると確信したなら必ず破れ。良いか、必ず破れよ。俺はそれを咎めないし、よく破ったと褒めてやる。マニュアルがそうだったから、とか指示がなかったから、とかを理由に死ぬな。そんなものは何の役に立たない。必ず死なない方策を探って実践しろ。それがお前達がここにいる理由だ」


ラズワードが目配せすると副官が頷いた。姫王様の準備が整ったようだ

「それから何か聞きたいことがあったら、俺に直接聞きに来い。何でもいい。疑問をそのままにおざなりにするな。いいな。以上だ」


新兵達は再び敬礼し、ラズワードが答礼すると、壇上からから降りた

「最後にヴェルーリヤ姫王陛下よりお言葉を賜る。一同気をつけ」


真紅のドレスに銀のティアラをつけた姫王が会場内に入ってくる。胸にブルーの宝石が二つ付いた首飾りを下げている。その形は国の国旗にもなっている国章で、空の青と海の青を模したこの国の象徴でもある。

元首でもある姫王は演台に登ると、その美しい顔立ちに微笑みを湛えて新兵たちを見つめた。新兵達はその美しさに圧倒され、ただ呆然と眺めている


「皆が晴れて兵士になったことを嬉しく思います。これからは国の守護者の一人として活躍されることを期待しています」

「一同礼!」

新兵達が我を忘れて見惚れていたので、これはまずいと副官が声を掛ける。一同はハッとして慌てて敬礼すると、姫王は再度にっこりと笑って壇上を降りた



「隊長、姫王様がお呼びです」

副官が隊長に声をかける

「おう、わかった。何かあるのか?」

「特には何もおっしゃっていませんでしたが」

「そうか、なら大丈夫だな」


隊長は少し気を楽に持って執務室へと入る。何せやましいことが多すぎるので、どれが見つかったのかいつも戦々恐々としているのだ

「お呼びでしょうか、姫王様」

中に入ると机の上には沢山の書類があり、姫王はその決済に追われていた

「ええ、ちょっと教えて欲しいのだけれど。先程の貴方の話で初めて会うわけではないというのは、どういうことかしら?」

姫王は顔を上げずに聞いてくる。これは少し雲行きがおかしい。まさかバレたのか?


「時々訓練を視察していたものですから」

「あらそう、なら便所掃除担当とは何かしら?貴方にそんな肩書きはないはずですが?」

げぇ、それ聞いていたのか、と隊長は思ったがここはシラを切り通すしかなしと思い言い訳を始めた

「それはですね」

「言い訳はいいから、私を放り出してどこをほっつき歩いていたのか言いなさい、ラズワード」

「申し訳ありませんでした!」


どこの世界でも土下座は通じるらしい。平身低頭になった隊長を見て、姫王はため息をつく

「やめて頂戴、そんなことして欲しいわけじゃないの。貴方がいるから軍隊が維持できている事くらい私にもわかります。でも何処かに行くなら私にひと言言ってから行きなさい。私が貴方をどれだけ心配しているのか解ってもらえませんか?」


姫王の目には涙が溜まっていた。姫王にとって彼は己より大切な存在だった。彼がいるから自分がいられる、決して失ってはならない人だとわかっていたからだ。彼女がもし彼以外と結婚していたとしても、夫よりも彼を優先するだろうという確信がある位だ。愛しているを越えて一緒にいる事が理だとさえ思っていた。そしてそれは正しい考えであり、実際、愛はそのように彼らを生み出していた


隊長はやっと観念した

「承知しました。今後は必ず姫王様へ行き先を告げて参ります」

「そうして頂戴。それからその姫王様という言い方をやめてほしいの。ヴェルと呼んで」

「それは出来ません。姫王様は姫王様です」


ずっと側でやり取りを聞いていた副官は、どっちも頑固だよなと思っていた。お似合いの夫婦になると思ったのだが、もう夫婦だったかと思い直す。二人の間柄を知る佐官や女官らは皆この二人は夫婦だと認識していた。どう見ても夫婦である。特に既婚者は誰もがそう思っていたが、当人たちだけはそう思っていなかった


「で、どこで何をやっていたのかしら、ラズワード。まだ話は終わってないわよ?」

駄目だった、逃げ切れると思ったのに、と隊長は思っていたが姫王がそんなに甘いはずがない。結局、全てを白状させられ、再び48時間の離れること禁止令が出されたのであった。副官は二人で好きにして貰えばいいかと思い、隊長の助けてコールの視線を完全に無視した


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