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双青の都  作者: 吾瑠多萬
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展望

これが最終話となります


神殿で追悼式が終わった後、姫王とラズワードが遺族の家を一軒ずつ訪問し、遺品を返した。誰もが亡き親しい者の形見が届いた事を喜び、ラズワードの帰還を喜んだ。子供や夫、兄弟を失った人々は悲しみに暮れたが、同時に本人が望んで献身し、その使命を全うした事に喜びを感じていた


そしてラズワードの手元には一つの遺品が残った。黒っぽい石の周りに唐草の装飾が付いたペンダントだ。

副隊長には遺族が居なかった。それは彼の母君の物だった。彼は母親を最初の襲撃で失い、父親を前回の脱出の際に亡くしていた。父親も近衛兵だった。そして副隊長は未婚のままだった

ラズワードはそのペンダントを握り締めた。ヴェルはそんな彼を横から抱き締める。ヴェルも愛がラズに語った事を聴いた。ヴェルは副隊長に心からの礼を述べ、その約束が果たされまた会える事を願った


「…それは貴方の手元に置くものでは無いわ」

「わかっている。これをあの彼女に渡そうと思うんだ」

ヴェルは頷く。副隊長には想い人がいた。神殿に務めていた女官だ。彼女も彼のことが好きだった。だが、副隊長はいつか己は命を落とすだろうと思っていたので、その気持ちを封印していた。一緒になれば悲しむのは彼女だ。そう思っていた

「それが良いわね」


ラズワード隊長と姫王は彼女の家を訪ね、その遺品を手渡した。二人の訪問に彼女は恐縮した。彼に肉親がいなかったことは彼女も知っていたが、ペンダントを差し出すと彼女は首を横に振った

「これは私が持つべきものではありません。どうか隊長殿がお持ちになってください」

「いや、これは君が持つに相応しいよ」

「副隊長は恐らく貴女に持っていてほしいと願う筈よ。私があなた方の気持ちを知らないと思いますか」


その言葉に彼女は涙を浮かべてペンダントを受け取り、胸に抱いて頭を下げた

この二人が再会できるのはいつの事だろうか。けれども愛が彼らの想いを見過ごす筈は無い。ペンダントは恐らくその時の目印となろう



そしてヴェルーリヤ姫王とラズワードの婚姻の儀が行われた。誰もがラズワードの帰還を歓迎し、二人が結ばれた事を祝った。こうして国は再興された



歳月が流れ、何回も季節が巡った

平和な時が流れ、人々は落ち着いた営みを取り戻した


ある日、ラズワード王はヴェルーリヤ姫王と寝室で話していた


「ここは良い場所だ。北に位置はするものの、海が暖かい流れを運んで来るお陰で過ごし易い。彼らの力はあの当時北には及ばなかったが、やがてはここにも届くだろう。私は貴女を彼らから隠したつもりだったが、いずれはまた見つかり必ず追って来る」

ヴェルはラズの顔を見た

「この次に敵が攻めてきたら、もう新しい界を作り出すしかない」


「新しい界?」

ラズは頷く

「こことは別の界だよ。完全に隔離して、往き来出来なくしよう。そうすれば影響を受けない。貴女の心が不安定になるのは良く無い」

姫王が自分の一部を封印した事によって、力を削がれ、また気持ちが少し揺れやすくなった。それはラズの気掛かりの一つだった


「そしてあの事が起こる以前のように営もう。庭に棗椰子を生やそう。貴女の好きな扁桃(アーモンド)も」

姫王は嬉しそうに微笑んだ


「大事なのはヴェルの命だ。これ以上彼らに害されたら、界も貴女も維持できなくなる

今の界は新たな統治者を作り出して、外つ国としてその者に任せよう。そうすれば君と離れる事も無い」

「それで上手くいくかしら?」

「分からないが、やるしかないだろうね。どんな状況でも何らかの果実がある筈だ。それが分かれば終わりは来る」


ヴェルはラズの顔を見て笑顔で言った

「でも私は既に貴方のデザインしたこの身体で、子供を産む事が出来て良かったと思っているわ」

「私もだ…愛のようには出来なかったが、この身体も悪くは無い。こんな事も出来る」

ラズも笑んでヴェルに口付けし、抱き締めた


ラズワードに降りた計画の為には相応の準備が必要だった。二人はその日から新しい界の構築を始めた


神は己の両の耳から、外つ国を統治する対の王を生み出した。右の耳から女の()を、左の耳から男の宇宙を。宇と宇宙は貝類の祖となった。貝類はその固い殻の内に己を閉じ込め、その中に守られながら成長する。そのように、界は今まで生み出された不調和が殻の中で望みの全てを果たした後に、大きく生まれ変わらんとする起爆の元となるよう設計されたのだ


神は宇宙にこの歪みを促進させ、彼らの望みが早期に果たされるよう、またその暁には大君と姫君が統治に戻るよう助力する事を命とし、我が力を貸した。また宇には宇宙と外つ国のそれを記録し、宇宙の補佐を命とした


それからまた季節が巡り、この地にも敵が迫ろうとしていた。だが彼らの手が及ぶ前に、神であるラズワードは新しい別の界を作り出し、姫神である姫王と彼らの民と共にそこへ移り住んだ



そこは薔薇の花の形をした都だった


最後までお読み頂きありがとうございました。このお話は「薔薇の都」へと続いていきます。「薔薇の都」のずっと後に「忘鬼の謂れ」と続きます。これらの物語の全てをまとめ上げていく本編をこれから掲載していく予定です

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