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双青の都  作者: 吾瑠多萬
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光輝く


隊長は島の上空に出た。懐かしいと思う反面、その変貌ぶりに驚愕する。島の神殿は崩壊していた。守備隊がいた砦もあちらこちらが崩壊している。島の中には例の生き物がウロウロしており、その他の生き物はいないようだった。


島の対岸にある大陸は、外つ国からきた移民や軍隊がびっしりといる。地面が見えないほどにびっしりと、地平線の彼方まで続いている。船は殆どなく、どこかへ行ったようだ。取り敢えずあの生き物たちを殲滅するのが先決かと思い、島へと降りた


「よう、久しぶりだなお前ら。今日は落とし前をつけにきたぜ」


そう言うなり近くにいた生き物数匹を一瞬で滅する。それに気づいた生き物が近づいて来たが、あっという間に全ての生き物を焼き尽くし、島には生き物がいなくなった


隊長は神殿や砦、街の中を周り、遺体を神殿の霊廟に集めた。どれも身体が激しく損傷しており、それを見る度に自分の血が沸騰しそうな程の怒りを覚える。敵と自分の両方に対してだ


副隊長の遺体を見つけた時、彼の怒りが頂点に達した。我を忘れたラズワードは、敵のいる大陸を焼き尽き尽くそうと上空に昇り、その力を込めた。その瞬間声が聴こえてくる


「隊長、それでいいのですか?」


副隊長の声だ。ラズワードはどうにもならない想いと、彼のいつもの冷静な声が己のすべきことを思い出させる。その拮抗した感情が更にラズワードを混乱させる


「ちくしょー」


その感情は島の近くにある無人の小島に向かって発散された。小島はラズワードから放たれた途方もないエネルギーで一瞬で消滅し、更に海を開いてその地を深く抉り取る。その穴を埋めるように海面は大きく動いた。全ての力を出し切り、力尽きたラズワードの身体は海へと落下した。


海の中に沈みゆくに任せもう死んでもいいかと思った。だがその耳にヴェルの声と子供の声が聞こえる。呆れたようなヴェルの声は早く起きなさいと言い、男の子の声が、お父様早く水面に上がってくださいと何度も言ってくる。わかったよ、上がればいいんだろ、と心の中で呟き海面まで泳いで上がる


自暴自棄な自分とは裏腹に、水面に届くと身体は必死で呼吸する。自分の荒い息でまだ生きていることを実感した。身体が思うように動かず、そのままうねる海面に仰向けに浮かぶ。辺りは大きな波が出来て島や対岸の大陸に津波となって押し寄せ、侵略者の群れを洗い流していた


ほぼ霊力の無い状態で海面で朦朧として浮かんでいた。どのくらい時間がたったのかわからない。そう言えばヴェルの声はわかったが、男の子の声は一体誰だろうと、ふと思った。どこかで聞いたような気もするが、思い当たる男の子は居らず、誰なのかわからなかった


夜が明けたようで、水平線の彼方が明るくなってきた。海面はどうやら鎮まって来た。隊長はこのまま浮かんでいても仕方ないと思い直し、泳いで島の岸に這い上がるとそこに横たわり身体の回復を待った


動けるようになると遺体集めを再開した。遺体から一つずつ丁寧に遺品を集めた。これは遺族に渡さなければならない。彼は涙が止まらなかった。一人ひとりに声をかけた。済まなかった、俺が不甲斐ないばかりにお前をこんな目に合わせてしまった。そしてありがとう。俺の命を救ってくれたのはお前だ、と。


全ての遺体を集めると、彼は祭壇で祈った。彼らの命が喰われていることはわかっていた。愛の循環に戻れないことも、来世がないことも、そしてこの地から離れられないことも。それでも祈らずにはいられなかった。愛よ、どうか彼らを命の循環に戻してくれと



我が命は尊く そして美しい

その役を全うしたものは

愛である


愛は愛する

愛であるなら それは必ず愛の元へ還る

光と導きは その螺旋の行方を指し示し

その者たちをいざな


約束は果たされる




隊長は愛の言葉に安堵した。必ず戻れると愛は約束してくれた。それならいつか、彼らと再会できる、と。


「今を持ってお前たちの任務が完了したことを軍司令官として宣言する。よくやった。解散!」


隊長は敬礼した


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