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双青の都  作者: 吾瑠多萬
15/19

真心


副隊長は全員に今後の方針を話し、もはや作戦ではないことを話す

「隊長殿からの指示だ。これは軍務とは呼べない。従ってここからは志願者のみで戦いを継続する。辞退するものは島の中へ逃げて良い。これから24時間以内に軍務から離れるものは軍務違反とはしないし、誰の許可もいらない。速やかに去れ。また、去る者に声を掛けることも禁ずる。恩給と食糧、及び必要品は倉庫にあるものを好きなだけ持って行って良い。以上だ」


話を聞いていたものは、皆顔を見合わせた。防衛に成功すれば命は助かるだろう。だが、隊長の話ぶりからして、とてもそんなことはないように思った。一部の者は重たい装備を外して置くと、その場を離れ、静かに去って行った


翌日、3割程度の人員が去っていた。物資等は思った程なくなっておらず、そのまま家に帰ったものが大半だったようだ。隊長は副隊長からの報告を聞いて驚いていた

「そんなに残っているのか。驚きだな」

「残った者はどこにいても助からないとわかっていますよ」

「まあ、そうだよな」


隊長は対岸に面した陣地に人を全て配置した。対岸から飛び出そうとしている生き物があれば躊躇なく叩き潰すよう指示する。他の陣地は放棄し、目の前の敵に集中できれば、それなりに確率は上がると踏んでいた


翌日の昼過ぎ敵の結界が揺らぎ始めた

「総員、攻撃準備!」

副隊長が号令する。隊長は上空に上がり、砲台の予想位置に照準を合わせた

結界が解除された。中から轟音と共に何かが一斉に飛び立つのが見えた。隊長は砲台の位置を素早く確認すると、ありったけの力で砲台を攻撃した


こちら側からも飛び出した生き物を狙って一斉に攻撃を始めた。初回の攻撃でかなりの数の敵が落ちたが、それでも無傷だった生き物は蝙蝠のような羽根を広げ島に向かって飛んでくる。その生き物は長い首と長い尾を持ち、全身が黒みを帯び光を鈍く反射した


砲台は隊長によって完全に破壊されたが、最初に撃たれた砲は落とす事ができず、そのまま島の擁壁に直撃した。これは命の鉱石で作った砲弾、その威力は見た目以上だ。轟音と共に揺れる大地、何かが崩れる音と火柱があちらこちらで上がる


隊長はかなりの体力を消耗していたが、生き物を攻撃するために島へと戻る。対岸では第二波の生き物が飛び立ち始めた。隊長は副隊長の隣に戻ると、生き物に攻撃を掛ける


やっぱりだ、ラズワードは嫌悪を感じる。あいつら、あの聖なる眷族の姿を模して人工生命を作りやがったんだ


生き物は牙の生えた口を開け威嚇の咆哮を挙げた

隊長の攻撃が届いた一匹は羽根が焼け落ち落下したが、その隙にもう一匹は味方の兵士の一人を咥える事に成功し、こちらの射程外まで引き下がり、獲物を堪能する


皆はそのおぞましい光景に息を呑んだ。確かに命を喰われると言うのはこう言う事なのだと誰しもわかった。それは単なる死以上に怖ろしいものだ。この生を終えても、命の大元に還る事が出来ないなんて


副隊長は判断した。隊長の霊力は枯渇して、限界を迎えている。隊長に向き直ると言った

「隊長、これ以上は無理です。早く姫王様のところへ戻ってください」

「何言ってんだ。ここを離れることなんかできるか!」

「駄目です。姫王様には隊長が必要です。これまでありがとうございました。お別れです。総員、ラズワード隊長殿に敬礼!」

皆、一斉に隊長へ敬礼する。それから副隊長は隊長が以前渡した煙草の紙巻きを取り出し、破る。

「待て、お前それは」

すると手を伸ばした隊長の姿は消えた

意識が空間の歪みに巻き込まれる瞬間、ラズワード隊長は涙を含んだ副隊長の声を聞いた

「隊長、あなたが最後の希望なのです。あなたさえ居れば…」



副隊長は姫王様の喫煙止めメッセージが入った巻き紙の煙草もどきを隊長から貰った。捨てようと思って見たら、何やら中に文字が書かれているのが透けて見える。その巻き紙を開くと魔方陣とメッセージが書いてあった


「副隊長へ。ラズワードの命が危なくなったら、この紙を破りなさい。ラズワードは強制的に私の元へ帰還します。これが私からあなたに死を命じているも同義だとわかっていると思います。必ず遂行することを王の名の元に命じます。この報いは全て私が引き受けましょう。ヴェルーリヤ」


副隊長は涙が止まらなかった。そうか、隊長を生きて戻せるのか。彼がこの作戦で一番心配だったことは、隊長が命を落とすことだった。頑固な隊長が途中で帰ってくれと言っても聞くはずがない。言えば言うほど帰らなくなることはわかっていた。隊長の命はこの国だけに留まらず、これから未来に渡って何か重要な使命を持っていると感じていた。だから何としても生きて帰したかった。よかった、これで憂いなく戦える。ありがとうございます、姫王様。彼は感謝した


そして今日の決戦の日、彼は隊長に内緒で残ったもの全員に念話を送った。姫王様が隊長を帰還させる方法を授けてくれたこと、その時は皆で敬礼して送り出したいと思っていること、を。皆からは賛同の声しか上がらなかった。それはいい、良かった、と。誰もが隊長を死なせたくなかった。ここで犬死するような人ではない。我らが滅んでも、隊長殿がいれば必ず国は復活できる。それが希望だと




その後、彼らは全滅した。一人残らずその生き物の餌食となった



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