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双青の都  作者: 吾瑠多萬
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♪ amabile(アマービレ)【愛らしく】


隊長は遥か上空から敵の布陣を眺めていた。想像以上に敵が多い。ここで殲滅できるのならやりたいと思ったが、戦闘要員ではないものも沢山おり、巻き添えを食いかねない。軍隊の移動というより、民族の移動といった方が良いような数だ。軍隊の動きから考えると、やはり今日の深夜に攻め込むつもりのようだ

隊長は念話で予定通りと伝えた


「数が多いな。一体何を目指している」

前回偵察した時よりも更に数が増している。ここまで多くのものが何故移動しているのか彼には分からなかった。仮に島に移住するにしても、この人数を入れる余地は全くない。島を覆い尽くすよりも人数が多いからだ

「分からん。移動することが目的なのか?それならなぜ南に来る?他の方角でも良さそうなものだが」

戦力分析はできた。これ以上見ていても意味がないので、戻ることにした



姫王は投影機の前に立つと説明を始めた

「みなさん、今回の避難訓練に誠実な勤めを頂いたことを感謝します。私たちはこれから島に戻らず北にある島へと向かい、そこに移住します」

姫王は少し間を置いた。皆おそらく混乱しているであろう


「避難訓練という形で皆さんを連れ出したのは情報が漏れるのを防ぐ為です。どうかご理解ください。ご存じのとおり、私たちは外つ国から攻撃を受けています。これは私達が生まれる遥か昔からのことです。ご先祖はずっと逃げ延び、ここまできました。私も幼少の頃、皆さんとこの南の島へと逃げ延びたことは昨日の事のように覚えています」


「そして今回、外つ国から大きな侵略が始まりました。島には守備隊が残り島を守りますが、彼らもまた期を見て脱出してきます。ですから、皆さんどうか希望を捨てないでください。私達は新しい島へと移住し、ご先祖様からの血筋を守りましょう」


姫王は話を終えると自室に戻った。部屋と扉を閉めた途端、涙が溢れ止まらなかった。守備隊が生き残れる確率は殆どない。彼らを乗せる船が用意できなかったのは、私の落ち度だ。それでもあの地を守らせる決断をした私はきっと、命の大元に帰ったら裁かれる。


皆、私が悪いのだ。姫王はそれでもいいと思っていた。ラズワードだけでも戻ってきてくれるなら、私は火炙りになっても構わないとさえ思っていた。姫王は心の中で叫んだ。ラズワード、必ず戻ってきて、と


住民達は姫王の話を聞き終えると、やはりそうかと思っていた。船が北に進路をとった時、島へ戻るつもりがないのではないかと思ったのだ。年配の者達は、あの幼かった姫王が苦渋の決断をして皆を船に乗せたことを良く覚えていた。年若い者達は不満に思って口々に文句を言っていたが、彼らがそれを宥め新しい土地での夢を語り始めたことで、少しずつ不満は消えていった



夜になって、甲板には二人の老人が立っていた。どっちが言い出した訳でもなく彼らは南の島がある方角を眺めていた

「激しい戦いになるのだろう」

一人の老人がつぶやく

「ラズワードの坊主の顔を見ればわかる。かなり戦況は悪いようだ。いつも悪戯小僧の顔しかしていなかった奴が、真面目な顔をしていたからな」

もう一人の老人は笑いながら話した

「姫王様は船が用意できなかったことを悔いておられるな。我ら老体など島に置いておけば良かったのに」

「島に居っても我らじゃ何の役にも立たん。足手まといも良いとこじゃ」

本当はそんなことはなく、前回の防衛戦では大活躍している。単にラズワードが異常人だっただけで、この二人は超人だった

「おそらく全滅だろうなぁ」

「ああ」

沈黙が流れた。姫王は全滅することを知っている。それでも命じない訳にはいかなった心中を察し、祈りを捧げた

「帰って来いよ、坊主。お前には戦いよりも大事な役目があるだろ」

老人達は静かに目を閉じた



島では予定通り深夜から攻撃が始まった。敵は奇襲する予定だったが、隊長の罠にハマって逆に襲撃された。これにより敵の数はかなり減らされることなる。敵も奇襲が効かないことがわかると、包囲を縮めて一斉攻撃を始めた。守備隊はこれを退け敵を島の中に入れることはなかった


東の防衛戦では兵士が奮闘していた

「次が来るぞ」

次々やってくる敵を殲滅するため、忙しく応戦する

「まかせろ、昨日の隊長の方がよっぽど激しかったぞ。これなら何とかなるぜ」

隊長の攻撃よりも緩慢さと正確さが段違いであり、守備隊は応戦に余裕が持てた

「あんときは酷かったからな。何にも出来ずに身体中ペイントだらけだった」

「違いない」

そんな会話ができる余裕があった

「油断するな、左からも来るぞ」

兵士長の声が気の緩みを占める

「いいか、俺たちは生き残るぞ」

「おー」


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