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双青の都  作者: 吾瑠多萬
12/19

♪ tranquillo(トランクイロ)【静かに、落ち着いて】


結局、兵士たちはその後使い物にならず、総員休みになった。住民がいないから大丈夫だろうという意味不明な理由により、この島に来て初めて守備隊全員が一斉休暇となった


「今夜襲撃なのでは」

佐官の一人が隊長に尋ねる

「いや明日の夜だ」

えっ、と思い隊長の顔を見ると何やら面白そうな顔をしている。この人、もしかして何か企んでるのか?

「誰にも言うなよ。まあ、楽しみにしててくれ」

隊長はそう言うとその場を去った


夕方になると皆少し回復したのか、本来の持ち場へと戻ってきた。今夜襲撃があると佐官達が通達していた事もあって、皆緊張した面持ちで待機していた。それから数時間後、副隊長は全員に通達を出した


「総員聞いてくれ。本日は休みになっているので、これから宴会を始める。総員、訓練場へ集合せよ。敵の襲撃は明日の夜に変更となった」


全員、えっと言う顔をした。敵の都合の襲撃が変更って、と疑問に思わぬ訳でも無かったが、訓練場に集まれとの指示なので全員集合した。そこには沢山の鍋と酒があり、神殿の留守番と思われる人々が食事の用意をしていた


「隊長から今日は敵の襲撃はないし、守るべき住民もいないから宴会しようとのお話だ。神殿の方々が食事と酒を用意してくれたので、全員で宴会を始める」

副隊長は全員に向かって話す。それからドンチャン騒ぎとなった。最初は明日に備えて酒をセーブしようかと思っていた者も酒が入ると止まらない


「皆楽しそうだな」

隊長は祠から戻ってくると、酔っ払って潰れている面々があちこちにおり、踊るものや叫ぶもの、はたまたずっと泣き続けているものもなど、とても住民に見せられる様ではなかった


副隊長は一人、小さい弦楽器を奏でていた。厳つい体の大男が小さい楽器を持って弾いている様は、なんとも愛嬌があった

「お、やってるやってる。熊の曲芸だ」

隊長は面白そうに副隊長の元へやってくる。副隊長が奏でる曲は、情熱的で大きな界を俯瞰するような音楽だった

曲が終わると、隊長は盛大に拍手する。途中から聞いていた者も囃し立てた


「本当に似合わないよな。なんでそんなに上手いんだ」

「好きなんですよ。楽器が小さくて弦を抑えるのが一苦労ですが」

副隊長も笑っていた


暫くすると、その場で眠るもの、まだ飲むと言って誰かと別の場所へ移動するものあり、解散していく


「明日、使い物になれば良いのですが」

「大丈夫だよ。そんなんで潰れるような玉かよ」

隊長は笑いながら、懐中に手を入れると煙草用の小さな木箱を取り出した

「止めたのではないのですか?」

「今日は姫王様がいないからな。副官が気をきかせてくれたんだよ」

隊長は嬉しそうに煙草の箱の封を切ると、一本を取り出した。だが何故か妙な顔をしてその煙草を見ている


「どうしました?」

副隊長が尋ねると、隊長はその煙草を副隊長に渡した。それは煙草ではなく、只の巻き紙だった。そこにはこう書かれていた

“私がいないと煙草を吸うの?ラズワード”

副隊長は大笑いした

「さすが姫王様ですね。芸が細かい」

「やられたよ」

隊長も笑って懐にまた煙草の箱を戻した



翌朝、二日酔いの者が大勢、いや殆どだったが、仕事はいつも通りだった。西の見張台にいた兵士は多少気持ち悪い様子だったものの、心は晴れやかだった

「昨日は騒いだな」

「ああ、いつ以来だろうな。腹に溜まってたものが消えたよ」

同僚も同じ思いだったようで、その言葉に頷いていた


その頃、佐官達は会議室に集合していた。昨夜捉えたもの達から得られた情報を基に、作戦が練られていた。担当が決められ計画が決まった


「よし、それじゃいいか。この戦いは長期戦にはならんようだ。あちらさんにも事情があるようで、短期集中攻撃になるだろう。何処まで耐えればいいのかは、敵の数次第だな。残念ながら敵の数は現時点では分からない」

隊長は一呼吸おくと

「それで俺が偵察に行って見てくる。近くの状況がわかったら念話で連絡するから、もし決戦が予定通り深夜であれば、午前中は兵士を出来るだけ休ませろ」

隊長は副隊長へ目配せすると、副隊長は頷く

「そんじゃ、行ってくるから後よろしく」

隊長の姿が消えた



姫王は船上から島の方角をずっと見つめていた。ラズワードが上手くやっていることは分かっているが、それでも心配だった、いや心細かった。これから住民へと説明する内容は、過酷なものだ。それでも王として納得させるしかない。右手で青翠色の宝石をぎゅっと握りしめると、船内へときびすを返した


「姫王様、投影機の準備が整いました。各船との連絡が確立しています」

船内に入ると、副官が報告する

「ありがとう。では始めましょうか」

姫王は投影機の前に立った

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