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双青の都  作者: 吾瑠多萬
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あお

以前に投稿している「薔薇の都」の前のお話です

スカイブルーの空と海がその境をくっきりと一直線に結び、それ以外のものはのんびりと流れる雲しかない。その景色はこの島が置かれた状況とはまるで関係ないかのように、まったりとした雰囲気を醸し出していた


島は半ば要塞化され、あちらこちらにある物見台には武装した兵士が周囲を見張っていた。その張り詰めた緊張感の中、どこからかブラシで床を擦る音が聞こえてくる。兵士達は顔を見合わせ、また副隊長が怒り出すよなーと意識がそちらに向くと、少しホッとして顔が緩む


熱心にブラシで床を擦っている男の背中から、身長が2メートルもありそうな強面の大男が半ば呆れながら声を掛けた

「隊長、何度言えばわかるのですか。上官が便所を掃除したら恐れ多くて誰も使えないでしょ」

これぞ兵士とばかりに筋肉モリモリの彼は副隊長である。声を掛けられた男は手を止めると振り返る


「いや、何、ほら、ちょっと床が汚れてたからちょっとだけ掃除しようかと思ってさ」

「思ってさではありませんよ。止めてくださいと何度も言っていますが」

「いや、ちょっとだから…」

「ちょっとでも駄目です」


その男は少ししょんぼりしたような目で渋々ブラシを片付け始める

「だって、俺やることないし。みんなお前がやっちゃうから」


副隊長は大きなため息をつくと

「姫王様の側付きという大切なお役目がありますが」

「まだ寝てるし、寝室に入る訳にはいかないだろ?」

「寝室に入るように言われていたではありませんか」

「でもさ…」

「何でもいいから早く姫王様のところへ行ってください。副官が探していますから」

「へーい。俺も訓練したいなー」

「駄目です」

隊長と呼ばれた男は手をひらひらと振ると、便所を後にした。副隊長はその後ろ姿を見送りならがヤレヤレといった様子で頭を振ると、その場を離れた


便所の近くにある物見台の兵士は見張りをしながら、そのやりとりを耳にしていたが、二人が去ると一人の兵士は面白そうに同僚の兵士に話しかけた

「二人とも毎日飽きないよな。昨日もやってなかったか?」

「北の便所だろ?聞いたよ」

「隊長は体が動かしたくてうずうずしているらしいぞ。姫王様の側付きでずっと側にいると、突然腕立て伏せを始めて困るって副官殿が嘆いていた」


二人の兵士は笑っている

「らしいよな、隊長」

「普段はポンコツ風なのに戦いが始まると凄いからな。二年前の防衛戦覚えてるか?この人どんだけ体力あるんだよと思う位一人で戦っていた。敵もあまりに続くから途中で引き上げようとしたら、『何帰ってんだよ』とか言ってそいつら縛り上げてボコボコにしてたよ。周りはみんなドン引きでどうしようかと思ったら、副隊長が来て『また今度の楽しみに取っておいてください』とか言って解放してたな」

「俺ならここへ二度と来たくないよ。副隊長も大概だよな、また今度って何だよ」


二人は笑う

「隊長も隊長だけど副隊長も副隊長だよな」

「似合いのコンビよ」

その会話は風に乗って海へと渡っていく。風はそれを何処へ届けるべきか知っているが、それに気づくものは誰もいない


隊長が神殿に戻ると副官が待ち構えていた

「隊長、また便所掃除していたのですか?いい加減やめてください。姫王様が心配されて探すように言われるのですから」

「分かったよ。これから掃除に行く時はお前に言うから」

「そうではありません」


隊長はこの話は終わりだと言わんばかりに後ろ向くと、そのまま先導して姫王がいる寝室へと入っていく

「お待たせして申し訳ありません姫王様。おはようございます」


隊長は片膝をついて挨拶する。部屋には大きな天蓋付きのベッドがあり、姫王と呼ばれた美しい女性が枕を背に身を起こしていた。薄い寝衣(しんい)の下に完璧な身体が微かに透けて見える。その上に金色の羊の毛で編んだ肩掛けを羽織り、長い髪と整った顔立ちで少し眉を顰めた

「私に断りなく側を離れないで、ラズワード。心配になるわ」

「申し訳ありません。少し周囲を見ておりました」


姫王は少し揶揄うような仕草で手で口元を覆うと

「あら、便所で何か面白いものでも見つけたの?」

「姫様、そのようなはしたない言葉をお使いになってはなりません」

姫王の側で今日身に着ける衣類の用意をしていた年配の女官が嗜める

「別に構わないでしょ、ここにはラズワードしかいませんもの」

姫王は意に介さずラズワードを見つめる


「少さな乱れが大きな乱れへと繋がります。隊長としてそれを許す訳には参りませんので、それを是正しておりました」

隊長は何事もない風を装って答える

「そう、皆と訓練したいなーと言うのもその是正なのね」

姫王は隊長に向かって風に聞いた言葉を口にして反応を伺う

「いえ、それはまた別のことでして」

隊長はちょっと焦りながら言い訳する


「私より訓練の方が大事なのね。そんなに訓練が好きならさせてあげるわ。じっとしている訓練ね。明日から私のベッドで私と一緒に寝なさい。側を離れることを禁止します」

「姫様!」

年配の女官は嗜める


「私はあなたの子を産んでも良いのよ、返事をなさいラズワード」

隊長はこれは困ったと思い、どうしたものかと思っていたら部屋の外からノックと副官の声がした

「失礼致します。会議のお時間ですので隊長殿にお越し頂きたいと、副隊長からの伝言です」


これは助かったと思った隊長は

「申し訳ありません姫王様。会議へ出向かせて頂きます」

「好きになさい」

姫王は不機嫌そうに答えると、隊長は寝室を後にした。ドアを閉めると外に立っていた副官にウインクする

「礼は副隊長に」

副官が小声で答えると二人はその場を後にした


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