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第2話

 碧依(あおい)を2階の使っていない部屋で眠らせ深夜。

 DVDプレイヤーにイヤホンを付け、片耳だけ装着する。

 都会と違ってご近所の家とは距離があるからそんな気遣いをしなくてもいいのだがようやく眠った碧依(あおい)を起こしたら面倒だ。


 それからスマホと睨めっこを数分してから電話帳アプリを開く。

 3コール目辺りで相手が電話を取った。


「もしもし、兄貴」


『これはこれは、愛しき妹よ。久しぶりだな』


「なんだその黒幕口調は」


『ふふ、すまない。今書いているミステリー小説がちょうど終盤でね。探偵が黒幕の正体に辿り着いたところなんだ』


「さいですか。それで説明はしてくれるんだろうね」


『黒幕は学校の担任教師だ』


「誰がネタバレしろって言ったよ」


碧依(あおい)のことか』


「どう考えてもそのことだろうに。どうして相談もなくこっちにこさせた。育児放棄もいいところだ」


『かなり前に留守電には残したんだが。長年電話に出てくれないだけじゃなくて、留守電確認もしてくれてないのか。流石に傷付くぞ』


 別に縁を切っているわけじゃない。

 単純に仕事が忙しすぎて家族付き合いがおろそかになっているだけ。

 つまりその弊害(へいがい)がとうとう来てしまったわけだ。


『それに育児放棄どうこうだが、碧依(あおい)は賢い子だ。自分の事は自分で決断出来る。僕はその決断を父として信じ、助けを求められたら支えるだけだよ』


「理解のある親ですこと。……それで、あの格好は」


『そんなことより、今でもあの古いDVDプレイヤーを使っているんだな』


 はぐらかされた。


 なんでDVDプレイヤーの事が解った。

 カメラ電話にでもしているかと確認するがそんなことはない。


『微かにDVDの回転音と5秒おきにスれる音がする。君は映画を観ている時の返事が1テンポ遅れるね。サブスクがあるだろうに未だに円盤とは。最近では独占作品も多いぞ。しかも収集癖のある君の事だ、レンタルではなく購入だろう』


 当たっている。

 2階にはDVDを収納した本棚で埋まっている部屋が存在する。

 正直、小さなレンタルショップと張り合えるくらいには。


「仕方ないでしょ。忙しくて見終わるのに時間がかかるし、自分のにならない物ってなんだか嫌いなんだから」


『君って本当に変わっている』


「兄貴に言われたくない」


『昔からそうだ。最後に吐き出すのが嫌だからってチューイングガムが好きじゃなかったな。なにがなんでも飲み込もうとしていたから口に指を突っ込んで取り上げたことだってあった』


 口に入れたものを吐き出すという行為が嫌いだ。

 最後には自分の物にならないというか、手放すのが許せなかった。

 所有欲が強いのだろう。


『ああ。──だから僕が結婚するとなった時は』


「あーあー!! この話やめやめ」


『それで、今はどんな映画を観ているんだ』


「……映画って言うより海外ドラマ。サイコパスの鑑識が殺人衝動を抑えるためにサイコパス狩りをする話。結構シーズンがあるんだけど、今ちょうどシーズン2まで見た」


『ああ、最終回だけクソなあのドラマか』


「おいこら、蒼一郎(そういちろう)。ネタバレすんなよ」


『ネタバレではなくないか?』


 座っているソファーを蹴るように足をジタバタさせる。

 兄貴にはこういう無自覚さがあるから困る。

 あー……、最終回クソなのか、どうしよシーズン4まで買っちゃったけど。

 見るのやめるか?

 いや、ここからが盛り上がりだ。


「とりあえず、碧依(あおい)東京(そっち)に帰したいのだけど」


『そういったサービスは行っていない。家族なんだ、仲良くしてやってくれ』


「なーにが、家族だ。よりにもよって私の嫌いな探偵にさせておいて。探偵が登場する作品は決まって警察は役立たずとして描かれる。つまり共存は不可能」


『僕の小説のファンである警視総監殿には探偵として事件に関われる許可を得ているから大丈夫だ。協力してやってくれ』


「話が通じてないな、まったく」


 しかし警視総監の許可が出ているのなら私に口を出す権利はない。

 つまり碧依(あおい)の面倒を見るのも職務のうちというわけだ。


『君を誰よりも信じているから愛する我が子を預けるんだ』


「うぐっ。……わかった。わかりましたよ。グレても私のせいにしてくれるなよ」


 私はとことん兄貴の頼み事に弱い。


『ところで碧依(あおい)の荷物の中に黒のブリーフが紛れてなかったか? 長男のブリーフが1枚行方不明なんだ。長男も変わった子でね、7枚しか下着を持っていない。しかも曜日別に決まってる。このままでは日曜日はノーパン──』


 電話を途中で切った。




「……にゃむにゃむ」


 黒いなんらかの布を嗅ぎながら熟睡する碧依(あおい)であった。

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