理解出来ない男
「別れて下さい」
結婚を決めた彼女からいきなりそう言われ、俺は思考が停止した。
「え? な、何で? まず話し合おう」
彼女とは三年付き合い、先月給料半年分の指輪を手にプロポーズし、了承を貰ったばかりだった。
しかも先週の日曜日に、俺の実家に彼女を連れて行ったばかりなのに。
俺の家族は結婚に賛成、というかもう大歓迎で、彼女をもてなそうと色々していた。
俺の弟や妹も、彼女をもてなそうと自費で色々買ってきたほどだ。
「あなたとこの先一緒に暮らしていく自信が無くなりました」
彼女は静かにそう言った。
まぁ、喫茶店で大声を出すのは無作法だし、彼女のそういう大人なところを好きになったのだけど。
今はそれどころじゃなくて!
俺は理由を知りたくて彼女に「なぜ?」と質問した。
「結婚って、好きだとか、一緒に居たいとか、楽しいとかは、最初の三年くらいで冷めますよね」
いきなりの現実的な彼女の台詞に驚くが、確かに、と納得する内容でもある。
自分の両親を見ていれば、彼女の言いたい事は判る。
「結婚に占める食事の割合ってどれ位だと思います?」
え?いきなり話が変わった。
でも結婚の話ではあるから続いているのだろう。
「先週、貴方のご実家へ行って出て来た物を覚えてますか?」
勿論覚えている。
親父が彼女をもてなす為に手打ちした蕎麦。
母の得意料理のだし巻き玉子。母は家庭菜園で採れたトマトも、採れたてを出していたな。
それから、高校生の妹が近所の有名な店で買ってきたプリン。
そして小学生の弟は、自分の好物のいちごミルクを彼女の為に買ってきた。
他にも色々あったけど、もてなしの気持ちのこもっていた物はこれらだな。
「私、蕎麦アレルギーで食べたら呼吸困難になって死にます」
は?
「それから、卵と牛乳アレルギーです」
ええ!?
「口腔アレルギーで、生トマトを食べると口の中や唇が痒くなります」
何だって?
「それなのに貴方は、貴方の家族は、心を込めて用意した、と言いましたよね?」
でも、それは……
「私に死ねと、いえ、そこまでではないとしても、歓迎はしないという事ですよね」
それは、それは違う!
俺の家族は本気で君を歓迎しようと思っていたし、アレルギーの事を家族は知らなかっただけなのだから!
俺は必死に彼女に言い訳をした。
家族がなぜ、それらを用意したのか、もてなしだったのだ、と。
「そうですか」
彼女は静かにそう言った。
納得してくれたのかと、ホッと胸を撫で下ろした。
しかし、本当の理由はその後に語られた。
「今まで三年も付き合っていたのに、私のアレルギーに全然気付いていない貴方と、死ぬまで一緒に過ごすのかと思ったら……無理だと気付きました」
あぁ……そういう事か。
確かに今まで、彼女が卵や牛乳を使った料理を頼んだ事は無かった……かもしれない。
でも、これからは、これからはきちんと気を付けるから!
俺は自分に好き嫌いが無いから、気にしていなかっただけで!
「お待たせいたしました」
このタイミングで、店員が俺が注文したクレープを持ってきた。
テーブルに置かれたクレープは生クリームでハートが描いてあり、その中に苺ジャムで「愛してる」と書いてあるものだった。
終
今回のお題
指定食べ物を出す
・イチゴミルク
・ざる蕎麦
・トマト
・プリン
・クレープ