勇者の記憶
森の中を飛び回る妖精
妖精はふと何かを見つけ、それに歩み寄るーーー
少年
「ん…んん…?」
寝ている少年の顔を覗き込む妖精
少年
「うわっ!」
少年の反応に驚いた妖精は森の奥へと逃げていく
少年
「なんだ今の…?」
少年は森の中を見渡したあと
ゆっくりと立ち上がり、状況整理
少年
「ここはどこだ…?僕はなぜこんなところにいるんだ」
少年は戸惑いつつも当てもないまま
森の奥へと進んでみる事にしたーーー
しばらく進むと何かを蹴った感覚がして
足元を見るとある物が落ちてるのがわかり
、それを拾い上げる
少年
「…?盾…?」
少年が拾ったものは古びた木製の盾だった
少年
「なぜこんなところに…?」
少年が不思議そうに盾を眺めていると
背後から何者かが忍び寄る
「ブルァァァァ!!」
少年は驚き、咄嗟に盾を構える
「な、なんだこいつは…!?」
緑色の体色、大きな体、獣のような唸り声
この世のものとは思えない生物を前にして
少年はどうしていいのかわからず、その場から動けなくなる
ヒラヒラヒラ…
少年
「!!」
さっきの妖精が少年の元へ飛んできて
少年に対し何か合図を送る
少年
「一緒に戦ってくれるのか…?」
少年は戸惑いつつ、妖精の指示通りに
盾を構えマモノと相対する
少年
「一体なんなんだこいつらは…?
僕は一体…」
妖精がマモノの周りをぐるぐると周り
注意を逸らす
少年
「道が空いた…?あそこから逃げ出せそうだ」
少年はマモノにバレず、急いでその場から避難するーーー
少年
「なんとか…逃げきれたかな…?」
ハァハァと息を切らしつつ、マモノから逃げ切り
安堵したあと、その場にへたり込む少年
しばらくして先程の妖精がヒラヒラと
少年の元へやってくる
少年
「お前は一体なんなんだ…?」
妖精が森の奥へと進み、何かサインを送っている
少年
「…ついてこいって言ってるのか?」
少年は重い腰を上げ
妖精の後を追うことにーーー
しばらく追い続けていると
森の出口に到着する
少年
「おぉ…あれは、村か?」
森を抜けて少し先に村があるのを確認
少年はそこまで走って向かう
-村-
民家数件、宿やお店がある小さな村
少年は村に入り、とりあえずその辺をウロウロしてみる
少年
「んー…」
少年は周囲の目線が気になって仕方ない
少年
「なんでみんな僕をみてくるんだ…?」
周囲は驚いたような顔で少年をじっと眺める
少年は居心地が悪くなり、冷や汗をかいている
少年
「歩きづらい…」
少年は村人に声をかけてみる事に
少年
「な、なぁ?」
村人
「…え!?あ、はい…何かご用でしょうか…」
少年
「いやえっと…(なんだこの反応は?僕はそんなに怪しいか…??あ、盾持ってるから?)」
少年はふと自分の身なりを見て瞬時に納得する
少年
「僕は怪しい物ではないぞ、盾を持ってるが
これはその森で拾っただけで…」
村人はキョトンとしている
少年
「(誰か助けてくれ)」
村人
「…」
少年
「す、すまない、僕は気づいたら森で倒れてて
何が何だか分からなくて、変な虫を追いかけていたらこの村にたどり着いて…」
少年は必死に自身が村にたどり着いた経緯を話す
村人2
「勇者様…?」
少年
「?」
奥から村人が少年に向かってそう話しかける
-村長の家-
村人に連れられ、村長の家に招かれた少年
村長と話をする事に
村長
「ほう…勇者様、どうなされた?
何か忘れ物ですかな」
自分のことを勇者と呼ぶ村長に
戸惑う少年
少年
「あの…さっきから気になってたのだが
勇者って?」
村長は目を見開く
村長
「ヒセキを得るために森に入ったのでは?」
少年
「ヒセ…キ?すまない何のことか…」
村長
「そなたは…勇者様ではないのですかな?」
少年
「僕は勇者なのか…?」
周囲の村人がざわつく
村長も驚いた顔をしている
少年
「(な、なんなんだ…?)」
村長
「そなた、もしや記憶が…?」
少年
「?」
村長は目を瞑り、ゆっくりと
少年に事の次第を語るーーー
村長
「そなたはある目的の為に
この村を訪れ、村の秘宝「森のヒセキ」を
得る代わりに、森の魔物を倒しに向かわれたのです」
少年
「森のヒセキ?」
村長
「村に伝わる伝説の石です
言い伝えによると
この石は遥か昔、世界の均衡を保つ為に
3人の神がそれぞれの大地に収めたもの
これはそのうちの一つとされています」
「世界の均衡を崩してしまいかねない為
本来譲るのは禁句とされているのですが
そなたの目的にはそれがどうしても必要である為
村を救う条件のもと、それを譲る事にしたわけです」
少年
「僕の目的とは…?」
村長
「魔王を倒し、世界を救う事」
少年はそれを聞いて驚く
少年
「ま、魔王?」
村長
「古の魔王、世界を滅ぼす強大な力を持つマモノ
かつて神々によって封印され、しばらく世界には安住が続いたが
ここ最近その封印が破られようとしている
魔王復活を危惧した遠い国の女王から差し向けられ
三大の神が収めた石を集めるために
この村を訪れたと
そなたの口から、そうお聞きしました」
「もともとこの石は、三つで一つの神の遺物
人間の暮らしをよくする為に三つに分割したのが最初
ですがいつ訪れるかも知れない魔王復活によって、その均衡はいつも脅かされ続けてきました、魔王は神によって封印されてきたのですが、石を分割した事により
封印の力が弱まってしまったのです」
村長
「魔王に対抗するにはその力が必要になってくるのです」
ーーー
少年
「話が難しすぎてよくわからなかったが
とりあえず僕は勇者って事なのかもしれない」
少年は村長の話を聞いた後、再び森に向かって歩いていた
勇者?
「僕は魔王を倒す為に女王から使われた勇者…
にわかに信じがたい話だが、村長の口ぶり
それにあの村の反応…」
少年はまだふに落ちず、何も分からないまま
とりあえず森の中へと進んでいく
ーーー
森の中を進んでいく勇者(?)
勇者?
「とりあえず、さっき来た道まで戻ってみようか」
妖精がヒラヒラと勇者の元へ飛んでくる
勇者?
「お前、一体どこ行ってたんだ?」
妖精はヒラヒラと勇者の周りを飛び回る
勇者
「結局ついてくるのか」
しばらく進むと妖精が再び、サインを送り
森の奥へと飛んでいく
勇者
「あ、ちょっと…はぁ…またか」
勇者は妖精のあとを追うーーー
妖精はある物の前で頻繁に跳ねまくり
勇者にアピールを送る
勇者
「なんだ…?これは…剣?」
そこには地面に突き刺さる
装飾の施された剣があった
妖精が上下に動いて何かをアピール
勇者
「…引き抜けばいいのか?」
勇者はツカを握り、地面から剣を思いっきり引き抜く
勇者
「うわっ」
シャキンっとあっさりと抜けて
のけぞる勇者
勇者
「思ったより軽いな、この剣…今までの話から考えると、僕が落とした物なのかな?
この盾も、記憶を失う前に持ってきた僕の…?」
勇者は悩みつつ辺りを見渡して
あるものを見つけて目を奪われる
勇者
「死骸…生き物の…この切り傷は」
勇者は先程引き抜いた剣を見る
勇者
「年端もいかない僕に対し
村人のあの反応」
「察するに僕は相当腕の立つ勇者だったのかもしれないな…」
「最初は疑心暗鬼だったが、森に落ちてる剣と盾
得体の知れないモンスターとその亡骸、見る限り
僕は本当に勇者なのかも知れない…」
「一体どこで記憶をなくしたんだ?
戦ったら思い出せるだろうか
僕は戦えるだろうか?今の僕が戦えるのか疑問だ…」
勇者があれこれ考えていると
茂みの方から何かが飛び出してくる
「フシュルルル…」
勇者
「出たなぁ…(迷ってる隙も与えてはくれないか
僕が本当に勇者であるなら
戦わなければならないのかも知れないな…)」
勇者はシャキンッと剣を構え
マモノに挑んでいく
ーーーマモノ撃退後、勇者は焚き火で暖を取る
勇者
「記憶をなくしても体は覚えているもんだな…」
勇者
「…こいつ食えるのかな?」
さっき撃退したマモノを恐る恐る調理する
ーーー
「ここだな」
洞窟の前に立つ勇者
「村長が言ってた
魔物の巣食う洞窟、この最深部に目標がいる」
勇者はゆっくり洞窟内部へ進んでいくーーー
-マモノの住みか-
湿った所が大好きなマモノ達の居住地
不気味な鳴き声が至る所で聞こえる
外よりやや気温が高く、流れる風も暖かい
ほのかに香る洞窟特有の湿った匂い…
勇者はベタつく汗を拭き取りながら
段差を登り、奥へと進む
歩くごとに目に止まる
苔の生えた岩、流れる滝、数秒おきに滴るしずく
勇者
「…ゴクッ」
唾を飲み込み、喉の渇きを和らげながら歩き
やがて草が生い茂る場所へ辿りつく
勇者
「ここは…」
穴の空いた天井、流水、折れた木、垂れるツタや藻…そこは洞窟内の広間に位置する地点
勇者はしばらくこの場所を拠点として
洞窟内部を探索する
ときに襲いかかるマモノの群れを蹴散らしながら
慎重に、奥へ奥へと進んでいく
勇者
「コウモリの大群に凶暴なキツネ…
二足に歩く変な植物……普通じゃないな…」
勇者は時折休憩し、
体制を整えながら探索を続ける
しばらくして勇者はあるものに
目を引かれ立ち止まる
勇者
「これは…」
不思議な球体状の物
勇者は思わず手に取ってそれを確認する
勇者
「なんだ?この、この感触……パフパフしてる…」
パフパフした触り心地の不思議な物体に
しばらく興味を奪われる勇者
勇者
「何かのアイテムか?」
勇者はなんとなくそれを
ポケットにしまったあと、探索に戻る
その後も探索を続け、地下を経由
デカいクモなどを蹴散らしていき
一通り洞窟内を回ったあと
最深部へ
勇者
「!!」
勇者はそこであるものを見つけ
目を見開く
ガサゴソとうごめく謎の大型モンスター
勇者
「これは…」
-ボスとの遭遇-
芋虫のような姿の巨大なマモノが洞窟内を歩き回っている
勇者
「あれが、村に危害を及ぼす恐れがあると言われるマモノか…」
勇者は村長から聞いた話を思い出していた
勇者
「こいつを倒せば何か思い出せるかもしれない」
勇者は剣を構え、マモノに接近を試みるーーー
-最深部-
地下広間を動き回る芋虫状のマモノ
勇者
「しかし、なんとも近寄り難い…あの大きさ
あの体毛は?針で出来てるのか?
あの体格に轢かれたら痛いじゃ済まなそうだ」
勇者は冷静にマモノを分析する
勇者
「剥き出しの顔の部分を狙ってみるか」
体毛に覆われてない唯一の部分に
狙いを定める勇者
勇者
「背中のあの丸いブヨブヨはなんだ?
斬りつければ大人しくなるだろうか…」
勇者は分析を一旦中断させ
マモノの元へ近づく準備を進める
勇者
「よし、始めるか…」
勇者はゆっくりとマモノへ接近する
ーーー
マモノ
「グシュアアア」
勇者
「頼む、大人しくしててくれ」
勇者
「近くで見るとデカいな…
それに動きも遠くで見るより、はるかに速い…!」
勇者はそのスケールに圧倒されるも、覚悟を決めて先手を打ちにいく
「まずはあの丸いブヨブヨだ…!!」
ヒュッとジャンプし、背中のブヨブヨ目掛けて剣を振るう
ズバッッッ
ドピチュッという破裂音、ブヨブヨがしぼんでいく
マモノ
「アッグルゥアアア……ッッ!!」
瞬間、悲痛な叫び声をあげ
足を止める芋虫のマモノ
勇者
「よし!当たり…!動きが鈍くなった…!」
勇者は着地したあと
すぐさま顔を目掛けて切りつけにかかる
勇者
「!?」
マモノが方向を素早く変える
その反動で尻尾の部分が勇者の方へ勢いよく飛んでくる
勇者
「くっ!」
勇者は素早くその場から後方へジャンプして
尻尾を回避、壁に着地する
勇者
「あぶなかった…!薙ぎ払ってくるとは…」
マモノの突然の反撃に戸惑い、冷や汗を流すも
戦況を冷静に分析する
勇者
「だが動きは鈍くなった、あそこが弱点なのは
わかった、あとはあいつの動きに注意すればーー」
勇者が意気込んでいるその時、マモノの様子が何やら怪しくなる
勇者
「…?なんだ?背中のブヨブヨが…」
背中のブヨブヨがモコモコと膨らみ、やがて破裂
中から無数の幼体が飛び出てくる
勇者
「!? アレはーー」
ものすごいスピードで
勇者に覆い被さってくる幼体の群れ
勇者
「た、卵…!?」
勇者は全身を幼体に飲まれ、身動きが取れない状態に
勇者
「ま、まずい…息が…!くっくさ…!
体液?なんだ?溶かしてるのか…!?
イタッ…!食ってる、コイツら!!僕を……」
体の自由が効かず
絶体絶命のピンチに陥る勇者
「や、やはり…無謀だったか…
い、いくら…体が覚えてるとはいえ…
記憶を失っていなかったら、僕は戦えていたのだろうか…」
勇者は諦めたカオをして
覚悟を決める
と、その時
カッッッ
まばゆい光が全身を包む
勇者
「!!なんだ?!」
勇者はふと手に触れる感触に気づく
「これは…あの時拾った…」
握られていたのは球体状の物体
勇者は死を覚悟する寸前、無意識に強く握っていた
パァッッッと閃光のように
周囲を光が飲み込む
勇者
「動きが止まった…いや、これは眩しいのか…
あいつは?」
幼体達は眩しさにやられて
動きが止まっていた
そして親であるマモノの方も
勇者
「…チャンスだ」
勇者は剣を手に取り、マモノの群れを粉砕
そのまま親へ接近して、残りの卵を潰す
マモノ
「グルゥアアア!!」
マモノは閃光から解放され
また動き出す
勇者
「光の効果が切れたか…だが、動きはさっきより遅い!いける!」
勇者はマモノへ急いで近づき、顔めがけて剣を振る
ズバッッッ
マモノ
「ュブリュアヤアァアア」
マモノは声にならない声を上げたあと
ゆっくりとその場に崩れるように倒れる
勇者
「はぁはぁ…やった、仕留めた…」
ピクリとも動かなくなったマモノを見て
勇者は安堵するーーー
しばらくして勇者は身支度を整え
洞窟を後にし、村へと戻る…
-村-
村長
「す、すばらしい活躍!そなたはまさしく勇者だ」
村へ戻り、村長へ戦況報告をする勇者
「記憶を無くしているとはいえ
あのマモノを倒すとは、そなたの力はやはり
先天性のもの、神から授かったマコト勇者の力だ」
「村のみんなもそなたの活躍に感謝している
しばらくは祝福ムードが続くだろう」
「長話はこれくらいにして
約束のものを、こちらも渡さねばな」
ゴトっと宝石のようなものを机に置く村長
村長
「森のヒセキだ、どうぞ持っていきなされ」
勇者
「…!」
勇者はヒセキを手に取り、不思議そうにそれを見つめる
村長
「それをなんに使うかは、そなたに話した通り、記憶はなくても魔王復活はそなたでも十分阻止できるであろう」
「期待しておるぞ勇者殿」
やや興奮気味の村長
勇者は村民に挨拶を交わした後、村を後にするーーー
勇者
「森のヒセキ…」
勇者は歩きつつヒセキを眺める
勇者
「結局、記憶を取り戻すことは叶わなかった…
魔王復活…それらを解決すれば
いずれは取り戻すこともできるのかな…?」
「与えられた宿命があるのなら
僕だけにしか出来ないことがあるというのなら
とりあえず、やるだけやるしかないな……
まずは城だ、そこへ行けば次の手がかりが掴めるはず」
勇者は城へ向かって歩き出すーーー
勇者
「いずれにしろ止まれない
何も分からないまま終わるのは…」
勇者はヒセキをグッと握りしめ
静かに前進する
ーーー勇者の、記憶を追う旅が今始まった
勇者の記憶(完)