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(貧乏)男爵令嬢エムリーヌ・ホルベインの結婚~ワケアリ伯爵様と結婚することになったのですが私もワケアリなので溺愛はいりません~   作者: 澳 加純 


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07. 知識を蓄えておくことは無駄にはなりませんことよ

 翌日も伯爵様にはお目にかかれませんでした(これ、絶対放置プレイよね! ひどくない?)が、家令のリヨンの奥方様教育授業は続きます。

 

 午前中の課題は帳簿のつけ方だとか。



 食事の準備だとか、貯蔵品のチェックだとか、エールの醸造の仕方、糸紡ぎにろうそくや石鹼等の生活必需品の製造、針仕事、そんなことも奥方様のお仕事の内なのよね。その辺はホルベインのお母様の手伝いをしていたから理解できるのよ。


 でもね。ダンスに楽器演奏、古典学に語学力、地理学、天文学、数学……それって、ホントに必要なの?


「もちろんですよ。エムリーヌ様がこれから伯爵夫人として宮廷生活を送られる上で、必要な知識でありスキルです。貴族の令夫人たる者、これらの知識を巧みに話題に織り込み、サロンでの会話に花を咲かせるのも『教養』の内なのですよ」

「お茶を飲んで、微笑んでいればいいって訳じゃないのね」


「ええ、サロンでの会話はその人物の知性や人間性を測る物差しにもなっていますからね。知ったかぶりやいい加減なことを口にしようものなら、即座に品性下劣の烙印を押され爪はじきにされますよ」


 怖っ! なにそれ、酷すぎませんか。


「きらびやかな夢を抱いて宮廷生活に足を踏み入れても、手厳しい洗礼を受けて、影で涙を流す令嬢たちは大勢おります。彼女たちと同じ轍は踏まないように、お願いいたしますよ。あなたの失敗は、伯爵様の不名誉にもつながりますからね。

 エムリーヌ様はレンブラント伯爵夫人として、注目を浴びての宮廷デビューとなります。あそこには、目立つ人物につまらぬ悪戯を仕掛ける、(たち)の悪いお方々が数多おりましてね」


 それは妬み嫉みですかと質問したら、リヨンは意味ありげに口元を歪ませました。


「宮廷は伏魔殿。王宮に住まう魑魅魍魎どもから身を守るためにも、いつ何が役に立つかわかりません。学んだことすべてを実践できるとは限りませんが、知識を蓄えておくことが無駄になることはないと思いますよ。知識は腐りませんから」


 ひ~~! それじゃ、宮廷でドジったら、私はその魑魅魍魎たち(伯爵様含む)のイケニエにされちゃうの!?


「ええ、リヨンの言いたいことは理解できましてよ。でも(わたくし)の記憶力が追い付きませんの。努力は惜しみませんが、覚えることが多すぎて容量(キャパ)オーバーです」

「宮廷人たる者、つねに精進していかねばなりません」

「ですから。それが現在限界量に達したのだと、と申しております」

「もちろん大変なことではありますが、レンブラント伯爵夫人として、ここはがんばっていただきましょう」


 リヨンは満面の笑み。ドSぅぅぅぅ。

 

「お式まで日数も無いことですし。伯爵様が館にお戻りになる前に、花嫁としてふさわしい知識を、完璧に身に着けていただかねばなりません」


 だからって、こんな詰込み式、無理に決まっているでしょ!


「本来であればご婚儀のせめて1年前に館へお越しいただき、将来の奥方様として、時間を掛けて覚えていただけたらよかったのですが。今回のご縁談は突然降って湧いて、お式の日取りも急遽まとまったような次第ですからね」


 訝しげな顔つきでリヨンがこちらを観ています、たぶん。(前髪で眼つきははっきりとは見えないので。推測)

 そうです。上流貴族のレンブラント家と、貧乏田舎貴族(実情は平民と変わりない生活水準)のホルベイン家。この身分差婚は、どう考えたっておかしいんです。


 貴族の結婚は政治的ツールとはいえ、格差があり過ぎ。我が(ホルベイン)家は万々歳ですが、伯爵家には何のメリットもないのですもの。


 しかも驚きのスピード婚。おかげで宮廷では嫌がらせ陰謀説とか、授かり婚説とか、悪辣な噂が飛び交っているとか。田舎暮らしの私の耳にも届くほどだから、王都辺りでは、さぞかしかしましいことでしょうね。


「ええ。だから私も困惑しているのですわ」


 そこで扉がノックされました。今日も私に付き添っていたマルゴが扉を開けると、そこにはタバードという袖なしの外套(マントル)を着た男が立っております。あの青いタバードは、レンブラント家お抱えの騎士団の揃いの外套ですね。

 現在館の警護を仰せつかっているのは、赤い外套(マントル)の傭兵連隊ですから、あの騎士は伯爵様が滞在している領都アピガか、港街ペンデルからやって来た者。なにごとかしら?


 え、やけに詳しいって? お勉強の成果ですわ。


 呼び出されたリヨンは外套の男と何やら短い会話を交わしていたようですが、私には内容は聞こえませんでした。


「申し訳ございません。少しの間、席を外させていただきます」


 そう断りを入れると、彼は退出してしまいました。あらら。私とマルゴは顔を見合わせて何事かと首を傾げるのですが、答えが出る訳ではありません。

 机の上には、リヨンが置いていった帳簿が残されていました。


「エムリーヌ様、ご気分をリフレッシュいたしませんか? お茶をお持ちいたしますわ」

「ええ。お願い。記憶力の容量、とっくに限界突破しているんですもの」


 気の利くマルゴの提案で、小休憩を取ることにいたしました。

 お茶を取りに行くために、マルゴも部屋を退出。笑顔で見送り、彼女の姿が扉の向こうに消えるや否や、私は帳簿に手を伸ばしたのです。


「エムこん」へご来訪、ありがとうございます。


立派な伯爵夫人へのスパルタ教育開始です。

道は険しく遠そうですが、エムの興味は「帳簿」?


次回もお楽しみ。

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